すっかり日も暮れ
そろそろ星がまたたきはじめていた
客間に通されたキム・ドクチェは
まずは急に訪問した非礼を詫びた


ううん いいのよ
ヨンファに会いたいと
思っていたの
今夜はね 参鶏湯を作ったのよ
二人も食べていってね


ウンスは微笑んだ
チェヨンは
いささか むすっとしたまま
キム・ドクチェを見る
ドクチェは
チェヨンをまっすぐに見て
祝いの言葉を述べた


大護軍 この度は
尚書省の特別尚書(サンソ)に
ご昇進誠におめでとうございます


え?何?昇進?
ヨン 出世したの?
いつの間に?
まああ~ すごいじゃない


ウンスははしゃぐように
膝の上にタンを抱っこしたまま
手を叩いた
タンも楽そうに自分の手を叩く


タン 父上がご出世されたのよ
しゅごいわね~


あうあうあ~ばぶぅ


大したことではない
公主様の祝賀の儀を
執り行うことになったまで


あれ?今までも責任者じゃ
なかったかしら?


それは宴のみ
此度は祝賀の儀すべてを
任されたのだ
それにしても耳が早いな


はっ
王宮は噂で持ち切りに
ございます


ウンスは自分の知っている
高麗の歴史を思い返した
いずれチェヨンは
文官の最高位に就くはず
やはりどんなに未来が
変わろうと
必要とされる人は
歴史に必要とされるのだと
まじまじと夫を見た
自分の知っているチェヨンは
強くて    頼りになって
いい夫で いい父親
でも時々
駄々っ子みたいに甘える男
そんなチェヨンが
なんだかものすごく
愛しかった


若様 
随分と大きゅうなられて


ヨンファがタンの様子を見て
急に横から口を挟み
ウンスははっとした


うふふ   そうなの
子供の成長は早いのよ
昨日できなかったことも
今日はできるようになるもの
それにしても ヨンたら
どうして帰ってすぐに
言ってくれないのよ
最初に
お祝い言いたかったのに


ウンスは拗ねるような
声色を混ぜて
チェヨンに言った


なりたくてなった訳ではない
面倒なだけだ


ああ ヨンの悪い癖
すぐ面倒だって言うんだから
うふふ


ウンスは笑って見せた


尚書になど
なりたくても
成れぬ文官が多い中
それをいとも簡単に
成し遂げてしまうとは
いやはや 感服いたします


うふふ
そうなの?
まあ ますますうれしいわ
タン あなたの父上は
すごい人なのよ


ウンスはうれしそうだった
その笑顔が先ほどまでの
会議でささくれだった
チェヨンの心を鎮めた


イムジャがそこまで喜ぶとは
思わなかった
普段から
身分などどうでも良いと
言うておるではないか


それはそうよ
身分は人が作ったものだもの
だから身分で人を
別け隔てる必要はないと
その考えは変わらないわ
だけど あなたが人に
認められるのは単純に
うれしいの
私の旦那様よって
自慢したくなる


そうか・・・
そう言うものか?


ウンスは頷いた
そこへ頃合いを見計らい
ヘジャが参鶏湯を運んできて
給仕をすると
そっと居なくなった
ほかほかの湯気が立ち込め
部屋にいい匂いが充満している


美味しくできてると
思うんだけどな
ヨンファから頂いた
高級な人参も使ったのよ
それに
にんにくもたっぷりだし
ナツメ   松の実やクコの実も
入れてあるから滋養があって
体にいいの
夏の暑さにも負けないし


ウンスは味見をして
満足そうに頷いて見せた
夫たちは参鶏湯を肴に
酒を酌み交わしている
ヨンファは匙で一口すくって
ごくりと飲んだ


美味しい


ヨンファが呟いた
タンも匙から
上手に飲んでいる


良かった
あのね   参鶏湯はね
体温を上げる働きもあるから 
ヨンファもこれから
作って食べるといいわ
作り方を教えてあげるから


はい


ヨンファは微笑んだ


で 二人はヨンのお祝いに
わざわざ来てくれたの?


ウンスがふと尋ねた


いえ 今宵は医仙様に
妻の願いを
お聞き届けていただきたく


キム・ドクチェは真面目な
顔つきになって言った


何かしら?願い?
お子さんのこと?


お腹が満たされ
眠くなったのか
少しぐずりだしたタンを
ウンスがあやしながら
話しをしていると
チェヨンがすっとタンを
抱いて立ち上がった


すまぬが息子がぐずりだした
ゆえに先に失礼する
イムジャ   タンを見ておるゆえ
ヨンファ殿の話を


ありがとう   ヨン


チェヨンは子作りの話ならば
ぐずぐず泣き出したタンや
自分はいない方がいいと
判断して奥へ引き上げた
ウンスはチェヨンの
心遣いに感謝し
ヨンファの話を腰を据え
聞くことにした


医仙様
私たちは婚儀をあげて
まだ半年です
なれど国元からは跡取りを
産むよう矢のような催促


ええ   そんなことだろうと
思っていたわ


ウンスはため息をついた


その上側室も決まり
なんだか自分が
だめな嫁に思えて


まあ   
まだたった半年じゃない
もう早    側室まで


ウンスは呆れた顔をした


私は若くもありませんし
お家のためにはそれも
仕方ないと自分に言い聞かせ
でもこの辺りがもやもやして


ヨンファは
胸の辺りを押さえた


そうでしょうとも!


そう言って
キム・ドクチェを軽く睨んだ


い    医仙様
側室は国元の母が勝手に
決めたこと
某にはそのつもりは
ありませぬ
なれど何度そう申しても
妻は思い悩み
某もどうしたらよいかと
思うておりました
妻は遠慮ばかりで
甘えることが下手ですから


ウンスは微笑んだ
キム・ドクチェは
ヨンファのことを
よくわかっていると
ほっとした


医仙様
昨日私   ヘジャさんに会って
ヘジャさんに言われたんです
共に生きていきたいと
思える相手にはそうそう
出会えないから
旦那様が好きなら
その気持ちを大事に
してくださいって
そう言われて気づいたんです
私   跡取りを生むことばかり
気にかけていて
旦那様とどう生きていきたいか
なんて考えてもなかったって


そう
ヘジャがそんなことを


ウンスは
苦労を重ねてきたことを
微塵も感じさせない
ヘジャを思った


だから
ヘジャさんと別れてから
ずっと考えていたんです
私の気持ちを
でも何度考えても答えは一緒
私は旦那様を
お慕いしているんです
他には何もいらないくらい
だから旦那様に側室が
いてもいなくても
跡取りが生まれなくても
この気持ちに変わりはないと
昨夜旦那様にお伝えしました


妻は側室を娶るのは構わない
けれど自分を一番に
慕って欲しいと言いました
妻の次などあるわけないのに
某には妻のヨンファだけが
大切な女人なのですから


ウンスは吹き出した


ねえ
あなたたち
わざわざノロケに来たの?
もう熱くて聞いてられないわ


紅潮した頬を手で仰いだ


いえ   決して


キム・ドクチェとヨンファも
頬を赤らめ互いに見つめあった


はいはい
わかったから
それでお願いって?


はい
それで私  考えたんです
子どもは天が定めしこと
だったらそれにばかり
囚われないで
旦那様との暮らしを
大切にしながら
自分に出来ることは
なんだろうって


ヨンファはウンスに
自分の思いを告げた


わかったわ
ヨンファの力になれると思う
明日早速頼んでみましょう


ありがとうございます
医仙様


ヨンファの声は弾んで
響いた


でもね
ヨンファ   跡取りのことは
ヨンファの年齢なら
まだまだ気長に構えて
大丈夫なのよ
確かに天が定めしことだけど
王妃様は公主様を授かるまでに
五年かかったでしょう?
もしもヨンファが
五年後にお子を授かっても
今の私よりまだ若いわ
うふふ
だから思いつめないこと


はあ


それに天界では
夫婦二人で幸せに
暮らしている人だって
たくさんいるの
二人の暮らしを選ぶ人も
いるんだから


ヨンファは信じられないと
言った顔をした


天界から比べたら
この時代は身分制度もあるし
まだまだ不自由な生き方を
強いられる人が
多いなぁって思うわ
でもそんな時代に負けず
みんな一生懸命に
頑張ってるじゃない?
それに前向きで明るい
だからやっぱり私は
この国の人たちが大好き
私の天界の技術や知識が
みんなのために役に立つなら
喜んで力になりたいわ
赤ちゃんが欲しい人の
手助けもしたいし
危険なお産から妊婦さんを
守りたい
怪我や病気の患者さんも
救いたい


ウンスは凛とした
顔つきでヨンファに言った

部屋の灯りがゆらゆら
ウンスの影を揺らし
奥の間からは本格的に
あ~~ん  あ~~ん   と
泣き始めたタンの声が
聞こえていた


*******


『今日よりも明日もっと』
心がざわざわしてる日も
ちゃんと食べて寝て
私は此処で生きていく




☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


ヨンファはウンスに
何を頼んだのでしょう?

そしてヨンは
やっとお預けから
解放されるのか?(;^ω^A


☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


書いているうちに
なんだか長~くなり
切り所を見失いました
ミアネヨ  m(_ _ )m

おつきあい頂き
ありがとうございます

皆様
安寧にお過ごしくださいませ