ことことと輿は
緩やかな坂道を登る
甘い花の香りが漂って来て
春の訪れを感じた

輿がゆっくり止まり
「旦那様   着きました」
と御者が告げた

妊婦の頃はチェヨンの膝の上
今はタンがウンスの膝の上

タンは寒くないようにと
チェヨンの藍色のマントと
お揃いの小さな藍色のマントを
頭からすっぽり被らされ
身動きがとりにくくて
迷惑顔だ


うふふ
よく似合ってる
あなたのマントに似た生地で
ヘジャに作って貰ったのよ


ウンスはチェヨンに
言いながら満足そうに
タンを眺めた


あう   ああ~


御者が輿の扉が開くと
そこはよく知った場所
変わらぬ佇まいで
三人を迎えた


こんなにケナリが
咲いていたのね
ソウルのウンボンサン(鷹峰山)
みたいだわ


ウンスは懐かしそうに
言った


漢江(ハンガン)から
よく見えたのよ
一面黄色のあの山を見ると
春が来たと思ったものよ


そうか


最近はこの地に根付き
天界の話をすることも
めっきり減ったウンスだが
懐かしそうな顔は
チェヨンの胸を締め付けた
それに気づいたウンスが
優しく微笑む

あなたのそばが一番よ
美しい瞳が言っていた


これは珍しい客人だ


門のところまで
出迎えに出て来た
チェ家の菩提寺の和尚が
にこやかに言った


和尚様
すっかりご無沙汰しちゃって
ごめんなさい


息災でしたかな?天女
そなたは腹に子がおったのじゃ
このような山の中までは
なかなか来られまいて
おお   そちらは若様か?
ヨン   
そなたによう似ておるな


豪快に笑うと
タンを眺めた
タンは見知らぬ和尚に
警戒したのか
じっと見つめ返している


はい   
息子のチェ・ダンです


そうか
ヨンが父親か


感慨深げな和尚は
少し潤んだような目をして
三人を見た


和尚
墓に参る


チェヨンが言った


ああ   そうしろ
初孫をたんと見せてやれ
きっとお二人とも
お喜びになろう


ああ


タン
お祖父様とお祖母様に
ご挨拶しようね


あ~


チェヨンはウンスから
タンを受け取ると
ウンスが
転ばぬよう手をとり
墓に向かった


こんもりと土が盛られた
両親の墓
その前でチェヨンが礼を尽くす


父上   母上
なかなか来られず
すみませぬ
孫のタンを連れて来ました


あう   あう   あ~あ~


タンが声を出した
まるでよろしくとでも
言いたげなタンの声に
チェヨンが笑った


タン
あなたのお祖父様とお祖母様よ
お父様がヨンに作った椅子を
タンが使ってます
素敵な贈り物を
ありがとうございます
大事に使いますね
お父様   お母様
タンを見守ってくださいね


今度は
ウンスが墓に語りかけた
土が盛られた墓に触れると
日差しを浴びて
じんわりと暖かかった


暖かい


ウンスが言った


しばらくウンスとタンは
墓の前で過ごし
チェヨンはその場を
少しばかり離れた

それからすぐに戻ってきた
チェヨンとともに三人は
和尚がいる本堂に戻った


お披露目は済んだか?


ああ


彼方でお二人も
喜ばれているであろう
たとえ肉体はそばに
居らずとも
魂はそなたたちを
見守っていることを
忘れてはならぬぞ


はい   和尚様


タンの顔をじっと見た和尚は
チェヨンとウンスに伝えた


しっかり育てよ
若は
いずれこの国の希望となる
面構えをしておる


希望?


ウンスが呟く
和尚は静かに頷いた


高麗と天界を繋ぐ架け橋
未来へと繋がる希望


ケナリの花が風に揺れる
希望の花が咲いている


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『今日よりも明日もっと』
立ち止まり振り返る
自分が今ここにいることに
感謝して