おはよう


ウンスは
チェヨンを起こさないように
寝台から静かに抜け出すと
目覚めたタンに声をかけた

都の屋敷に戻り数日が過ぎた
やっと王宮と屋敷の
行き帰りにも慣れ
また以前のような生活が
戻ってきた

新婚の頃と違うのは
屋敷に二人きりではないと
言うこと
タンがいるのはもちろんだが
住み込みの使用人も増えた

ヘジャの姪のオクリョンは
奥の仕事を少しずつ覚え
タンの粥を炊いたり
タンの肌着を洗うのは
オクリョンの仕事になっていたし
ソクテは力仕事も庭の手入れも
それから私兵の役割も
黙々とこなしていた


う~あうあ~


タンがウンスの呼びかけに
返事をした


いい天気みたいよ
さあ   
出仕の支度をしなくちゃね


閨に差し込む朝日
ウンスは中庭に面する窓を開け
朝の空気を吸い込んだ
昨夜も たっぷり愛されて
ぼんやりとからだがだるいが
気持ちは満ちていた

タンは寝台の上で
足を伸ばしたり
クマのモビールで
遊んだりしている


ふふっ 
朝からご機嫌さんね


ウンスは
くるりと振り向くと
タンにまた笑いかけた
その様子を寝台から見ていた
チェヨンもまた
穏やかな気持ちの朝を迎えた


イムジャ


あら   ヨン おはよう
起きてたの?


ああ


寝台に起き上がりぼうっと
ウンスとタンを代わる代わる
見つめているチェヨンは
髪の毛が寝癖で跳ねていた


うふふ 髪が爆発してるわ


ウンスはチェヨンのそばにより
その髪を手でなでつけた


そうか?


うん 
こんな姿 
他の人には見せられないわね
高麗の守り神が形無しよ
うふふ


そういうウンスを
チェヨンは愛しむように
抱きしめて
おはようの代わりに
口づけた


タンが急にそわそわし始め
自分も抱っこというように
う~~ん あ~~~んと
声を上げ    手を伸ばしている
ウンスはチェヨンの腕から
すり抜けてタンを抱き上げると
またチェヨンの腕の中に
収まった


そう言えば今日から
新しい女中さんが来るって
ヘジャが言ってたわ


そうなのか?


うん 
一気に三人も
通いの女中さんを雇うなんて
チェ家も大所帯になったもんよね
でも 
そんなに雇って大丈夫?


は?なにがだ?


ほら お給金とか
人を雇うのも    ただって
わけじゃないもの


気が引けるような口調のウンスに
チェヨンは口の端をふっと上げて
笑うと


そんな心配はいらぬ
使用人が数名増えたところで
なんと言うこともない
昔は数え切れないくらいの
使用人がいたものだ


やっぱりチェ家は
名家なのね


ウンスは感心した
チェヨンは一層ぎゅーっと
ウンスを抱き寄せて言った


それに
王様から禄を
たくさん頂いておるし
チェ家には先祖からの
財の蓄えもある
イムジャも禄を
貰っているであろう?


うん


ウンスはこの時代の
貨幣の価値や仕組みが
今ひとつわからない
どちらかと言うと
物々交換のような時代
家計のやりくりに
役に立つほどの知識もない

夫婦二人して   王宮から
十分すぎる禄を
貰っていることは
もちろん知っていたが

高麗で結婚して以来
天界に居た頃の物欲もなくなり
典医寺の賄いに使ったり
日々のちょっとしたことに
使うくらいで
お金のことは自然と
チェヨンに任せていた

チェヨンはもともと
面倒くさがりで
独り身の頃は  家計どころか
自分の禄もいくらなのか
まったく気にせず
すべて叔母チェ尚宮に
任せきりであったが

いつまでも叔母を頼るなと
チェ尚宮に釘をさされ
ウンスを娶ってからは
家族が幸せに
暮らしていけるように
みずから進んで
ウンスが苦手な
家の財の管理も担っていた


互いに足りないところは
補えばよい


ウンスはチェヨンの言葉に
すっかり甘える格好になっていた


なんでも
二人の予定がもう一人
増えたらしいの


へえ
奥のことはイムジャの
気の済むようにしたらよい


ウンス以外の女人には
相変わらず全く興味がない
チェヨンは
気のない返事をした


ヘジャが最初に決めた
二人以外に
マンボ姐さんから
もう一人
雇ってくれないかって
言われたんですって


ふーん


チェヨンはウンスに
なんども軽く口づけながら
生返事を繰り返した
そのうち
パタパタと廊下を歩く
ヘジャの足音が聞こえた


おはようございます
旦那様   奥様
朝餉の支度が出来ております


はーい   わかったわ
今行くわね


ウンスが答えると
ヘジャが言った


それと奥様
通いの女中が来ております


わかったわ


━─━─━─━─━─


出仕のために表で待つ
輿に向かおうとして
タンを抱いていたウンスは
一瞬ひるんだ

門の前にはヘジャとオクリョン
ソクテにウォン
それから女中三人が
ずらりと並んでいる
チェヨンは
当たり前の光景のように
顔色ひとつ変えず
その前を通り過ぎると
ウンスからタンを受け取り
先に輿に乗った


ヘジャは女中三人を
ウンスに紹介した


通いの女中にございます
ユウにハヌル
それから   ええっと
ああっと   ミヒャン?
だったよね?


ミヒャンと呼ばれた女人が
小さく首を縦に振る

ウンスは三人をちらちらと見た
ユウとハヌルは
オクリョンより少し
年が上のようで二十歳前くらい
だろうか?
二人とも深々と礼をしたまま
じっと動かない
無駄口を叩かず
言いつけを守る働き者
いかにもヘジャが選びそうな
二人だとウンスは思った

ミヒャンと言った女人は
二人より年が上で
ヨンファくらいかしら?
と   ウンスは思った

この人がマンボ姐さんに
頼まれたって人?
少しばかり虚ろな目を
している気がした


三人とも   よろしくね
仕事は女中頭のヘジャに
教わってね


ウンスは軽やかに話し
あとはヘジャに任せた


じゃあ   ヘジャ
行ってくるわね


はい    ヘジャにお任せを


女中頭と紹介されたヘジャが
どんと構えてウンスに言った

相変わらずソクテとヘジャは
どこかよそよそしいが
このところ
天気の話やちょっとした話を
交わすようにはなり
ヘジャを見つめるソクテの
眼差しがひどく優しいことに
ウンスは気がついていた


行ってらっしゃいませ


ヘジャの声がまるで
号令のように
皆の頭がより一層深々と下がり
ウンスはくすぐったい気持ちに
なった


これじゃあ
いくらなんでも
みんなの前で口づけは
出来ないわね


肩をすくめたウンスは
輿の中でチェヨンの唇と
タンの頬に代わる代わる口づけた


そうか?
俺は構わぬが?


飄々と話す恋しい夫と
可愛らしく笑う息子と
ウンスを乗せた輿は
ゆっくりと動き出し
青空の下   
王宮へと向かうのだった


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『今日よりも明日もっと』
穏やかな時の流れの中で
いつしか新しい毎日に
包まれている




☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


通いの女中の名前募集に
たくさんの皆様に
おつきあいいただきましたこと
御礼申し上げます

ご応募頂いたお名前の中から
女中さんが三名
やっと登場いたしました

ハヌル     mamiko様   
ユウ         yuko-2525-yuko様
ミヒャン  ポヨン様

ご応募ありがとうございます
お名前
お借りいたしますね~ (*^▽^*)


☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


熊本地震の余震も続いております
どうぞ皆様
お気をつけくださいませ

今週も
安寧にお過ごし頂けますように