機嫌が悪いのは
一目瞭然だった
チュンソクはなるべく
チェヨンを刺激しないように
そっと 何度目かの
上奏文を執務の机に置いた
それを じろりと睨んで
チェヨンが言った


チュンソク 
その上奏 また届いたのか?
気のせいか
今日はいつもの倍以上
ではないか


はっ
そのようで・・・


なぜだ?
俺が何かしたか?


いえ たまたま・・・
たまたまかと


チュンソクはこれ以上
不機嫌のとばっちりを
受けぬようにと
そそくさと退散した


隊長 どうでした?


廊下に出ると
トクマンがチュンソクに
尋ねた


ああ 久しぶりに
鬼の鍛錬を覚悟した方が
よいかもしれんぞ


ええええーっ
脅かさないでくださいよ
このところずっと
上機嫌だったのに・・・
どうしたんでしょうね?


今日は医仙様が典医寺を
お休みされているから
そのせいか?


ああ~と納得したように
トクマンが頷いた


なんにしても いつも通り
務めに励めよ


イェ!


トクマンは姿勢を正して
返事をした


おまえら うるさいぞ!


紙玉が扉に当るような
音とともにチェヨンの叱責が
聞こえて来た


おおお ほんとに
荒れてますね~


トクマンは
戦々恐々とした面持ちで
チュンソクに言うと
二人は二階から降りて行った


チェヨンは八つ当たりだと
自覚していた
「まったく俺も大人げない」と
内心思ったが
気心知れたチュンソクと
トクマンだから
つい甘えが出てしまったのも
事実だった

今日はウンスは暇をもらい
屋敷にいる
屋敷と言っても王宮には
いないので 
兵舎を抜け出して
顔を見に行く訳にもいかない

山積みの上奏を見て
いつ帰れるだろうか?と
チェヨンはため息をついた


━─━─━─━─━─


昨夜は難産の妊婦の赤ん坊を
取り上げると言う
医仙としてその役目を果たし
ウンスは疲れ切っていた

だから閨で
チェヨンはねぎらいを込め
腕の中で 髪をなで
額に口づけ 頬をなで抱きしめ
そうしているうちに
ウンスはすうっと眠った
難産に立ち会ったあとは
良くあることで
その夜 チェヨンは我慢した

早朝 目覚めたチェヨンは
ウンスの上に乗りかかり
さて!
と勢いづいたところで
今朝に限って
七ヶ月になる息子のタンが
珍しく 大泣きを始めた

昨夜は大人の都合で
遅くまでつき合わされて
タンはタンなりに
疲れたのだろうと
ウンスは素早く起き上がると
タンに授乳し あやし
また寝かしつけようと試みた
だが
とうとうタンは泣いたまま
眠らなかった


しょうがないわね
きっと心が高ぶっているのよ
ちょっと庭を散歩するわ
ヨンも一緒に行きましょう?
ね?


親子三人 
清々しい空気の中で
健康的に朝陽を浴びて
中庭を散歩した
山桜の枝に今年も赤い実が
たくさんなっている


いつ 収穫しようかしら?
楽しみだわ
ねえ タン


ウンスの華やいだ声
風にそよぐ柔らかな髪
紅色に染まる頬
艶やかで甘いことを
十分知り尽くしている唇

近くにいるのに
手が出せないもどかしさ
タンが泣いたのは
何かの策か?とチェヨンは
子供じみた思いを
捨て切れずにいた

そんなチェヨンの熱を
感じ取ったウンスは


明日 
お休み出来るといいわね
いつのもあれ
作って待っているから


振り返りチェヨンに微笑んだ
チェヨンは身体が熱くなり
自分を抑えるのがやっとだった


ああ 約束だぞ
今宵は覚悟しとけ


うふふ


ウンスは艶やかに笑った
その腕の中で
やっとタンがうとうと
眠り始めた


チェヨンの出立の時刻になって
ウンスは見送りに並んだ
使用人に向かって言った


みんなちょっと 
後ろを向いててね


は?


ユウとハヌルが不思議そうに
返事をする


いいから 奥様の
お言い付け通りに


ヘジャがみんなに後ろを
向かせて ウンスに頷いた


いってらっしゃい
旦那様


ウンスは少し背伸びをすると
チェヨンの唇に唇を当てた

ちゅっという音が聞こえて
この光景に慣れていない
通いの女中達も
その音で何をしているのか
察しがついて
顔を赤らめて俯いている

チェヨンは名残を惜しみ
ウンスを
ぎゅっと抱きしめたまま
なかなか離れず
例の如くヘジャに
「お時間にございます」と
追い立てられた


行って参る
早く戻るゆえ
おとなしゅうしておれよ


ウンスとタンの頬に
もう一度口づけると
チェヨンは
愛馬チュホンに
ひらりと飛び乗ると
王宮へと向けて出立した


ところが である
お役目をさっさと終わらせて
愛する妻のもとへ
とっとと帰る予定だった
チェヨンのもとに 
朝から 次々届く上奏

そして急な祝賀の打ち合わせ
おまけに王様からの呼び出し

なんたること
なんという間の悪さ
チェヨンの顔は
みるみる不機嫌になり
朝のチュンソクとの
やり取りとなったのであった


━─━─━─━─━─


ウンスはチェヨンを見送って
もう一度のんびり
眠ろうか?と考えていた

通いの女中達は
もくもくと
たくさんある部屋の掃除を
はじめた

ヘジャはそれに
気を配りながら
ウンスの後ろに控え
ウンスとタンを見守っている


ヘジャ 新しい子達とは
うまくやってるの?


ウンスが前庭の手入れされた
アヤメを見ながら
ヘジャに尋ねた


はい ヘジャにお任せを
奥様のお言い付け通り
気長に仕込んで参ります


そ よろしくね
心配していた
ミヒャンはどう?


はあ まあ
ユウとハヌルに比べると
動きは遅いのですが
頑張ろうと言う意欲は
認めます


ヘジャがそう言うなら
大丈夫ね
明日は旦那様の我が儘に
つき合わせてごめんなさいね


いえ 皆
急な休みに喜んでおりました
ハヌルの前の屋敷は
休んだ分の給金を差し引かれた
そうで・・・


あら そうなの?
体調が悪かったり
家族が病気だったりで
休む日だってあるでしょうに


女中に上がったからには
屋敷の奉公が一番
甘えは許されませんから


ヘジャは何か思い出すような
様子で言った


そお?
でも今回はこちらの勝手
そんなことはしないでね


はい わかっております


ヘジャは この屋敷に
来る前はあちこちの屋敷に
奉公していたって聞いてるけど
この時代 身分制度も厳しいし
いろいろと
大変だったでしょう?


そうでございますね
女が一人で生きて行くのは
大変なことでございますが
今はこうして
奥様にお仕え出来て
ヘジャは果報者にございます


大袈裟よ
でもうれしいわ
そうだ ヘジャ
明日ね 
ヘジャも出かけるでしょう?


いえ ヘジャは屋敷に
残るつもりで居りました


いいのよ
私達なら心配いらないから
新婚の時は何から何まで
二人でやってたんだもの


ですが・・・


あのね 昨日患者さんに
聞いたんだけど
市にサンダンペ(旅芸人)が
来ているんですって
剣舞が見事だっていってたわ
オクリョンやウォンを
連れていってやってね


はあ


美味しい物も食べて来たら
いいわ


では お言葉に甘えて


うんうん そうして
そうそう ソクテも
誘うのよ


へっ?


ヘジャにしては珍しく
うわずった声をあげた
ウンスはふふっと笑い


まさか 屋敷にソクテを
置いて行く訳じゃ
ないわよね
それこそ旦那様が不機嫌に
なるわ
一緒に楽しんで来てね


はあ


どう返答しようかと
戸惑うヘジャの顔をみて
ウンスは

「いつもはヘジャに
すっかり
あしらわれているんだもの 
たまには
やり返してもいいわよね」

と 思い
含み笑いをした


わかりました
そう言うことでしたら
ヘジャにお任せを!
ですが 奥様


なに?


お屋敷に使用人がいなくても
若様は奥様のおそばに
いらっしゃいます


そうね


一日中
ご夫婦でお閨に
こもりきり などと
言うことが
ございませんように


見透かすように
きっちりと切り返され


やっぱり
ヘジャには敵わないわ


と ウンスは苦笑した


そうこうしていると
門の前で
元気な声が響いた


い せ ん さ ま
ポムにございますぅ~


*******


『今日よりも明日もっと』
恋 焦がれ
ちょっとの間でも
あなたを想う



☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


ポム 襲来?

忙しいチェヨンをよそに
なんだか賑やかな
お休み日和

また
おつき合いくださいませ




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