輿の中で
タンはやっと念願のお乳に
ありつき
美味しそうにごくごく
飲んでいた

やれやれと言った表情で
チェヨンはそれを見つめ
時折 ウンスに口づけて

初夏の風が輿の窓枠を
がたがたと鳴らしていた


イムジャ
昨日も出仕したではないか?
やっと引っ越したと思うたら
また毎日 お役目か?


チェヨンは心配そうに
ウンスに言った


心配ありがとう
でもしょうがない部分も
あるのよ
ほら いま
ヘジャじゃないけど
見習いの医員が
何人かいるでしょう?
その人達に
教えなくちゃいけない
こともたくさんあるのよ
なんでも
チェ先生に任せきりには
できないもの


ウンスはふうと息を吐いた


まあ それもそうだが


チェヨンはウンスとヘジャの
朝の会話を思い出して頷いた


それにお産は
待ったが効かないでしょう?
ちょっと難産の気がある
妊婦さんを預かっていて
ずっと入院しているから
それも気になっているの
だから 
そのお産が落ち着いたら
まとまって
休もうと思っているわ
幸い 公主様は順調だし
夜間の急な呼び出しがないだけ
十分 休めているわよ


そうか?
無理をしておらぬのなら
よいのだ
が・・・


うん 
私だって
早く兄弟を授かりたい
だから自分の身体も
無理しないように
労っているわ
でも
誰かさんが 
毎晩 無理させなきゃ
もっと眠れるのにな


ウンスは
チェヨンに笑って言った
痛いところを突かれて
チェヨンはぐっと口ごもる


そ そうだな・・・
だが作らねば出来ぬのも
また 事実


うふふ
言い訳がうまいんだから


ウンスはチェヨンの腕を
軽くつねって言った
お乳を飲み疲れたタンは
ウンスの腕の中でうとうと

はだけたままの白い胸元に
チェヨンは唇を寄せ
柔らかな肌にちょっとだけ
悪ふざけをして
名残惜しそうに
ウンスの胸元を器用に整えた

そうこうしているうちに
輿は王宮へと到着した


━─━─━─━─━─


チェヨン達が王宮へ向かい
広い屋敷の掃除も
一区切りついたので
ヘジャは女中部屋で
新入りの三人に
繕い物を任せ
オクリョンにはタンの部屋の
片付けを命じて
自分は市場へ
買い物に出ることにした


それが済んだら
少し休んでいておくれ
夕餉の食材が届いたら
また忙しくなるからね


ヘジャは女中達に言った


は~い


ユウとハヌルは元気に
返事をしたが
ミヒャンはよほど
疲れているのかすでに
手が止まり
うつらうつらしていた
だが
ヘジャは注意をせずに
そのまま休ませた
ミヒャンは
草花の手入れは上手なようで
前庭の雑草も
きちんと抜かれていたのを
ヘジャは見ていた
何か言いたげなユウに


いいから 眠らせておやり
疲れているようだから


と 言った


ずるい~
ミヒャンさんだけ
もう昼寝だなんて


まあ そういわずに
繕い物を頑張ってくれたら
市場から美味しい飴でも
買って来るよ


ほんと?ヘジャさん?


ユウとハヌルの顔がほころび
せっせと手を動かし始め

気長に 気長に・・・と
ヘジャはウンスに言われたことを
思い出して口の中で唱えた


門は閉めて行くけど
困ったことがあれば
ソクテさんに言うんだよ
あの人はこの屋敷に
古くから奉公しているから
あんたたちより何かと
詳しいからね


は~い


買い物に行くことを
ソクテに告げると
荷物持ちに一緒に行こうと
申し出た
それをヘジャは丁寧に断った
実のところ
ソクテと二人で買い物など
落ち着いてできるとは
思えなかった
どうにもソクテを
意識している自分がいる

嫌いになったことは一度もない
確かに急に他の女人と結婚して
目の前からいなくなり
憎んだこともあったが
今にして思えば
よほどの事情が
あったことくらい
ヘジャにもわかる歳になった

あの時は互いに若すぎ
真っすぐ過ぎた・・・
その想いは胸にしまい
ヘジャはソクテに言った


屋敷に勝手がわからない
女中たちばかり
残して出かけるのは
気がかりだから
ソクテさん 何かあったら
助けてやっておくれ


そうかい
ヘジャさんがそう言うなら
そうしよう
気をつけてな


いつも一言
何かを付け加える
ソクテの優しい心遣いは
ウンスに似ていると
ヘジャは思った


ヘジャは 市場で
新鮮な魚や貝を買うと
両手いっぱいの荷物を持ち
ふうふうと息を切らして
歩いていた

やっぱり荷物持ちを
ソクテに頼めばよかったと
少しばかり後悔しながら
通りを歩いていると
ウンスが好きな饅頭屋が
目に入った

ウンスが喜ぶだろうからと
土産に買って帰ることを
思い立ち 
店の中をのぞいたら
思いがけず 
ヨンファが饅頭を
買い求めているところに
出くわした


ヨンファ様


ヘジャは思わず声をかけた


*******


『今日よりも明日もっと』
少しずつ動き始めた歯車が 
かみ合いながら廻るのを
慌てず気長に待っていよう



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