産み月を目前に控え
ポムは少し風邪気味なのか
喉が痛かった
夏の暑さは妊婦にはきつく
いくら若いとは言え
体力も落ちたのかも知れない

昨日の夕方
歩いてすぐのウンスの屋敷に
遊びに行った時も
ちょっと咳き込んだ
心配したウンスは
すぐにテチュ茶(ナツメ茶)を
ポムに飲ませ
それから トラジの根と蜂蜜で
甘く煮詰めたトラジの甘露煮を
持たせてくれた


夏風邪はこじらせると
厄介だわ
消化のいいものを食べて
ゆっくり横になるのよ
典医寺から
生薬を届けさせるから


ウンスに言われたことを
思い出しながら
トラジの甘露煮を口に含んだ
甘さが口の中に広がった

そばには女中のソルリが
心配そうに控え
そこへウンスの使いだと言って
チェ家の使用人ミヒャンが
生薬を持って現れた


さきほど典医寺の奥様から
ポム様にと生薬が届きました
煎じてお飲み下さいとのことです


応対にでたソルリが礼を言うと


それからお言付けが・・・
奥様は今晩王宮のお邸に
お泊まりだそうで・・・
ポム様に今夜はゆっくりと
お部屋でお休みくださいとの
ことにございます


わかりました
ありがとうございます


ソルリが奥へ戻ると
ポムががっかりした顔で言った


なんだぁ〜
医仙様いないのでするね〜


そのように言付けが


じゃあ 今日は
大人しく寝てる


暑い陽射しを避けて
夕方少し涼しくなると
ポムはウンスの屋敷を訪れるのを
日課にしていた
ウンスから身体を動かすように
言われていたから
ちょうどよい散歩にもなった

ウンスが屋敷にいて会えるのは
三回に一回くらいだったが
ちょっと顔を見て
話をするだけでも
気持ちが落ち着いた

それにウンスがいなくても
ヘジャの美味しい料理を
お裾分けしてもらえるので
ポムにとってはウンスの屋敷を
訪れることは楽しみだった

夫チュンソクは昇進してから
集賢殿の仕事もこなすようになり
ますます忙しい
兄達や父親の王宮務めを
見て来ているから
仕方ないことだとわかっていたが
出産がものすごく
不安になることがある
そばにチュンソクがいない時
その気持ちを鎮めてくれるのは
やはり頼りになるウンスだった


今宵は旦那様
早く帰って来ないかなぁ〜


かりっとトラジをかじりながら
ポムは王宮の方角を
恋しそうに見つめた


━─━─━─━─━─


日が西に傾き
典医寺の務めを終えたウンスと
可愛いさかりのタンが
チェヨンの執務室を兼ねた
王宮の邸に帰って来ていた

奥の間の方から わずかに
ウンスとタンの笑い声が聞こえ
チェヨンはふっと頬を緩める


上護軍(サンホグン)
務めが終わるまで
医仙様と若様はお預けですよ


めざとくチェヨンを見た
インギュがからかうように
言った


う うるさい
当たり前だ
お役目第一に決まっておる


怪しいもんですが・・・


インギュは言い返す
チュンソクはそのやり取りを
垣間みながら
どことなく
ポムと医仙様のやり取りに
似ているなぁと思って
微笑んだ
やはり兄妹だと・・・


隊長 何がおかしいんです?


インギュは間柄で言うと
チュンソクの義兄だが
チュンソクのことを
隊長と呼んで一目置いていた


いえ なんだかポムに
似ていると思いまして


はあ?
どうして この二人は
なんでも嫁に結びつけるので
あろう?
のぅ モンジュンも
そう思うであろう?


インギュは
やれやれといった風で
肩をすくめ
問われた部下のモンジュンは
なんと答えてよいものか?
返答につまって慌てて
書き物をする振りをした

それから暫くして
人目を避けて
スリバンのジホとシウルが
屋根伝いに王宮に入り
集賢殿のチェヨンのもとへ
やって来た

倭国を出立した大掛かりな
倭冦の船の集団が
高麗へと向かっていると
情報を掴んだスリバンは
いち早くそれをチェヨンに
伝えに来たのだ

チェヨンは顔つきを
引き締めると
チュンソクやインギュと
倭冦討伐の軍備について
軍議に出す案を練り始めた


今宵は
上がりが遅くなりそうだ


インギュに気づかれないように
小さく呟いた


さてと 急ぎ
軍議の準備をすると致すか
チュンソク インギュ
よいな


はっ


━─━─━─━─━─


父上 まだかしらね〜


ネ〜〜〜


タンがくねっと
からだをかしげて
ウンスの真似をする


もう タンたら
真似っこね〜


ネ〜〜〜


うふふ
もういいわ


ネ〜〜〜


可愛らしい仕草のタンを
思わず抱き上げて頬ずりをした


ずうっと赤ちゃんなら
いいのに・・・
こんなに可愛い時代が
もうすぐ
終わってしまうなんて
寂しいわ


歩き出し歯が生えて来たら
もうすっかり幼児だ
それはそれで楽しみだが
赤ん坊の時代が去ってしまうのが
何処か寂しく思えた

ウンスが呟くと
気配なく奥の間にいた
叔母チェ尚宮がウンスに言った


だからしっかり
目に焼き付けておかねば
可愛いときはすぐに終わり
あっという間に ああなる


チェ尚宮は顎で
執務室の方を指して言った


ヨンとて赤ん坊の頃は
タンと同じように
可愛い赤ん坊であったのじゃ


うふふ
そうでしょうとも
タンを見ていると
わかりますわ 叔母様


チェ尚宮はウンスが
王宮の邸に泊まるときは
ヘジャもいなくて
不便だろうと
夕餉を女官に運ばせて
そのまま自分も一緒に
タンとひと時を過ごすことを
密かな楽しみとしていた
運ばれて来た膳を見て
ウンスが歓声を上げる


うっわ〜
さすが王宮
鶏肉じゃないですか?


ああ まあ
タンは鶏肉が好きだと
そなた
前に言っていたであろう?


叔母は気恥ずかしそうに
言い訳をした
そういえば・・・
ウンスは 
タンは参鶏湯が好きだと
叔母に言った記憶があり
微笑んだ


うふふ
叔母様 タンに
ほんとに弱いんだから〜
よかったね〜タン
ほら タッ(鶏)よ〜


蒸された鶏肉を前に
タンが ウンスの真似をして
タッ タッ(鶏 鶏)と 
はしゃいだ声をあげた

それを
目を細めて愛しむように
チェ尚宮は見つめている


夏が少し遠ざかり
奥の間を涼しい風が
吹き抜けて行った


*******


『今日よりも明日もっと』
子供達が幸せでありますように
笑顔で暮らせますように




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