ナラン姫とそんな風に
幸せに
過ごした時間もあったのね


かつて兵舎にナラン姫が
王様を訪ねて来た話を聞いて

良かったと思う気持ちと
慶昌君様の笑顔を思い出し
切なくなる気持ちが
入り混じるウンスは
すうすうと寝台に眠るタンを
見つめながら
チェヨンに言った


ああ
そうだな


その時いた犬のファンも
トルベももうこの世には
いない
無常の時がウンスの胸に
寂しさを募らせた


チェヨンとウンスは
夕餉も湯浴みも終わり
タンを寝かしつけ
閨の
寝台の上に腰掛けて
今日の出来事を話していた

ナラン姫に会ったことで
江華島(カンファド)での
辛い思いを思い出したが
それと同時に姫の存在に
救われた気もする

チェヨンがとんとんと
自分の肩を叩いて
ウンスを呼んだ
ウンスはチェヨンの肩に
すっともたれかかり
亡き
慶昌君(キョンチャングン)に
思いを馳せた

恋と呼ぶには幼すぎる
王様と許婚
王様が十五になられたら
婚儀を挙げる予定であったのに
叶わぬ夢と散った
まだまだ子供の二人に
運命はなんと残酷だったのだろう


廃屋に幽閉されてた
粗末な身なりで
食べ物だって
ひどかったわ


ああ


ヨン   来てくれたのかって
うれしそうにあなたに
抱きついていたわね


ああ


お茶目で素直で
優しい方だったわ


そうだな
イムジャは慶昌君様に
天界の歌を
唄って差し上げていたな


そうだったわね
天界の女人は
みな美しい天女なのかって
言ってくださったわ


そうであったな
俺に天界の話を尋ね
楽しそうに笑われていたな


チェヨンはしみじみと
思い出すような顔をした


なのにごめんね
慶昌君様の最期
あんな風に
あなたに
苦しみを背負わせて
ごめんね
何にも知らずにあなたを
責めて


泣きそうなウンスの
頭をなでながら


過ぎたことだ
それにイムジャが
そう思うのも無理はない
だからもう泣くな


チェヨンが優しく言った


それにイムジャは
あれから高麗の医術を
真剣に学び始めたであろう


知ってたの?


ああ   イムジャのこと
いつも見ていたゆえ
すぐに気づいた


うん
あなたにあんな辛そうな顔を
二度とさせたくなかったから
天の医員なのに
何も出来ないのかって
言われた時
自分が情けなかった
現代の医術が使えないこと
言い訳にしたくなかったから


そうか


チャン先生に言われたのよ
あなたがあの時殺したのは
自分の心だって


侍医がそんなことを


うん
その時やっとわかったの
どんな想いで慶昌君様を
刺した
の・・・か


ウンスは泣いた


過ぎたことだ
今の俺は満ち足りている
だから大丈夫だ


チェヨンがウンスの
肩を抱いて言った


うん   でももし
あなたがもし疲れたら
私もいつでも肩を貸す
そばにいるからね
あの時あなたを一人にして
ごめんね


ウンスは江華島で
初めて
チェヨンに肩を貸した
ことを思い出す
あのまま向き合うべき
だったのに
その後の出来事
慶昌君の死があまりに
衝撃過ぎて
チェヨンを
遠ざけてしまった
後悔が込み上げる


もう泣くな
イムジャに泣かれるのが
一番こたえるのだから
イムジャの気持ちは
わかっておる
俺たちはふたりで一つ
であろう?


うん


泣き止んだウンスの
涙を指でぬぐいながら
チェヨンが尋ねた


明朝    姫様は
追尊された忠定王
(チュンジョン)の墓参りに
寄られるそうだ
ウダルチが警護につくゆえ
イムジャも一緒に行くか?


いいの?


ああ    そう言えば
最近墓参りに行って
なかったな


うん
なんとなく辛かったし
でも行きたい
あなたと一緒に


ああ
タンも連れて行こう
慶昌君様にお見せせねば


そうね


チェヨンはウンスの顔を
じっと見つめて
ゆっくり唇を重ねた
ウンスは
雪崩れ落ちるように
そのままチェヨンに
身を預けた


先ほどの続き


チェヨンが
待ちきれないように
ウンスに問うた


うん   


ウンスの手がチェヨンの
背中にまわり
腕に力を入れて
チェヨンをぎゅうっと
抱きしめた

ウンスのからだを
愛しむように
チェヨンが抱きしめ返す


一緒に
幸せな夜を過ごしたい


ウンスの囁きが聞こえる


ああ
うんと幸せな夜にする


絹のようななめらかな
肌の上を唇が滑り
慈しみ合うように
チェヨンはウンスを
夜通し愛し続け
ウンスはその愛に
応え続けた


*******


『今日よりも明日もっと』
いつかこの身が果てようと
あなたへの想いは
変わることはない