キ・チョルは氷功の使い手
自在に相手を凍らせる
それに剣術の腕も
ウダルチテジャン チェヨンを
凌ぐかも知れない

だが
キ・チョルもまた
自分自身の内功に
苦しめられていた
身体が寒くて仕方ない
それは心のうちも冷やした
だから
多くの人臣の心を欲しがった
多くの者の心を
手中に収めることが
唯一穏やかに感じられる時で
あったから
キ・チョルは冷えた身体を
暖めるために薬湯に浸かっていた

それでも身体の芯が暖まることは
なかった
いつの日か 
自分を暖めてくれるのは
まだ見ぬ天界だけだと
キ・チョルは信じていた

キチョルは湯船の中から
チョヌムジャに声をかける


舎弟
お前 あのカヤグムの女に
惚れたのか?


チョヌムジャは黙ったまま
キ・チョルの次の言葉を待った


それは
ちいとまずい
なぐさみに抱くのなら
まだしも 
本気で懸想するのは
まずいであろう


なぜだ 兄じゃ


考えても見ろ
まず舎妹が騒ぐ
お前達の仲を俺が知らぬと
思ったか?
お前は舎妹の男だ
それに相手は王宮の侍医の
縁者であろう?
侍医の後にはあのチェヨンが
そして王がいる
どうでもいい女の為に
今 争いに巻き込まれるのは
得策ではない
それにさらった
その女を此処においておく
名分もない
舎弟よ
一夜の遊びと思って
女は始末しろ


兄じゃ!
舎妹は毎夜他の男と
遊びほうけているのに
俺は許されないのか?


このキ・チョルの命令に
まさか逆らう気か?
舎妹が戻る前に始末せよ
よいな


チョヌムジャはぐっと
耐えて頷いた


ミヨンが幽閉されている部屋に
チョヌムジャは急いで戻った
もうすぐファスインも
戻って来る
もう時がない
チェヨンが此処に来るのを
待つことも出来なくなった


ミヨン


ユチョン どうしたの?


ミヨンはぱっと明るい
表情を見せて
チョヌムジャの
名前を呼んだ
チョヌムジャが
行ってしまってから
心細くて
泣きそうだったから
戻って来たチョヌムジャに
安心した

チョヌムジャはミヨンを
ぎゅっと抱きしめて


逃げるぞ


そう言った


逃げるの?


ああ 兄じゃがお前を
始末しろと言った
兄じゃには逆らえぬ
だが俺にはお前を始末するなど
できるわけもない
だから 出会ったあの山へ行く
天へ通じる門がまだ
開いているかも知れん


ソウルへの門が?


そうだ ミヨン
だから急いで此処を出る


チョヌムジャは
背中にカヤグムを縛り付け
手にテグムを持ち
空いてる方の手で
ミヨンの手を掴んだ


でも 私を逃がしたら
あなたはどうなるの?
殺されるわ
そんなの嫌


兄じゃは俺を殺せない
俺達はそんなに弱い絆で
結ばれてはいないのだ


じゃあ あの女の人とも?
強い絆ってこと?


ミヨン 今は舎妹のことは
どうでもよい
俺はお前に生きていて欲しい
ただそれだけだ
どこかで幸せに生きていてくれ
それが手の届かない
天界でもかまわない
お前が生きていると思えれば
それでいいから


チョヌムジャは耳を澄ませる
千の音を自在に聞き分ける力を
持っていることに 
初めてよかったと思った

頼む あの山まで
無事に俺達を行かせてくれ
人の気配がしない方へ
音のしない方へと
馬に跨がり 屋敷を抜けた

チョヌムジャの背中には
カヤグム
チョヌムジャの前には
テグムを握りしめたミヨンがいる
片手でミヨンの腰を
しっかり押さえ
もう片方で 手綱を握る
ミヨンの香りが風に乗り
チョヌムジャの鼻をくすぐる


━─━─━─━─━─


チェヨンとウンスは
それぞれ馬に跨がり
都の外れの山道を目指していた

ウンスはミヨンから
木の間から
降ってくるように
落ちて来たと
ここに来た時の話しをしていた
そして気がついたら
チョヌムジャに抱きとめられて
いたんだと

天界に通じる門が
この都にもあると言うこと
なんだろうか?
もし 目の前の
門が広がったらどうする?
ウンスは隣で馬に乗る
チェヨンをちらちらと見ながら
そんなことを思った

チェヨンの横には
テマンがぴたりと
張り付いている

山道をひたすら登る
山の中腹の少し開けた場所を
横道にはいった
チェヨンとウンスは
桐の木の群生を見つけた
春になったらきっと
辺り一面紫色になるだろう
群生の下は切り立った崖に
なっていた


チョヌムジャは
先を行く馬二頭と男の足音を
聞き分けていた


チェヨンと医仙がこの先にいる
お前を預けるのにちょうどいい


チョヌムジャは言い
チョヨン達の音がする方へと
馬を進めた

チェヨンとウンスが
馬上から桐の根元を見つめている
ミヨンは大声でウンスを呼んだ


ウンス~~~


ミヨン!
無事だったのね
会えてよかった


ウンスが馬を降りて
ミヨンに駆け寄る
チェヨンがそばで見守っていた
ミヨンがウンスに言った


ユチョンが助けてくれたのよ


ユチョン?


彼の名前


ミヨンはチョヌムジャを見た
それからミヨンは


それより私
思いついたのよ
ソウルに帰る方法を


興奮したように
ウンスに言った


帰ろう ウンス
ソウルへ
私達が住む時代へ


後を振り返ったウンスの
目に映ったのは
切ない顔のチェヨンだった


ユチョン お願い
カヤグムを頂戴
それからユチョン 
テグムを吹いて


だめよ
この人のテグムは人殺しの
音色だもの


大丈夫
カヤグムの音で中和されるわ
ウンス 信じて
これで帰れるのよ


ミヨン?


カヤグムを奏でる音
テグムの音色が辺りに響いた
桐の木の根元から
青白い光が溢れ出す


チョヌムジャには大勢の足音が
聞こえて来た
キ・チョルの配下か?
ファスインもいる
それに もう少し後から
馬の蹄の音が聞こえる
ウダルチの兵士達もこちらを
目指している


飛び込もう ウンス


でも でも
そんな急に
みんなにお別れも言ってないし


ウンス みんなが待ってる
あなたの帰りを
ミヨンがウンスの手を掴んだ


急げ 追っ手が来る


チョヌムジャが叫んだ
ウンスはチェヨンを見た


ユチョン これをもって


驚いた顔のチョヌムジャに
カヤグムを渡すと
ウンスの手を握り
空いた方の手で
チョヌムジャの腕を掴んだ
そしてミヨンは
ゆっくりと 光の中へと
歩みを進めた


ウンス 
ウンスや~~~~


ウンスを呼ぶ
チェヨンの声がする


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『今日よりも明日もっと』
失って初めてわかる
どれだけ
大切な人だったのか





☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*

風邪ひいたみたいで
なんだかくらくら
する~~  ( ̄□ ̄;
喉が痛いharuです

皆様も
お気をつけくださいませ