朝風呂に浸かり
朝餉をのんびりと食べてから
ウンスは出かける支度をした

まだ少し濡れている髪の毛先を
上手に結わえて
チェヨンに贈られた翡翠の簪で
きゅっと留めた

色気のある白いうなじは
チェヨンの視線を釘付ける


イムジャ
首を出して行くのか?


ええ
髪を洗う暇はなかったけど
髪の先が濡れちゃったから
こうしてまとめようと
思って


それはならぬ
下ろして行け
他の奴にその首
見せてやることはあるまい


チェヨンがちょっとだけ
怒ったような顔をした


ヨンが吸った痕が
残ってるもんね


ウンスは昨夜の痕跡のことを
言っているのだと思って
からかうように言い返した


それもそうだが


気にすることないわよ
たいして目立たないもの


そうではなくてだ


ん?


チェヨンは真面目な顔をして
ウンスに言った


イムジャのその細い首筋を
人に見られるのが嫌なのだ
俺だけでよかろう 
見る相手は


チェヨンの可愛い悋気だと
わかって
ウンスは微笑んだ


誰も気にしないのに
私のことなんて


ば 馬鹿を申せ
男どもはみんなイムジャに
惹きつけられておる!


うふふ
はいはい
そう思ってくれるのは
旦那様のヨンだけよ


ウンスは
うれしそうに微笑みかけ
下ろした髪を半分だけ
すくって結い上げ
お団子にまとめた部分に
簪を挿した


これでいい?


ああ 
とチェヨンは頷いた


いつもの典医寺の衣ではない
紅桔梗色のチマに
綺麗な薄紫のチョゴリを合わせ
薄化粧をしたウンスの出で立ちは
艶やかで気品に満ちていた

息子のタンは
いつもとちがう母親の姿に
そわそわとしている


ねえ ほんとに
大丈夫?
ヘジャもいないのよ
屋敷にはヨンとタンだけ
やっぱり 
行くのをよそうかな?


今更 何を言う
善は急げと言うではないか
ヨンファ殿のことを
イムジャも気にしておったで
あろう?
イムジャの次の休みまで
待つことはない


うん・・・
でもなんだか心配で


心配いらぬ
男同士仲良くしておるから


チェヨンはタンを抱き上げて
笑いかけた
なんとなくウンスに
置いていかれることがわかり
タンはいまにも泣き出しそうな
顔に変わった


いいから行って来い
そのうち
叔母上も来るであろうし


うん 大丈夫かな?


ああ せっかくタンに
会いに来るのにそのタンが
出かけるわけには
いかぬであろう?


それはそうだけど・・・
こういうときに
スマホでもあれば
すぐに連絡が取れて
便利なのになぁ


ウンスは
天界の便利道具を思い浮かべる
その時 表からヨンファの声が
聞こえてきた


ごめんくださいまし


ああ 来ちゃった
じゃあ 本当に行くわよ
タン 父上と一緒に
いい子でいてね
なるべく早く帰るからね


タンの目には
見る見る涙がたまり
一生懸命手を伸ばしている
チェヨンはその様子を
ウンスに見せないように
ささっとタンを庇うと
もう一度「行って来い」と
ウンスに言った
ウンスは後ろ髪引かれる思いで
ヨンファとともに
屋敷を後にした


さあて タン
母上は行ってしまったぞ
泣いても もうおらぬ
父上と遊んで待っていような


あうう~あううう~


切なそうなタンの泣き声


しょうがない奴だな
そんなに母上が・・・
恋しいな


チェヨンはタンをぎゅっと
抱きしめて言った


ばぶぅぅ ばぶぶ


タンは
チェヨンの衣をぎゅっと
握って くてっと頬を
チェヨンの胸に寄せた


母上が恋しいのは
俺も同じだ
一緒に待っていような


チェヨンは優しい眼差しで
息子を見つめた 
くぅんとタンは
小さな鼻先をチェヨンの
肩に擦り付けて
甘えるような顔をしている

チェヨンはこみ上げる
甘酸っぱい気持ちで
タンの頬にちゅっと口づけた

それからチェヨンは
奥の間の卓を移動すると
タンを床に降ろして座らせ
タンに向かっていきなり
こう言った


タン 鍛錬の時間だぞ
よいか 
ハイハイの特訓だ
そなたのは ずり這いで
へっぴり腰に見えるゆえ
母上が戻るまでに 
上達して驚かせてやろうな


あうあうあ~


チェヨンはいきなり
自分が四つん這いになると
タンの前でとことこと
「こうするのだ」と
ハイハイをしてみせた


あううう


床に座って
タンは不思議そうに
チェヨンを見る


床を蹴って移動するから
いつまでたっても
腰に力が入らぬではないか
全身を使って
四つん這いで動けるように
鍛錬せねばならんぞ


チェヨンはタンを持ち上げ
四つん這いの姿勢を
とらせてみる
タンは すぐに
ぐたっと腹這いになってしまう
チェヨンは諦めずに
またタンを持ち上げ
四つん這いにし
タンは またすぐ
楽な姿勢へとくたっと転がる


よいか タン
楽なことに逃げるではない
四つん這いのほうが
早く移動出来るであろう?
それにこれが出来たら
母上が喜ぶぞ
ほら がんばれ 諦めるな


チェヨンとタンの我慢比べは
こんこんと続き
飲み込みの早いタンは
いつしか上手に四つん這いの
姿勢がとれるようになった
ぐっと手足で踏ん張り
勇ましい子犬のようなタンに
チェヨンは目を細めた


いいぞ タン
その調子だ


チェヨンはタンのお気に入りの
クマのおもちゃを
タンの鼻先にかざし
少しずつ 後ろへ下がると
おもちゃに釣られて
タンがゆっくりと手と足を
前へ前へと動かし始めた


よし そうだ
タン 上手だな


とことこと危なげに
自分の方に向かって
ハイハイをして来たタンを
チェヨンは抱き上げて
頬ずりをした


さすが 俺の子
飲み込みが早いぞ


すっかり汗ばんでいるタンに
気がついたチェヨンは
ウンスが用意して行った
タンが好む菊花茶
(クックァチャ)を 
大きめの匙ですくって
上手に飲ませた
喉が渇いていたと見えて
ごくごくよく飲んだ


あ~~ん あ~~~


泣き声が混ざったような
タンの訴えに
チェヨンはおしめが
濡れたのだと思い
慣れた手つきでおしめを
替えた


タンのおしめ替えは
生まれたときから
この父もやってきたのだぞ
母上よりの上手であろう?


チェヨンはタンに笑いかける
お尻が綺麗になって
手ぬぐいで汗も拭ってもらって
タンは上機嫌で床に転がった
その隣にチェヨンも転がった

寝転びながら
タンには部屋の中が
こんな風に見えるのかと
辺りを見回した

飾り棚の上には
小さな青磁の花器に
ウンスが生けたアヤメの花が
飾られている
その隣には 見覚えのある
螺鈿細工の小さな小箱が
置かれていた

その中には 
かつてのちびヨンが
せっせと集め母親に贈った
綺麗な小石が収まっている


いつかタンも
ウンスを喜ばせたいと
俺のように
庭の石を拾うであろうか?


そんなことを思いながら
遠い記憶と目の前の息子を
思うと
胸の奥がくすぐったい
気持ちになった

疲れたタンは床の上で
そのまま寝てしまい
チェヨンは上着をタンに
かけて タンのおなかを
とんとんとあやした


━─━─━─━─━─


まだ 少し早かったで
あろうかのぅ?


叔母チェ尚宮はチェヨンの
屋敷の前に立ちそう呟いた
太陽はまだ真南に
昇り切っていなかった

表門には二名の衛兵が
手持ちぶさたに立っている
今日はチェヨンが屋敷に
いるので警護は形ばかりの
この者達だけのようだった

衛兵はチェ尚宮の姿を見ると
ぴしっと立ってそれから
礼をした


ご苦労


チェ尚宮は声をかけると
奥へと進む
出迎えもなく
屋敷の中は妙に静かだった


なんじゃ ヘジャも
出かけておるのか?
では本当にまさか
まだ二人とも閨におるのでは
なかろうなぁ


チェ尚宮は困ったような
顔をして勝手知ったる
屋敷の奥の間を覗いた


なんとまあ!


チェ尚宮の顔に
いつもは決して見ることが
出来ない柔らかな微笑みが
浮かんだ

奥の間の床には
甥のチェヨンと
その息子のタンが
おでこをつき合わせて
昼寝をしていた

すうすうと聞こえる
二人の寝息に耳を澄ませ
チェ尚宮はなんとも
幸せな心持ちになった


*******


『今日よりも明日もっと』
手の中の宝物がふえていく
それがなんとも心地よい





☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


ウンスが出かけてしまい
ヨンがタンのお世話をして
男同士でお留守番する様子
とリクエストを頂きました

★とうがらし様
リクありがとうございました
遅くなりましたが
お楽しみいただけたら
うれしいです

やっぱり息子にも鍛錬の父
でもとってもお世話上手で
優しいチェヨンでした (///∇//)


☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


さて ヘジャ達のお出かけは
どうなっているのでしょう?

リアルでは 今日は月曜日
また一週間が始まりましたね
高麗ではもう少し
お休み日和が続きます

次回また
おつき合いくださいませ



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