徳興君の騒動から
数日経ったある日のこと

王妃様の回診を終え
武閣氏のヘミとヒョリとともに
典医寺に戻って来たウンスは
患者ではなく
客が来ていることに気がついた

部屋の中央に置かれた円卓に
ウンスに背を向けるかっこうで
座っている

チェ侍医が扉から入って来た
ウンスに気づき
わずかに動揺したような顔をして
それから いつもの
涼やかな笑顔に戻った


お早いお戻りですね


いえ 戻ったんじゃないの
王妃様が
なんだか顔色が優れないから
チェ先生に相談したくて
それにトギに別の薬を
煎じてもらおうかと思って
一度戻って来たのよ
きっとお疲れがたまったんだと
思うんだけど・・・


ウンスはすこうし
不安げに言った


そうでしたか


ウンスとチェ侍医の話しを
聞いていた女人が
すくっと立ち上がると


お忙しいところ
ありがとうございました
では 私はこれで


深々とチェ侍医に頭を下げ
くるりと扉の方へ向き直ると
ウンスにも丁寧に礼をした
綺麗な髪の色の若い女人だった


あら いいのよ
お気遣いなく
ゆっくりしてね


ウンスはにっこり微笑みながら
チェ侍医に
もぐもぐと口を動かし尋ねた


この人 どなた?


チェ侍医は何も答えなかった


女人は一瞬ウンスを見て
驚いたような顔をしてから
もう一度頭を下げると
診療室を出て行った
ウンスはチェ侍医のそばに寄り


どことなく100年前の
沙羅に似ているような?
私の知ってる沙羅もあれくらいの
年頃だったから


と言ってから顔をしかめた


まさか 今の人 あの人って?
徳興君に傷つけられた女人?
なの?
まさか?


沙羅に似ていると言うことは
自分にも似ているということ
ウンスのこころは
ざわっと乱れた


大護軍から何もお聞きに
なっていないのですか?


ええ 
あの人が黙ってるってことは 
私を守る時なの
だから 話しを
無理に聞き出すようなこと
したくなくて


そうでしたか
では私からは何も言えません


ウンスはじっとチェ侍医を見て
それから尋ねた


じゃあ なんの用事で
来たかだけ教えて頂戴
それはいいでしょう?


観念したようにチェ侍医が言う


先日のお礼に


じゃあ やっぱり
あの女人は・・・
そうなのね
あの人私に似てる?
だからあいつに狙われたの?
それで傷ついたの?


ウンスの声がかすかに
震えて侍医には聞こえた


さてどうでしょう?
確かに髪の色は
どことなく似ておりますが
医仙様は医仙様
あの女人はあの女人ですよ


そうだけど・・・
ジュヒもあの人も
なんだかいいにくそうな
顔してたもの
まさか 私に似てるから
あんなひどいこと?
そんなに私を憎んでいるの?


ウンスは
狡猾で自分勝手な徳興君に
ひどく振り回されたことを
思い出した
この国にいられなくなったのは
ウンスのせいだと逆恨みを
しているのかも知れないと
そんな風に思った
チェ侍医はウンスの真意を
計りかねたが静かに告げた


一つ朗報が


何かしら?


あの女人 医女試験に向けて
頑張るそうですよ


え?そうなの?


はい 
助かった命を人様のお役に
立てたいと
その報告に来たのです
心の傷が癒えるには
まだまだ時間がかかるでしょう
でも 前を向いて
歩き始めたのは事実です


そう よかったわ
チェ先生に助けて貰った
恩返しかしら?


そうなのかもしれませんが
と言うことは 
医仙様への恩返しですね


どうしてそうなるの?


天の医術を
私に教えてくださったのは
医仙様ですから


チェ侍医の声が
優しく 耳に響いた


さて 王妃様のご様子ですが
もう少し詳しくお話し下さい
どのような生薬が効くか
トギとサラも交えて
考えてみましょう


チェ侍医が話題を変えたので
ウンスはそれ以上
聞かなかった

どんなに辛いことがあっても
支えになる想いがあれば
人は生きて行ける
あの娘はきっと立ち直り
いつの日か医女として 
ウンスの前に
現れるかも知れない
ウンスはそんなことを思った

それに今の一番は王妃様だ
産み月まで後わずか
自分が知っている未来のように
出産の途中で亡くなるなどと
あってはならないこと
ママ友になって一緒に
お散歩するんだから!
ウンスはきりりと顔つきを
引きしめ直した


典医寺のみんなで
王妃様とお子様を
お守りするわ


チェ侍医が力強く頷いた


*******


『今日よりも明日もっと』
ただ前を見て
ゆっくりと歩んでいけたら
いつかまた 違う道が
現れて来るはず



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