イムジャ 何か
俺に隠しているだろう?


無事一日が終わり
タンが眠りについて
やっとこれから
夫婦の時間という時に
チェヨンはウンスを下に敷いて
じっとウンスの目を見つめた


へ?な なにも
ヨンに隠し事などないわよ


叔母チェ尚宮から聞いた
ソクテが屋敷を辞めた事情は
今更チェヨンに言うまいと
決めたウンスはしらを切った


イムジャ
イムジャは嘘が下手だから
口を割らせるなど
容易いことだが
イムジャがだんまりを決め込む時は
たいてい俺のことを気にかけた時
そうであろう?


何よ 
何も隠し事なんてしてないもの
それに何を聞かれても
話すことはないわ


イムジャ話してごらん
それとも
試してみるか?
どうしたらイムジャが口を割るか?


え?


急に目の前から消えたチェヨンは
布団の奥深くへと潜り込んだ
すぐにそれがどういうことか
思い知る


やだ ヨン
ちょっと 意地悪!


不意打ちを食らって
ウンスがいくら身じろぎをしても
本気の力のチェヨンから
逃げ出せるわけもなく
呻くのが精一杯の抵抗


わ わかった
ねえ わかったから
話す 話すわ
だから・・・


ウンスの答えに
チェヨンのからだは
もぞもぞと浮上し
ウンスはほっと足を閉じた


初めから素直に話せば良いものを
だから言ったであろう
イムジャを落とすのは容易いと


真っ赤になって反論を試みた
ウンスだが
チェヨンに抗えるはずもなく
うん・・・と頷いた


気にしておったヘジャのことを
叔母上から 聞いたのか?


うん どちらかというと
ソクテのことかな?


そうか
それで イムジャが
歩きながらあれほど思い詰めるとは
何を聞いたのだ?


う・・・ん
今頃になって こんな話をして
ヨンは
知らなくてもいいことだったのに


叔母上がイムジャに話したと言うことは
俺に伝わるのは想定内であろう
俺も知っておいたほうが良いと
叔母上も思うておるのだ


そうかな?


ああ
だから気遣いは無用
それに 俺は
俺のためを思ってイムジャが
心に重石を乗せているほうが
よっぽど堪えるのだ
わかるであろう?


うん
私もそうだから よくわかる


では話してみよ


うん 
でも今更 ヨンは気にしちゃだめよ


わかっておる


じゃあ 話すね
あのね・・・実は叔母様が言うにはね


━─━─━─━─━─


ちょうど
タノ(端午)の祭の頃だった

市の見物に通りを歩いていた
チェヨンは何やら辺りが
騒がしいことに気がついた

まだ十歳の
少年チェヨンではあったが
剣術の稽古を始めた頃で
いっぱしの武人のつもりでいたから
ソクテが「危ない」と
止めるのも聞かずに 
騒がしい音の方へと
チェヨンは向かって行った

祭で高揚した男たちが
いつの間にやら乱闘騒ぎ
我を忘れた男たちの矛先は
たまたま居合わせた
か弱い女人に向けられた

チェヨンは元来の正義感で
見て見ぬ振りなど出来ず
その女人を助けた

その辺のゴロツキくらい
チェヨンの剣術の腕前の
比でなかったのだが

餓鬼に負けたのが
恥だとでも言うように
助けたことで気を抜いて
後ろがおろそかになった
チェヨンめがけて
ゴロツキどもが反撃をしてきた

ソクテが身を呈してチェヨンを守り
チェヨンはことなきを得たが
運悪く ソクテの放った短刀が
近くにいた女人の
足に当たってしまった


━─━─━─━─━─


覚えてる?


ウンスは尋ねた


なんとなく・・・
そのようなことがあったような
だが 今の今まで忘れておった


そお


で それが如何したのだ?
その女人が死んだとでも言うのか?
それで責任を感じて
ソクテはいなくなったと?


まあ 似たようなもんかな?


ウンスは少し歪んだ顔をした
チェヨンの髪を撫でながら
話を続けた


女の人
その怪我が原因で足を悪くしたの
でね ソクテは
怪我をさせたことを
申し訳なく思ったらしくて
きっぱり屋敷の私兵を辞めて
その女人と結婚したらしいわ


それはでも
気にしすぎではないか?
事故であったのでし


うん もちろんそうよ
でも叔母様 言ってたわ
事故のことで
ヨンが負い目を感じるのを
気にしたのかもしれないって
それほどソクテは忠義者だったって


そうか・・・


うん それにね
私 思ったんだけど
その頃 ヘジャに
結婚話があったんだって
なんでも
大きな旅籠の跡取り息子に
懸想されてたらしいの
だから 
ソクテは身を引いたのかも
って そんな気がして・・・


そうかもしれんが・・・
厳しいことを言うようだが
例え何があろうと
失いたくない相手なら
掴んだその手を
決して離してはならん
そうであろう?
俺はイムジャを失うなど
考えられぬぞ


チェヨンは自分とウンスを思った
なんども途切れてしまいそうに
なりながら 
それでも途切れることがなかった
互いの縁(えにし)

それは相手を強く欲した心
諦めきれなかった心

思い続け 信じ続けて
やっと夫婦となって今がある
すやすや眠る息子をちらりと見て
恋しい妻の顔をじっと見た


そう・・・だね
私も
ヨンのことしか頭になかったわ
何を捨てても
あなたしか見えなかった
ヘジャとソクテは違ったのかな?


どうであろうな?
失って初めて気づくこともある


うん


二人が改めて
互いを大事に思うなら
また最初から始めれば良い


うん


俺は当時のことを忘れておった
だからソクテももう
そのことは考えずとも良いし
イムジャも俺が気にするとか
傷つくのではと
思い悩むことはないぞ
俺はそんなに弱くはない
イムジャがわかっておれば
それでよし・・・


そうね
そうだったわ
あなたはチェヨンだもの
変に気を回した私が馬鹿だった


ああ イムジャがそばにいる限り
俺は強く入られるのだ
では そうとわかればだな
続きを・・・致さねば


チェヨンは早々に布団に
潜り込んだ


え?
ちょっと ヨン!
約束が違うじゃない!
話をしたのにぃ~
んっ


何もせぬと
約束などしておらぬぞ
イムジャは俺に
火がついたままにしておくと
そんな薄情なことを言うのか?


口を割っても割らなくても
結局は チェヨンに翻弄される
ウンスの色香漂う甲高い声が
閨に満ち満ちていく

まん丸の月とともに
夫婦の夜は更けていった


*******


『今日よりも明日もっと』
掴んだその手を離しはしない
強い思いが定めを開く




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