きらきらした瞳のポム
こういうときのポムの
おしゃべりが止まらないことを
ウンスは知っていた


ヘジャ
いつの間に恋をしたでする?
ねえ ヘジャってばぁ


口を割るまでどこまでも
追求しそうなポムの勢いに
ヘジャは辟易としていた


まあまあ
いいじゃない ポム
秘めた恋も素敵でしょう?


ええええ
道ならぬ恋?なのでするか?


違います!


ヘジャが大きな声で
返答してからまた赤くなって
俯いた


ヘジャったら 
かわゆいでする


ポム 目上の人に失礼よ
ごめんなさいね ヘジャ


いえいえ
それは構いません
ポム様の言い方はどことなく
微笑ましゅうございますから


うふふ 本当ね
ポムは得な性格だわ


ウンスは笑って頷いた
その気高く美しい女主人を
ヘジャは見つめた 
そして
我が身を振り返り
あまりにも大違いだと
ひっそり ため息をついた

旦那様に心底惚れられて
毎夜 美しく磨かれて
女としても自信に満ち溢れている
ウンスの横顔が輝いて見えた
せめて自分がもう少し若かったら
そんな思いに囚われるヘジャ


ヘジャ どうかした?


沈んだ表情に見えたヘジャに
ウンスが尋ねた


いえ なんでもございません
ただ・・・


なに?どうしたの?


お二人とも美しく若々しく
旦那様達が夢中になるのも
当然だと
ヘジャはもう
年を取りすぎました


やだ~ヘジャ
照れるでするぅ~


ポムの話を聞き流して
ウンスはしみじみとした
口調で ヘジャに言った


年を取るのは自然の摂理
だから 仕方ないわ
だけど
どう年を重ねるかは
その人次第よ
ヘジャは まだまだ若くて
それに綺麗だわ
あのね 年だっていうけど
確かにこの時代なら
ヘジャくらいの女の人には
みんな孫もいる頃だけど
でもね 天界でヘジャの年なら
まだ現役ばりばりで
女盛りなんだからね


な な なにを
お戯れを!


ヘジャは汗が噴き出した


ほんとでする
ヘジャはお肌は
もちもちして見えるし
愛嬌のあるお顔でする
それに何よりよく気がついて
優しいでする
ポムはヘジャが好きでするよ


あら ポムの告白ね
うふふ
そうだ!
いいこと思いついたわ
ちょっと待ってて
タンをお願いね


ウンスはタンを
ヘジャに預けると 
いそいそと
自分の衣装部屋に向かい
すぐに
いくつかの口紅を持って
戻って来た


ねえ ヘジャはいつも
すっぴんでしょう?
それはそれでいいんだけど
たまには これくらい
いいでしょう?


すっぴん?


ええ 
化粧をしていないって
ことよ
私も此処へ来てからは
ファンデーションを塗ることも
なくなったわ
それはそれで お肌の調子も
悪くないけどね


ふぁふぁ?
なんでする?それ?


ポムは不思議そうに聞いた


天界のお化粧品の一つよ
でもこの時代には
必要ないものかも知れないわ


ウンスはそう言いながら
綺麗な赤い色の口紅を選ぶと
薬指につけて
ヘジャの口元に近づけた

「とんでもない」と
恐縮して逃げようとする
ヘジャだが
タンを膝に抱いているので
じたばたも出来ず
とうとうウンスの薬指についた
紅はヘジャの唇に乗せられた


まあ 似合うわ
ぱっと花が咲いたみたい


ウンスは満足げにヘジャの前に
手鏡をかざした
映りの悪い高麗の手鏡でも
ヘジャの顔色が
明るくなったことが見て取れた


うんうん いいでするぅ~
いいな~医仙様
ポムも塗って欲しいでする


うふふ いいわよ
でもポムにはもう少しピンク
えっと 桃色の方が似合うと
思うの


ウンスはポムに似合いそうな
淡いピンクの口紅を
ポムの唇にそっと差す


なんだか どきどきするでする
旦那様以外の人に
唇に触れられて~しかも
その相手が医仙様だなんて
照れるでするぅ~


いやね ポム
なんだか
変な意味に聞こえるわよ


ウンスはくすっと笑った


もうとっくに天界の口紅は
手元にないウンスだが
知り合いの妓楼の女将が
時々 仕入れてくれたり
王妃様から
頂いたりした西域の口紅は
案外 質も良かった
それにウンス自身
見よう見まねで化粧品を
作ってみたりもしていた


少し使っているけど
ヘジャにその紅あげるわ
明日 つけて出かけてね
私も今夜はいつもと違う
紅を差して
帰りを待っていようかしら?


ウンスはふふっと笑った


えええ ずるい~
ポムも欲しいでする


うふふ 
ポムは急がないんだから
ポムの分も 今度新しいのを
買っておくわね


本当でするか?
楽しみでする でも・・・


どうしたの?


ポムばかり 悪いでする


ポムが
小さな声で言った意味を
ウンスは悟った


うん
ヨンファの分も
用意しておくわね


さすが!医仙様!
楽しみが倍増したでする


優しいポムの心に
ウンスはほのぼのとし
ヘジャは鏡を見つめたまま
なかなか動かなかった


うふふ ヘジャ
綺麗でしょう?
明日はおめかしして
出かけるのよ


やっと口を開いたヘジャは
静かにウンスに尋ねた


奥様は チェ尚宮様から
ヘジャとソクテさんのことを
何か伺ったのですか?


そ ソクテ?
誰でする?ねえ 医仙さ~ま~


ポムが身を乗り出して
尋ねて来た
ウンスは首を振ると
ポムを制して
ヘジャに言った


ソクテが来てから
様子がおかしかったから
気になって
それで叔母様にちょっと
聞いてみたの
行き違いで
すれ違ったご縁だったと
伺ったわ
ソクテさんは 
あの時 自分が怪我をさせた
女の人を放っておけなかったの
だからその人と結婚したのよ
その原因がヨンにあるなら
なおさらでしょう?
忠義者で余計なことは
言わない男の人だから
お互いに誤解もあったんじゃない?


そうでしたか・・・


ヘジャは遠くを見つめ
ポムは
そこに流れる空気を感じて
静かになった


あのね
やり直すとかやり直さないとか
そういう風に考えないで
ゆっくり
見つめたらいいと思うの
彼のこと 一人の男として
どう思うのか?
自分の気持ちをね・・・
お互いに いろんな人生を
送って来たんでしょうから
この先 
一緒に生きていきたい相手か
違うのか?考えてみたらいいわ
私はね ヘジャが
どういう生き方を選ぼうと
応援してるからね


事情が分からないポムが
なぜか 泣いていた


どうしてポムが泣くの?
困った子ね


だって~なんだか
胸にせまる想いがぁ~


うふふ そういうところが
ポムのいいところよね~


ウンスは微笑んだ


あうあうあう~


その時
タンが急に腕を伸ばして
ウンスに抱っこをせがんだ


タン おいで


ウンスは優しい母親の
表情に戻ってタンを見つめ
ヘジャの膝の上から
抱き上げると
愛しい息子に頬ずりをする

ウンスのふんわりとした
いい香りにタンは包まれていた


━─━─━─━─━─


一方 王宮で急に
文官の役職を仰せつかった
チェヨンは 
涼しい顔のパク・インギュに
いらいらしながら言った


なぜ 兵舎の部屋では
執務が出来ぬのだ?


あそこはウダルチ兵舎
大護軍でありながら
あの一室に
留まっていること自体
本来ならばおかしな話
なれどそれは良しとしましょう
いかにも あなた様らしいゆえ
しかしながら 任期が決まって
いるとは言え 
あなた様は今日から
高官でもあるのです
執務室を構えて 下のものに
指示を出すのは当たり前では
ありませぬか


断る
今までも 兵舎でなんの
不自由もなくやってきた
こんな王宮のど真ん中の
文官ばかりが集まる建物に
落ち着いていられるか?


大護軍
いつまでそうやって
自分の能力をお隠しになるのです
あなた様がどれだけ知恵者で
政にも長けているか
某が知らぬとお思いですか?
公主様の宴が終わるまでは
諦めてくだされ


まったく お前と来たら
いや お前ら兄妹ときたら
俺達夫婦に
何か恨みでもあるのか?
頃合いを見計らっては
いつも
邪魔されている気がするぞ


チェヨンは深くため息をついた
まったく やってられん
顔中にそう書いてあった


*******


『今日よりも明日もっと』
紅差し指にほんのりと
残る紅はあでやかで
女の私が其処にいる



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