育児園は建物が増え
日増しに預かる子供の数が
増えているようだった

ジュヒの息子コハクのように
日中 母親が養育できない
一時預かりの棟と
昔のヨンファのように
身寄りがない子供の棟と
居住空間こそ別れているが
広い園庭を自由に遊び
同じ大広間で同じ釜の飯を食べ
子供達は健やかに育っていた

育児園の運営者の
豪商チャン・デホの娘
キンスはヨンファの申し出を
快諾した


ちょうどようございました
書堂(ソダン)のような
施設を作りたいと
考えていたんでございます
この子達にも文字を読むこと
くらいは身につけさせて
やりたいじゃないですか
ここでは女だからと
ソダンに入れぬってことも
やめようと思っているんです


それはいいわ
女だから文字はいらないって
いうのは おかしな話よ
私も漢字があんまり読めないから
習いに来ようかしら?


ウンスが笑っていった


また お戯れを


キンスが笑う


まあ 冗談はさておき
先生が女人であれば
おなごも習い易いはず
ヨンファ様はうってつけに
ございます


うんうん
そうよね
よかったわ
断られたらどうしようって
思っていたから


わたしが医仙様の
お口添えをお断りするはず
ございません
それに本当にこちらも
願ったり叶ったりに
ございます
ですが 寄付で賄われて
いるような民の施設
お給金は
あまり差し上げられず・・・


申し訳なさそうなキンスに
ヨンファは
にっこり笑って言った


もちろん
お給金はいりません
子供達の役に立てるのが
うれしいんです
夫もそれでよいと
言ってくれてますし


まあ なんと有り難い
ほんとうによろしいんで
ございますね
そう言うことでしたら
こちらとしては
今すぐにでも働いていただき
たいくらいです


うふふ ボランティア活動
ってわけね
あ キンスさん
でも お屋敷の奥様家業を
優先させてあげてね
郡守の奥方ともなれば
陳情もあるし客人も来るから


ウンスも申し訳なさそうに
キンスに頼んだ


ぼらぼら?
なんだかよくわかりませぬが
それで ようございます
子供達に手習いを教えたり
武芸の心得なんぞ
教えるのも
いいかも知れませんねぇ
それに
身寄りのない子供達の棟も
人手不足ってことに
変わりはありませんから
どんどん手助けして
頂きたいですよ


キンスはヨンファに
そう頼んだ


私で出来ることは
なんでもお手伝いいたします
どうぞよろしくお願いします


ヨンファは頬を紅潮させて
キンスに言った


きっといい先生になるわ
ヨンファ先生!


からかわないでください
医仙様


ヨンファが恥ずかしそうに
俯いた
園の子供達が寄って来て
ウンスとヨンファを
取り囲む


ねえ 遊ぼう
遊ぼう!


子供達の笑い声や
赤ん坊の泣き声が聞こえ
ウンスは屋敷のタンを思った

ウンスは
早速 奉仕をしたいと言う
ヨンファをそこに残して
急ぎ屋敷に戻ることにした


ヨンファ
また屋敷にもそれから
典医寺にも遊びに来てね
キンスさん
子供達の検診にまた伺うわね
じゃあ 悪いけどヨンファ
輿と私兵をお借りして
私はお先に失礼するわね
叔母様も屋敷に見えるって
言ってたから


チェ尚宮様が?
どうぞよろしくお伝えください
いずれまた
ご挨拶に伺いますので


ヨンファは
深々と礼をして言った


━─━─━─━─━─


さあて 何を食べようかね


饅頭屋を見つけて
これを買って帰ったら
奥様は喜ぶだろうかと
ヘジャは微笑んだ


なに?
お饅頭?


オクリョンが聞いた


ああ 饅頭もいいね
奥様がお好きなんだ
帰りにお土産にしようか


うん


それから四人は手頃な
飯屋に入った
ソクテは
酒とあぶった魚を頼み
ウォンとオクリョンは
クッパを頼んだ


なんだい 
クッパでいいのかい?
今日は少しぐらい
贅沢したって構わないのに


ううん こうやって
飯屋で食べれるだけで
うれしいの
だって
来たことないんだもの


オクリョンは
控えめに言った


お おらも
たまにヒョン(兄)
に連れて来て
もらうけんど
今度オクリョンちゃんも
一緒にってヒョンに
頼んであげるだ


ヒョン?ああ
テマンさんのことね
本当の兄弟なの?


いんや 
おら 戦で親も兄弟も
みんな死んじまって
ヒョンに拾われただ


そうだったのね
テマンさん 優しいもの


微笑むように言った
オクリョンの頬が
赤らんでウォンは
なんだか胸がざわついた

そこへ料理が運ばれて来た
人の良さそうな
店の女主人が
仲がいい親子だねえ と
四人に言った


親子だって
じゃあ 
オンマはヘジャおばちゃんで
アッパはソクテさんだね


オクリョンがおかしそうに
笑ってヘジャを見た


こら! オクリョン
余計なこと言ってないで
さっさとお食べ
まったく いつからそんなに
おしゃべりになったんだい


ヘジャは困ったように
ソクテを見た
ソクテは手酌でゆっくり
旨そうに酒を呑んでいる


かまわないさ
そう見えるんだから


ソクテがぼそっと
酒を見つめながら答え
ヘジャはなんだか
注文したご飯が
思った以上に
美味しく感じたのだった


この味付けを真似して
みようかね


野菜の煮付けをつまみながら
ヘジャが独り言
ソクテはそれを聞いていた

飯屋を後にして
ウォンはオクリョンと
小間物屋を覗いている
ヘジャとソクテも
それに続いた


ヘジャさんのが
旨い


へ?


野菜の煮付け


なんだい
今更褒めても酒の追加は
できないよ
あれくらいで
まさか 酔ったのかい?


ヘジャは照れたように
言い返した
小間物屋の店先では
オクリョンが綺麗な簪を
手に取って 見つめては
ため息をついて元に戻した


どうしたんだい?
オクリョン


ヘジャおばちゃん
何でもないの
あっちに行こう


オクリョンが
ヘジャの手を引いて
店を出た


お おらも行く
待ってけろ


ウォンが慌てて追いかけた


もうたっぷり市見物はしたし
お饅頭を買ってそろそろ
お屋敷に戻るとしようかね
夕餉の仕込みもあるしね


ヘジャはオクリョンに告げた


うん 楽しかったわ
また来れるかな?


そうだね 
また来れたらいいね


あのね ヘジャおばちゃん
お給金をためて
いつか 母さんに
あの髪留め
買ってあげたいなって


さっき見ていたやつを
姉さんに?


うん
だって母さんあんな
綺麗な簪
持ってないもの
ヘジャおばちゃんの
その簪を見てそう思ったの


ヘジャが差している
ウンスから贈られた
真珠の飾りがついた簪を
指差した


ああ これは奥様に
いただいたんだ
オクリョンはいい子だねえ
姉さん 泣いて喜ぶよ
いつか そうしておやり


うん


オクリョンは元気に答えた
ふとヘジャは
そういえば 自分は
母親に何か贈り物をなんて
今まで一度も
考えたことはなかったと
ヘジャは思い返す
よっぽど奥様の方が
母親に贈り物をしていると
苦笑した

母ソンオクは背筋がぴんと伸び
かくしゃくとしていて
口やかましいが
奥女中としては尊敬していた

だが 実のところ
どうにも母ソンオクが
ヘジャは苦手だった

ソクテと別れ
別の男に嫁いだことを
ずっと心の何処かで
ソンオクのせいに
しているのかも知れない
だから 
ソンオクと会うと
ぎくしゃくするのだと
その時ヘジャは
自分の心のうちに
初めて気がついた


ヘジャさん
どうかしたかい?


曇った顔をしていたのか
ソクテが心配そうに
ヘジャの顔を覗き込む


いいや なんでもないよ
さて 帰ろうか
きっと奥様がお腹をすかせて
待っているさ


そうさな
帰ろう 屋敷に


ソクテは優しい目をして
ヘジャを見つめた
一緒に帰る場所がある
そのことが
ヘジャの心を暖かくした


━─━─━─━─━─


ウンスは屋敷に着くと
表の門から急いで
奥へと向かった

奥の間の扉の前には
タンを抱っこした
チェヨンがいて
ウンスを待っていた

今にも二人のもとへ
走り出しそうなウンスを
チェヨンが制した


そこで待ってろ 
イムジャ


え? なんで?


早く二人に
抱きつきたいウンスは
うずうずと尋ねた

チェヨンはタンを
廊下にそっと降ろす

端から端まで
結構な長さのあるその廊下を
上手に四つん這いした
タンが てててててっと
ウンス目がけて
ハイハイを始めた

小さい手足で懸命に床を這う
おしめでふくらんだ
可愛いお尻がふりふりと
揺れている


タン! すごい!
どうしたの?
ええ~ヨンが教えたの?


ウンスのはしゃぐ声がした
そして
ウンスはタンの目線に
合わせるように
廊下にじゃがみこむと
タンを待った

タンが 途中疲れて
ぐたっと倒れ込むと
諦めるなと後ろから
父親チェヨンの声がする
ウンスは
駆け寄り抱き上げたいのを
じっと我慢してタンを待った
後ろの方では拳を振って
チェ尚宮が
タンを見守っている

誰も助けてくれないとわかると 
タンはまたハイハイを始めた

てててててっ

ようやく辿り着いた先には
大好きな母上がいた


あああ~~~


よ~し タン
えらいぞ


チェヨンが
後ろから駆けて来て
タンを抱き上げ 
ウンスに渡して
二人を抱きしめた


鍛錬の成果だ


うふふ さすが父上
鬼の鍛錬だもの
息子にも容赦ないのね


ああ 息子だから
なおのこと


ウンスと額をくっつけ
チェヨンが言った


恋しがってたぞ
母上のこと
もちろん 俺もな


うふふ 私も早く二人に
会いたかったわ


あうあうあ~


後方で こほん!と
咳払いが聞こえた


そこの戯けた夫婦
いつまでそうして
じゃれておるのだ
私もいるのだ
まったく 大概にせよ


そう言うチェ尚宮の顔は
笑顔に満ちていた


ただいま戻りました
奥様!


弾んだヘジャの声がする


あら 
みんな帰って来たわ
賑やかになるわね


ウンスはチェヨンの
腕の中から
抜け出ることも忘れて
叔母チェ尚宮の方に
首を回すと澄んだ声で言った


叔母様 
夕餉を召し上がって
いってくださいね
ヨンファのことも
ご報告したいですし


ヨンファのこととな?


チェ尚宮は首を傾げた


はい いろいろあったの


ウンスはふふふっと笑った
チェヨンは
その美しい笑い顔を見て
辺りが急に輝いて見えるのは
妻ウンスが
此処にいるからだと
恋しい妻をもう一度ぎゅっと
抱きしめ言った


お帰り ウンス
待ってたぞ


あう~あうあ~


*******


『今日よりも明日もっと』
新しい一歩は
次の一歩に繋がり
その先に道が続いて行く



☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


今日で五月が終わります
なんとも早いですね

「菖蒲月」をお読みいただき
ありがとうございました

五十話にまとめようと思い
またまた長くなりました
ミアネヨ~ m(_ _ )m

ヘジャとソクテの恋
ヨンファのその後
新しい屋敷の暮らしや
タンの成長
もちろん 文官チェヨンの
働きっぷりなど
気になることが満載ですが
サブタイトルを改めまして
またお届けしたいと思います

そして 
休日の夕餉の様子のお話と
所感をまとめた
「菖蒲月に寄せて」を
アップする予定ですので
よろしければ
また
おつき合いくださいませ



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