がたがたと山道を輿は
揺れながら進んで行く
紅葉も盛りを過ぎ
枯れ葉が舞い散っていた

タンは輿の中
ウンスの腕の中で
気持ち良さそうに
目を瞑っていた


かわいいのぅ
こうして見ると
チェヨンに似ておるな


ふふ
そうでしょう?
この唇とか目元とか
そっくりですよね


ウンスの言葉が幸せそうに
輿の中で響く


そうじゃな
のう 天の姉様


ポムがそばに
いないのをいいことに
ナラン姫は親しみを込めて
ウンスをそう呼んだ


なんですか?


抱いてみてもよいか?


ええ もちろん


ウンスはナラン姫の腕の中に
タンをそっと置いた


見た目より
ずしりと重いのじゃのぅ


ええ
チェヨンと私を繋ぎ
高麗と天界を繋ぐ絆の子だから
ずっしりとしているでしょう?


架け橋か


ええ


妾もなれるかのぅ?


え?


架け橋じゃ


ん?


いや よいのじゃ
良い子じゃ
すくすく育てよ
そなたが大人になった時
高麗も元も
仲ようしておるとよいな


ウンスは自分が知っている
歴史は頭の隅に
しまい込み
「そうですね」と言った


チェヨンが幸せそうで
よかった


ナラン姫はしみじみ言った


妾は慶昌君様には
一度しか会うてはおらぬが
在位されているときは
文のやり取りをよくしたのだ


そうでしたか


チェヨンのことが
必ず書いてあったぞ
腹心の部下だと
信じられるのは
あの者だけだと
冷たい振りをして
よく気配りが出来ておると
いつも褒めておった


そう


大好きであったのだ


はい
それは夫も同じです
慶昌君様のことを
王様と臣下以上に
お慕いしてました
江華島へ向かうときも
ずっと心配していて
お顔を見てからはさらに
心を痛めて
なのに
あんなとどめを刺すような
ことを夫にさせてしまって


もうよい
そのことで自分を責めては
ならぬぞ
天の姉様がチェヨンのそばに
いてくれてよかった
慶昌君様もきっとお喜びだ
だからそなた達には
幸せでいて欲しいのじゃ


姫様・・・


定めとは不思議なものじゃな


ナラン姫はぽつりと言った
タンが少しぐずり出し
ウンスは自分の胸に抱いた
安心したように
タンはまた眠り出した


母が分かるのじゃな


ナラン姫は微笑みながら
タンを見つめて言った


輿の横には愛馬チュホンに
跨がるチェヨンがいた
姫とウンスの会話が
耳に入る
チェヨンは静かに目を閉じて
慶昌君の顔を思い出す


ヨン ヨン


笑っている顔が浮かんだ


━─━─━─━─━─


忠定王の墓の前に
祭壇を整える
ナラン姫が前に歩み出て
祈りを捧げた


長いこと墓を見つめ
慶昌君様と話しをしている
ようであった

それからナラン姫は
懐から銀の小刀を取り出し
祭壇に置いた


これをお返しに参りました
王様


ナラン姫はそう言った
祭壇の上に置かれた
銀色の龍の小刀が
太陽の光を浴びて
きらきらと輝いている

ナラン姫が一歩下がり
代わりに
チェヨンはウンスから
タンを預かると
顔が見えるように
前へ差し出し
胸の奥で告げた


慶昌君様
息子のタンを連れてきました


おお そなたがタンか
チェヨンが父で
うらやましいぞ


慶昌君様のおどけた声が
ウンスには聞こえた気がした
ウンスはチェヨンに並んで
祈りを捧げる

ポムを始めトクマンや
お付きのもの達が
次々と礼を尽くすのを
ナラン姫はずっと見ていた

皆が終えると
祭壇から小刀を取り


これをご子息に


ウンスの手に渡した


え?
タンに?


ああ そうじゃ
それが一番よいと思うて
慶昌君様が心を許した
ふたりの息子に渡すのが
一番よい
輿入れまでの
守り刀とおっしゃられたが
もはやそれは叶わぬ夢


はい


この刀には慶昌君様の
お心がこもってる
きっとご子息を守ってくれよう


このような大事な物
いただけないわ


よいのじゃ
持っていてくだされ


でも・・・


ウンスはチェヨンを見た
チェヨンが頷く


妾はもうすぐ嫁に行くのじゃ


え?


この高麗に来ることも
もうないであろう
相手は反目する部族の
長の息子だが
宴の席で見初められ
是非にと乞われたのじゃ


そうでしたか


妾は幼き日にお会いして以来
ずっと
慶昌君様をお慕いしていた
お優しい方であった
お心の美しい民を思う
よい王様であった


チェヨンが頷いた


最後に慶昌君様に
もう一度会いとうて
この刀をお返して
妾はもう大丈夫と
お伝えしたくて
父 魏王に無理を言って
高麗の地まで密かに
来たのじゃ


ウンスはまだ若い
この姫君に
100年前の沙羅を重ねた


嫌々 仕方なしに嫁に
行くのではないぞ


ナラン姫は複雑そうな
ウンスの顔を見て呟いた


その方は
妾を慕ってくれておる
大切にすると言うてくれた
慶昌君様の許嫁だったことも
もちろん知っておるが
それでも構わぬとな
少しずつ自分を慕って
くれれば良いとそう申された
妾も前に歩き出さねばと
思うてな


チェヨンはウンスの横で
じっと聞いていた
そこには兵舎の庭で
ファンと走り回っていた
十歳のあどけない
女の子はもうおらず
前をしゃんと見て
生きていこうとする
女人の姿があった


姫様は
きっと幸せになれるわ


ウンスがナラン姫の
手を取り言った
チェヨンが頷く


そなた達や慶昌君様に
後押しされた気分じゃ
姉様も喜んでくれたしのぅ


ナラン姫はさっぱりとした
顔をして空を仰いだ


慶昌君様 空から
見ていてくださいね
ナランは幸せになりますゆえ


ナラン姫はまっすぐ天を捉え
その瞳には迷いや憂いはなかった


最後にもう一度ナラン姫は
ウンスに
もう会うこともないであろう
姉の王妃様のことを
くれぐれも頼むと言い残した


動き出した輿が
静かに山を下る

都の外れにさしかかり
ナラン姫は一度窓を開け
ウンスとチェヨンに向かい
頭を下げた

そして輿は黒装束に
守られながら
元を目指し走り去った

ウンスはチェヨンと並び
輿が
見えなくなるまで見送った


ナラン姫が
どうか
幸せでありますように


チェヨンがウンスの肩を抱き
タンの顔を覗きながら言った


王宮へ帰ろう


道の先は
どこに続いているのであろう
だがどんな道でも
あの姫ならば
きっと
切り開いていくことだろう


空からはいつも
慶昌君様とファンが
見守っているのだから・・・


*******


『今日よりも明日もっと』
祈りを込めて
あなたの幸せを願います



にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村