新しくチェヨンが賜った
王宮の一室が執務室となり
そこで 否応無しに
打ち合わせの会議が始まった

質素な兵舎とは趣が異なり
調度品が置いてある部屋で
チェヨンはむず痒くなった

八人掛けの大きな長机は
それぞれの役職の担当者で
満席となり
チェヨンは憮然とした表情で
一番奥の左側に座った

進行役のパク・インギュが
正面に立って
会議を取り仕切る

警備担当のウダルチ隊長
チュンソクの姿や
武閣氏の長 チェ尚宮
ミレ公主の養育係の
女官 キム尚宮ことヨリと
言った見知った顔もあったが
礼部の役人や
水刺(スラ)の女官
それから
尚書省の長とその部下の
文官達も数名後ろに控え
手ぐすね引いて座っていた

チェヨンは一言もしゃべらず
インギュの進行に耳を傾け
上奏についての
皆の意見をじっと聞いていた

王宮に民を入れるのは
無謀な発想だと
文官から多くの
非難の声があがる
ウンスの真意をねじ曲げられて
受取られているようで
腹が立ったがじっと堪えた
そして
王宮の護りは武士に
任せっきりなくせに
こういうときだけ正義面する
この手の輩を
チェヨンは
快く思っていなかった

堂々巡りで
まったく先に進まぬ
打ち合わせはいつものこと
具体的な話の段になっても
まだこの有様かとチェヨンは
王宮の風通しの悪さに
げんなりしていたが
さすがにそれを顔に出すことは
しなかった

結論が出ぬままに
会議は閉会となり
日を改めることとなり
チェヨンはほとほと疲れて
皆が去ったあとに残った
叔母チェ尚宮にこぼした


まったく何のための
祝賀の儀なのか?
それぞれの権力を見せあう場
ではないであろうに


まあ そう言わず
この場を収めるのが
お前のお役目であろう?


だが
口先ばかりの文官だらけでは
いつまでたっても
王様の目指す高麗の国が
出来ぬのではないか?


だからお前に託したので
あろうが
この戯け者を王様が
そこまで
見込んでくださるとは
有り難いことじゃ


ありがた迷惑だ


これ ヨン
口が過ぎるぞ


辺りはすっかり夕暮れで
茜色の光に照らされている
チェヨンは外を眺めて
やはり憮然とした表情で言った


とにかく俺はもう帰る
それから明日は暇をもらった
ゆえに パク・インギュ
あとは任せた


承知致しました


有能な文官
パク・インギュは頷いた
その会話に
チェ尚宮が口を挟んで


ほお それは奇遇じゃ
ウンスが休みと聞いて
私も暇をもらい
明日は屋敷に顔を出そうかと
思うておった


しゃあしゃあと言って 
鼻で笑った


あん?
叔母上が屋敷に来るのか?


いかにも迷惑そうじゃな
心配するな 
朝早くに行ったりはせぬゆえ
ゆるりと寝ておれ


はははと笑うチェ尚宮の
後ろ姿を見送りながら
どいつもこいつも・・・と
また ため息をついた
チェヨンであった


━─━─━─━─━─


ポムはヘジャが市場で
昨日ヨンファに会ったことを
ウンスから聞いた


元気みたいよ
表情も明るかったって
必ず 屋敷に顔を見せるって
言ってたそうよ


そうでするか
よかった
安心したでする
じゃあ 今度こそ
ヨンファさんと一緒に
遊びにくるでする


ポムはそう言い残して
夕方近くになって
自分の屋敷に帰って行った



ヘジャの言いつけで
厨房ではオクリョンが
早いうちから
参鶏湯の仕込みをしていた
そこへ ヘジャが顔を出した
夕暮れ時が迫り
通いの者達はそれぞれの
家路に着いている


どうだい?
出来ているかい?


はい ヘジャ・・・さん
でもこんな料理初めて見るし
鶏肉も初めて扱うから
うまく出来ているか
自信はないけど・・・


オクリョンは鍋の中で
コトコト煮込まれている
鶏を見た


あああ いい匂いだ
いい具合に出来てきてるねぇ
あとは奥様にお味を
仕上げていただこうか


ヘジャは笑って言った


いいかい オクリョン
このお料理は
若様もお好きだからね
オクリョンもしっかり
作り方を覚えるんだよ


はい ヘジャさん


オクリョンは返事をしながら
ヘジャの顔が
いつもと違うことに
気がついた


ヘジャおばちゃん?
何だか綺麗だね


へ?あああ
紅を拭うのを忘れていたよ
奥様がさっき
差してくださったんだ
こうすると顔色がよく
見えるらしいからね


ヘジャは照れ隠しに
そう言ったが
ヘジャに驚いて
うっかりいつもの癖で
ヘジャおばちゃんと言った
オクリョンに
小言も忘れなかった


ヘジャさん・・・だろ?


そう言いながら唇を
拭き取った


あ~ ヘジャ・・・さん
取らなくてもいいのに
似合っていたのに


残念そうなオクリョンに
ヘジャは言った


お屋敷の奉公に
紅はいらないよ
仕事の邪魔になるからね


厨房の隣で薪を割っていた
ソクテが 
紅を差したヘジャの顔を
ちらちらと見ていたことに
ヘジャは気がつかなかった


茜色の空が
ウダルチブルーの
空色に変わる頃
チェヨンが愛馬チュホンを
飛ばして屋敷に戻って来た


おかえり~
ヨン 早かったのね!


タンを抱いて奥から
出て来たウンスが
いつも以上に艶かしく
チェヨンの目には映った


欲をいだきすぎたせいか?と
腕の中に飛び込んで来た
ウンスとその腕にいる息子の
タンを抱きとめながら
じっとウンスの顔を見つめ
チェヨンはその口元に気がついた


いつもと違う


その唇に指で触れた
ぷるんとした柔らかな感触
暖かな唇が
今宵はいっそう美しく見えた


うふふ 気がついた?
さすが 旦那様
いつもの色より
ちょっと色っぽくしてみました


おどけて笑うウンスを
ぎゅぎゅっと抱きしめて
チェヨンは言った


そんなに俺を煽って
あとでどうなっても知らんぞ


ウンスは頬を染めて
こくんと頷いた


美味しく出来たわよ
サムゲタン
美味しく食べてね


ああ 無論・・・


ウンスからタンを受け取り
抱き上げると
その頬にちゅっと口づけた
それから愛しいウンスの
唇を食んだ
いつも以上に甘い口づけを
交わした二人は
肩を寄せあって
奥へ入ろうとしたが

その時 門の前に
一台の立派な漆黒の輿が
静かに止まった


誰かしら?


ウンスが振り向いて
首を傾げる


叔母上には 早いし
まさか パク・インギュ?


え?なんのこと?


二人の後ろで控えていた
ヘジャが そそっと
門まで出てお客様を迎えた


奥様! 奥様!
ヨンファ様でございます
ヨンファ様と
キム・ドクチェ様が
いらっしゃいました


ヘジャの声が弾んで聞こえた


まあ!
上がってもらって


ウンスは喜んだが
チェヨンの顔は曇った
チェヨンのお預け受難は 
まだ
続くようであった


*******


『今日よりも明日もっと』
美味しく食べて欲しくて
心を込める
料理にも 自分自身にも



☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


ヘジャはいくつなんでしょう?
と ご質問を頂きました

ヘジャが最初に出て来た時に
ちらりと五十くらいに見えると
書いたのですが 
haruの覚え書きノートには
四十九歳の設定とメモってあります
イメージより意外に若い? 
どうなんだろう?
∑ヾ( ̄0 ̄;ノ
ちなみに母親ソンオクは七十歳

天界ならば まだまだ
現役ばりばり世代ですが

朝鮮王朝の頃ですら
王様の平均寿命が
五十歳にも満たない時代です
四十を過ぎると
もう随分いいお年と思われるのも
仕方ないのか・・・ヽ(;´ω`)ノ

ヘジャの大人の恋
すこ~しずつ進展しそうな予感?
見守ってくださいね~

ん?ヨンファ?
何しに来たの??


また
おつき合いくださいませ



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