屋敷を挟む通りの角に
ひっそりと櫻の花が咲いていた

花びらがはらりと一枚
ウンスの手のひらの中に
舞い落ちる

幾年月も夜を越え
ただそこにいる櫻の木

変わらぬ思いを胸に秘め
ずっとそこに佇んで
櫻 櫻
どれだけの人の恋を
見てきたの?

ウンスは櫻の木を見上げた


どうしました?


振り返ると
いつもと変わらぬ
チェヨンがいる


ううん
早咲きの櫻の木から
ほら 花びらが


真白な手のひらにそれはある
儚げな一枚の花弁


ハートの形・・・
みたいね


はーと?


ええ 愛の形


ウンスははにかむように
笑って見せた

愛・・・ 
自分よりも相手のことを
ずっとずっと大切に思う気持ち
高麗には馴染みのない
愛という言葉の意味を
いつだったか
チェヨンに聞かせた

やっと始まったばかりの
二人の新しい暮らし
一緒に居られるだけで
満ち足りる毎日

ウンスは
思い出すような顔をして
チェヨンに尋ねた


そういえば お屋敷にも
櫻の木があったわね


ああ あれは山桜の木です
幼き折は見事に咲いて
それから
甘い実をつけていたようだが
ここ数年はさっぱりだと
叔母上が言っていたような・・・
しばらく屋敷を離れていたゆえ
よくわからぬが


そうなの?
今年は綺麗に咲くかしら?


どうであろうな?


まだ少しだけ他人行儀な
敬語が時々混ざるチェヨンが
昔を懐かしむように
遠い目をしてウンスに答えた


イムジャ
そろそろ散歩は終いにして
屋敷に戻るとするか?
春とはいえ まだ肌寒い


うん そうね


ウンスの手を
すっとつかむと
チェヨンは歩き出す

暖かくて大きな手
愛される喜びを
教えてくれたあなたの手


たまにはいいわね
こんなお休みも
ただぶらぶらお散歩して
それに
お屋敷の近くも
知らないことばかりよ


夫婦になって日も浅い
ウンスが
きゅっと手を握り返し
道端の小さな花に目を留めて
優しく微笑んで言った


俺はイムジャがいれば・・・


何か言いかけて照れたのか
チェヨンは
黙ってウンスを見つめた


いれば 何?


その続きが聞きたくて
ウンスはわざと
チェヨンに問う


知っておるであろうに


困ったようにはぐらかす


あなたの口から
聞きたいの


紅色の唇から
甘えるような声がする

まん丸の目を煌めかせ
ウンスは
チェヨンを見つめ返した

屋敷の門をくぐると二人きり
チェヨンは答えの代わりに
恋しいウンスに唇を重ねた

恋焦がれる想いが
止めどなく溢れ出し
互いに唇を離せない
食むように激しく深く


愛してる
ずっと そばに


ウンスの華奢なからだを
抱きしめて
チェヨンの唇がやっと
そう言った


愛してる
ずっと 一緒よ


ウンスが囁く


この先 幾年月も
櫻の季節が巡りきて
二人の時が重なって
それでもきっと変わらない
恋する想い
愛する心


ただそこにいる櫻の木のように
いつまでも ずっと・・・


イムジャがいれば
幸せだ


櫻の花が
夫婦になりたての
恋人たちを見守っている


*******


『今日よりも明日もっと』
この想いがずっと
あなたに
届きますように






☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


桜の開花宣言が
ちらほら聞こえて参りました
本格的に春ですね

今日は 本編を一休みして
櫻の短いお話をお届けしました

明日も
いい日になりますように・・・

皆様
安寧におすごしくださいませ



にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村