ねえ   ヘジャ


厨房にふらりとやって来た
ウンスに
ヘジャはぎくりと固まった

ウンスがにっこりと
こう言って笑いかけるときは
たいてい驚くような
頼み事がある時だ

出かけていて夕餉の支度に
追われていたヘジャは
何事だろうかと訝る


ねえ    ヘジャ
夕餉はなあに?


はあ   出かけていたもので
煮込み料理は間に合わず
チェ尚宮様がいらしている
というのに
申し訳ございません


あら   それはいいの
叔母様はご馳走を
食べに来た訳じゃないから
で    どうするつもり
だったの?


魚を焼こうかと思いまして


そう   それから?


えー


あのね
バーベキューしない?


は?


だからせっかくの
休みだもの今から
バーベキューしましょう


ば?ばべばべ?


うん   ほら前に
お庭でやったじゃない
ヨンが戦に行った時に
スリバンのみんなも来てくれて
鶏肉を丸焼きにしたり
魚を焼いたりして
楽しかったわ
あれを天界では
バーベキューっていうのよ


はあ


昨日の鶏肉も
まだあるんでしょう


はい   参鶏湯の材料に
多めに
仕入れましたから


じゃあ   決まりね
今ならまだ明るいし
暗くなる前に
終わればいいもの
ソクテに東屋の近くに
火を起こしてもらって
あとは材料を切って
醤(ジャン)と塩があればいいわね
あ   野菜も切らなくちゃ
さあ   急ぎましょう!


はあ


そろそろテマンも帰って
くるから  みんなで食べよう


へ?ヘジャたち使用人も
でございますか?


当たり前じゃない
みんな家族みたいなもんよ
今日は通いの三人がいなくて
残念だけど
またやればいいわ   うふふ


急遽ウンスの発案で
決まったチェ家の
バーベキュー大会に
オクリョンもウォンも
興奮した


ヘジャおばちゃん
あたしこんなの初めて!
このお屋敷は
初めてだらけだわ


こんがり焼ける肉の匂いや
魚や貝の匂いが
チェ家の庭に充満する

兵舎から戻ったテマンは
チェヨンに
チュンソクからの
伝言を伝えてから
勇んで準備に加わった

東屋にはチェヨン
そしてチェヨンに
抱っこされ身動きがとれず
への字口のタン
土産に持参したペンイ(コマ)を
上手に操るチェ尚宮


叔母様   お上手ですね~
タンの目も
ペンイに合わせて
くるくる回ってるわ


ウンスが楽しそうに笑う


そうか?タンや
早うペンイも回せるようになれ
そなたの成長が楽しみじゃ
それにしても
まったくウンスには
呆れたものだの
チェ家の庭で野営とは


チェ尚宮はウンスに
上手だと言われ
まんざらでもない
表情であったが
一応小言を言うのを
忘れなかった


イムジャは言い出したら
聞かぬ火のような女人
止めても無駄なことくらい
叔母上も知っておるだろう?


チェヨンはウンスを
愛しむように見つめ
まだ陽があるうちから
珍しく酒を呑み始めた


うふふ   私のこと
よくわかっている
さすが旦那様
それにやっぱり旦那様は
すごいわ
タンにハイハイを
させちゃうんだもの
うふふ


あうあうあ~~


うんうん
タンも頑張ったね
えらいえらい!


ヘジャとソクテは
時々互いにちらっと見ながら
忙しそうに手を動かし
肉や魚を焼いている


そろそろよろしいかと


ヘジャがチェ尚宮の前に
焼けた肉や口の開いた貝を
とんと置いて言った


賑やかでございますねぇ


ああ   賑やかじゃ
あの嫁が来てから
チェ家はいいこと尽くし
あとはタンの兄弟が
おれば言うことはないが


あら!それは
旦那様との共同責任よ


ウンスが口を尖らせ
反駁したので
チェヨンは飲みかけの酒を
吹き出した


イムジャ!


まあ確かにそうじゃな
ヨンア気張れよ


チェ尚宮がけしかける


ならばせっかくの休み
早く二人にしてくれ!


チェヨンはボヤき
それもそうだと
チェ尚宮は高らかに笑った
ウンスはそんな二人を
気にせずにヘジャに言う


ヘジャ   おなか空いたわ
私にも
お肉を取り分けて頂戴


はい   ヘジャにお任せを


たくさん食べて
美味しいお乳をあげるわね


ウンスがチェヨンの横に
腰を下ろし
タンを見て微笑むと
タンがきゃっきゃと笑った


イムジャが言う共同責任
今宵きっちり果たすとしよう


チェヨンはみんなに
聞こえないように
ウンスの耳元に
囁くように告げ
ウンスは頬を少し赤らめて
小さく頷いた


はい   奥様   
お肉にございます
それにしても奥様
賑やかな
夕餉になりましたねぇ
チェ家は今日も
安泰にございます


ヘジャが
万感の思いを込めて
皆を見渡しそう言った


*******


『今日よりも明日もっと』
チェ家は安泰にございます




☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


菖蒲月に寄せて

菖蒲月と書いてアヤメ月と
読みますが
もう一つ
ショウブ(勝負)の読みも
掛けて書き進めて来ました

それぞれが一歩踏み出す
きっかけになるような
勝負の月を描けたらいいなぁと

引っ越しもありましたし
公主様の乳母問題や
ヨンファの跡取りの悩み
お腹の大きなポムの様子
ヘジャとソクテの恋模様
チェヨンの文官就任
タンの成長
そしてウンスの医者として
母として妻としての頑張り
また
新しくお話に加わった
オリキャラなどなど
いろんな出来事が
彩りを添えてくれました

お話の高麗の世界でも
もちろん
リアルなこの世界でも
一つとして同じ人生が
ないように

それぞれの生き方を
大事にしながら
またお話を紡いでいけたら
いいなぁと思っています


いただくコメやメッセや
いいねに
随分と励まされたり
癒されたりしながら
「菖蒲月」を
お届けすることが出来ました
皆様
ありがとうございました
また
おつきあいくださいね

6月も
安寧にお過ごしくださいませ