少し日が傾き始めた頃
ヨンファは
引越しの手伝いに行けなかった
お詫びを兼ねて
ウンスの屋敷を訪ねることにした

もしかしたらウンスは
まだ王宮かもしれない
だが ウンスに会いたいような
会いたくないような
微妙な気持ちだったので
会えなくても
せめて引越しのお祝いの品だけは
届けようと思った

案の定 ウンスはまだ
屋敷に戻っていなかった
初めて見る若い女の子が
門のところでヨンファを出迎え
それからすぐにヘジャが
奥から顔を見せた


ヨンファ様
あいにく 奥様は
まだお戻りではありませんが
奥でお待ち下さい


そう・・・やっぱり
少し早かったかしら?
うん そうね
日を改めてまた今度にするわ
今日は
これをお届けしたかっただけなの
昨日 国元から人参が届いて
医仙様は毎日お忙しいと
ポムから聞いたから
滋養をつけてもらおうと思って


ヘジャは包みを受け取った
中を見ると高級そうな人参が
いくつも木箱に収まっていた


それに引越し祝いの餅を
持ってきたので
医仙様にお渡ししてね


ヨンファはお付きの下男から
包みを受け取ると
ヘジャに渡した


確かに お預かりいたしました


ヘジャは丁寧にお辞儀をした


あの可愛い女の子は
新しい女中さん?


ああ はい 新しく奉公に来た
見習い女中の
オクリョンと申します
これから
ヘジャがしっかり仕込んで
いずれはチェ家の奥を
任せられるようにと
思っております


そう 
ヘジャが仕込むんなら
きっといい奥女中になるわ
私もいろいろ奥向きのこと
ヘジャに仕込んでもらってから
嫁に行けばよかったわ


ヨンファは遠くを見て言った
ヘジャは何も言わず
ヨンファを見つめた


私ったら 余計なおしゃべりを
じゃあ大護軍様と医仙様に
よろしくね


お待ちにならなくて
本当によろしいのですか?


ええ


ヨンファは屋敷を立ち去った


ヘジャは
ヨンファの夫は国境付近の
国の郡主で
何不自由ない暮らしを送り
大切にされていると
ポムから聞いていたが
その後ろ姿が
妙に寂しそうに思えた


はたから見れば
幸せそうに見えても
何の苦労もないってことは
ないさね


ヘジャがぽつんと呟いた


それからしばらくして
ウンスが息子タンとともに
武閣氏二人とジュヒに警護され
ウォンをお供に
屋敷に戻ってきた

タンは輿が気に入ったようで
窓の外を眺めたり
ウンスにじゃれついたりしながら
ご機嫌で輿に乗って来た


お腹にいる時から
ずっと この輿には
お世話になっているものね


ウンスはタンに微笑む


あうあう


タンはウンスの
胸元の衣を
小さなちんまり丸い
手でぎゅっと握りしめながら
ウンスを見上げて返事をした


おかえりなさいませ
奥様


ヘジャがオクリョンと迎えに出る


ただいま ヘジャ オクリョン
留守中 変わったことは
なかった?


はい 
ヨンファ様がご挨拶に見えられて


あら ヨンファが?
じゃあ 客間にいるの?


いえ 人参とお餅を置いて
お帰りになられました


そう 会いたかったのに


申し訳ありません
お引き留めしたのですが・・・


元気そうだった?


ただどことなく
お元気がないような・・・


そ ヨンファったら
何か抱え込んでいるのかも
しれないわね
我慢強い子だから


ウンスはその原因がなにか
なんとなく察しがつく
気がした


ヘジャ 
ジュヒと武閣氏の二人に
帰りにお餅を持たせてね
私は着替えてから頂こうかな


ウンスは言った


着替えを済ませ
奥の部屋の前の廊下に
タンと一緒に座って
中庭を眺めていたウンスに
ヘジャがお茶と餅を運んできた
静々とオクリョンが後ろを
ついてくる
一足先にジュヒは家に帰り
ウンスから少し離れたところに
武閣氏二人が警護に着いていた

庭木はすっかり剪定で綺麗になり
庭はあっという間に手入れが
終わっていた


ソクテは働き者のようね
ウンスは内心でそう思い
それからかしこまって佇む
オクリョンに声をかけた


オクリョン
住み込みで働くのは
初めてなのよね


は はい 奥様・・・


小さな声で控えめに答える


じゃあ 今夜が実家を出て
初めての夜なのね


は はい


そっか・・・
寂しくなったらいつでも言ってね
無理しなくていいのよ
帰る家があるんだもの
たまには息抜きに帰ったって
構わないから


奥様!
それでは示しがつきません
オクリョンはチェ家に
骨をうずめる覚悟で
奉公にきております


ヘジャが語気を強め
ウンスは微笑んで言った


うふふ ヘジャの気持ちも
ソンオクの気持ちも
ありがたいけど
オクリョンにはオクリョンの
人生があるのも事実よ
私はそれを大事にしてほしいだけ
もちろん ヘジャにもね


はあ・・・


ヘジャは曖昧に返事をした
ウンスはそれ以上は黙り
ヨンファが持参した
色とりどりの餅を一つ
口にぽんと放り込むと
美味しい~と言って
頬を緩めた


ヘジャもオクリョンも食べて
美味しいお餅だわ
ねえ~ヘミ~ヒョリ~
お餅よ~
一緒に食べよう


武閣氏の二人は呼ばれると
ニコニコ顔で近寄ってきて
ウンスから餅をもらって
もぐもぐ食べ始めた
オクリョンはその光景を
信じられないといった目つきで
見つめている


あのね オクリョン
我が家は天界式なの
みんなで仲良く食べたほうが
お餅も美味しいでしょう?


ふふっと笑うウンスの顔が
とても美しかった


━─━─━─━─━─


鶏の出汁で炊いた
お粥を食べさせてから
ヘジャが用意した野いちごを
すりつぶしてタンの口に運ぶと
少し酸っぱかったと見えて
タンは口をすぼめて目をしばたいた


うふふ
まだ酸っぱかったかな


あうあうあ


だんだんと卓を叩くタンを
抱き上げて


よしよし いい子ね
じゃあ お乳にしましょうか


と ウンスが授乳しようと
胸元をはだけさせた時
愛馬チュホンの蹄の音がした


タン 父上だわ
お乳はお出迎えのあとにしよう


ウンスはタンを抱いたまま
表へと急ぐ
武閣氏とヘジャもそれに続いた


馬をウォンに預けると
チェヨンは出迎えたウンスとタンに
微笑んだ


おかえりなさい 旦那様
ほら タン 父上よ


タンはチェヨンをちろりと見て
口をへの字に尖らせた


なんだ?タン?
なんだか怒っておらぬか?


うふふ 今 お出迎えで
お乳がお預けになったから
それで機嫌が悪いのよ きっと
まったく 
お預けが嫌いなところも
よく似た親子ね うふふ


そうか 
それはかわいそうなことをした
タンの気持ち ようわかるぞ


あう~~~


母上から早く奥で 乳をもらえ


んまっんまっ


和やかな親子の会話を見届けて
武閣氏はそっと屋敷から帰り
オクリョンは
「居心地のいい屋敷だ」と
ヘジャが言った意味を
かみしめていた


*******


『今日よりも明日もっと』
「こうあるべき」と
決めつけないで
時にはもっと楽に生きてみる
新しい何かが広がるかもしれない



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