屋敷に戻る間も
ウンスはチェヨンのまわりを
じゃれるように歩いている


ねえ お魚まだ生きてるね
こんなに活きのいい魚
ソウルでも
なかなか
お目にかかれなかったわ


そうか?


うんうん


なにして食べようか?
お刺身?焼き魚?
う~ん やっぱり海鮮汁?


うれしそうに話すウンスを
チェヨンが穏やかに
見つめていた


王宮に比べると格段に
粗末な今の暮らし
でも心が温かいのは
チェヨンがいるからだ
ウンスはチェヨンの
腕をとると
今度は半分ぶら下がるように
抱きつきながら
一緒に歩いた


門の前まで
トルベが迎えに出ていた
弾ける笑顔の二人に
トルベもにやにやと
笑みがこぼれてしまう

うれしくて ついうっかり
一言多く言ってしまった


仲がいいですね
医仙様
これならすぐに子宝に
恵まれそうだ


やだ トルベさんたら


ウンスが頬を染め
すかさずチェヨンの
手のひらが飛んで来た


いらんことは
言わんでいい


イェ!テジャン


して 今度は何用だ?
まったく お前の用事は
いつもろくなことがない


チェヨンは はぁと
ため息をついた


そんなぁ
せっかくご所望の品を
運んで来たのに


ん?
それならばスリバンに
頼んだはずだが


すぐに届けよと
チェ尚宮様が申されて


叔母様?
何を頼んだの?


ウンスが小首をかしげた


ああ まあな
トルベ 中へ入れ


イェ!


屋敷の奥の間に通された
大きな円卓には
藍色に染められた布がかかり
二人がここで一緒に
食事をしている姿が
トルベには浮かんで見えた

小さな飾り棚の上には
白い陶器の花瓶に桃の花が一枝
柔らかな匂いの香がたかれ
気持ちが落ち着く
窓を開ければ直ぐそこに波の音

改めてぐるりと見回すと
トルベは思わず
ウンスに笑いかけた


笑いかけるな


すかさずまた
チェヨンの鉄拳が飛んで来る


いって~
いい暮らしだなって
医仙様 幸せそうだなって
思っただけじゃないすか


それが余計なこと


うふふ 困った人ね
気にしないでね
トルベさん


優しいウンスの笑顔に
トルベは見惚れ
慌てて 顔を引き締めた
また殴られたらかなわない

そこにヘジャがウンスを
呼びに来た


奥方様
カヤさんが
具合の悪い子どもがいるから
診てくれないかって


あら どうしたのかしら?


お腹が痛いみたいで
あと熱もあるようです


そう 診療室にいるの?


はい お待ちです


トルベさん
そう言う訳だから
ちょっと失礼します
ゆっくりして行ってね
旦那様 じゃあ患者さんを
診てくるわね


ああ わかった
まったくカヤも次から次へと
患者を運んで来なくても
よかろうに


うふふ
村の役に立ててうれしいの
だからそんな風に
いっちゃだめよ


ウンスは笑って
それからヘジャを伴うと
屋敷の入り口にある
急ごしらえの
診療室に足を向けた


医仙様
ここでもご活躍で


まあな
医者はウンスの天職
この村でも忙しく働いておる


そうですか
チャン侍医も
王妃様もお喜びになりますね


そうかもしれんな


チェヨンはウンスのいる
診療室の方を眺めて言った


テジャン
もう 医仙様に
会いたいって顔してますよ


言ってから しまったと
思ったトルベは身構えた
だがチェヨンはふふっと
笑っていった


悪いか ば~か
俺は王宮にいた時の
俺ではない
女房に首ったけの
ただの男だ


そう言うチェヨンの顔が
トルベには誇らしく見えた
それから
懐にしまって来たものを
二つ チェヨンの前に置いた


これは チェ尚宮様より


小さな袋に入れられた
小さな箱


これは王妃様から
預かった文です


王妃様?


チェヨンは箱を懐にしまうと
文に目を通した
そこには
「倭冦討伐に力添えを」
と綺麗な文字で書かれていた


倭冦か?


はい この近くの港にも
出没しております


ああ そのようだな
ここからもう少し南へ下ると
活気のある港町に出る
あそこは警備も薄く
狙うには好都合であろう


はい
何度か そこが襲われ
被害も回を追うごとに大きく
王様が憂いております


そうか・・・


王様と言われ
チェヨンの顔が一瞬揺れた


だが俺は
一線を退いた しかも謀反人
武士でもないのに
倭冦討伐に加わる訳にはいかぬ
王様との約束では
都の悪事を陰ながら退治すると


それはわかってます
でも テジャンが抜けた穴は
大きくて
チュンソクテジャンも
必死に頑張っているのですが
王様の心労も大きく
王妃様がご心配のご様子
それでチェ尚宮様の使いで
テジャンに会いに行くことを
知った王妃様が俺に
文の言付けを


そうか
だが 倭冦討伐では
日帰りと言う訳にもいかぬ
それに都の役人を
成敗するのと違って
危険が付いてまわるであろう
俺の一存でこの村の者を
危険にさらすことは出来ぬ
少し考えさせてくれぬか


そうですよね
王妃様にはテジャンの
一存では決められないと
お伝えしておきます


ああ 即答出来なくて
すまぬ


いえ いいんです
テジャンにも
守るべきものがあるんだから


チェヨンの手が
ぱしんと飛んで来た


一人前の口を利くように
なりおって


その目はうれしそうだった


トルベが帰った後も
チェヨンは逡巡していた
診察から戻ったウンスが
心配そうにチェヨンを見つめる

あの目は王宮にいた時の
テジャンの目だ
そう思った


どうかしたの?


あ? ああ
いや


ウンスに
心配をかけたくなくて
チェヨンは口ごもった


黙っていたらわからないわ
夫婦は一心同体でしょう?
一緒に考えるから
話してみて


ああ 


なに?


倭冦の討伐にな


え?戦?


戦と言えば戦だな
この近くの港町なのだが
頻繁に上陸を許しているらしく
チュンソクが手を焼いている


うん
それであなたに
助けて欲しいって?


チュンソクは律儀な男
そんなことは言って来ぬが


じゃあ 誰?・・・
あっ 王妃様でしょう?
心配した王妃様が
あなたに頼んだのね


まあ そうだ


王妃様は身重だし
ご心痛はよくないわ
それで?
あなたは?


村の者を危険な目に
遭わせることになる
それにイムジャに寂しい想いを
させたくないのだ
だから 俺は・・・
やはり 行かずに
だな・・・断ろうかと


苦しそうにチェヨンが言った
黙って二人を逃がしてくれた
王様に受けた恩義を考えると
行かねばならないと
そう思う
それに 残して来た
王宮の者達のことも
気にかかっている
だが
ウンスのそばを
離れたくはなかった


うふふ
でも~
顔に行きたいって
書いてある
行ってらっしゃいな


ウンスが笑った
チェヨンは驚いた顔をした


イムジャ・・・よいのか?
少なくとも数日はかかるぞ


え~~~数日も!
チェヨンに会えないの?
それは困ったなぁ
チェヨン病が発病しちゃうもの
でも近くの港町なんでしょう?
だったら三日よ 三日で
やっつけて来て


おどけるように
努めて明るくウンスが言う


赤月隊はこの国の
最強集団なのよ
三日で
きっと大丈夫でしょう?


イムジャ・・・
それでも
結局 また寂しい想いを
させてしまうではないか


あら そんなことないわよ
だって私のところへ
必ず 帰ってくるんだもの


ウンスは微笑んだ


それにね
チェヨン
あなたはやっぱり武士なのよ
漁師になっても赤月隊隊長でも
やっぱり心は武士
私がどこにいても医者を
辞められないのと一緒
あなたはこの国と王様に
信義を尽くす武士だもの
助けを求める者を
放っておけないでしょう?
私はそんな武士のチェヨンに
恋をしたの


ウンスの言葉が心に
すうっと染み入って
チェヨンは
迷いを捨てるように
テマンを呼んだ


皆を集めろ
任務だ


チェヨンの澄んだ声が
奥の間に広がって聞こえた


*******


『今日よりも明日もっと』
信義をかけて戦う
待っている人のもとへ
帰るために




☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


今日中に本編に辿り着く予定
だったのですが・・・
この調子だとちょっと厳しい
 σ(^_^;)

「ひみ恋」 また
おつき合いくださいませ~



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