ポムに預けられたタンは
奥の間の隣にある
螺鈿細工が施された
豪華な寝台に寝かされていた


寝台に置かれても
目が覚めないあたり
将来は大物でするぅ


ポムは片時もタンから
目を離さずに言った


うふふ
何処ででも
寝る特技は
きっと父親ゆずりね


ウンスがチェヨンを見て
微笑んだ


そっかあ
そうなんでするね~
じゃあ   父上様   母上様が
お揃いですゆえ
ポムはチュンソク様の
顔を見てきまする
すぐ戻りますゆえ 


ポムは
軽やかに出て行った


まったく
せわしない女人だ


あら
あれはポムなりに
気を使ったのよ
私達を親子水入らずに
してくれたんだわ


そうか?
俺にはいそいそ
チュンソクに会いに
行ったようにしか見えんが


チェヨンはタンの顔を
眺めてから
ウンスの肩に
手を回し引き寄せると
そう言った

やっと二人きりになれたのを
待ちかねたように
チェヨンがウンスの唇に
唇を重ねようとした瞬間
廊下で
ガシャーンと勢いよく
お皿の割れる音がした


な   なんだ?
チェヨンが驚いた


うふふ
きっとオリちゃんだわ
よくものを壊すのよ
あの子


すみません
ごめんなさい


廊下から女官見習いの
オリの泣きそうな声が聞こえ
小言を並べる女官ヨリの
話が耳に届く


どうしてそなたは
いつもそうなのだ
慌ててはしくじる
毎度同じことの繰り返し
医仙様やヘジャが
優しいからと言って
王宮では務まりませぬ
もっと気を引き締めよ


延々と小言が続きそうな
気配がして
見かねてウンスが
出て行こうとしたのを
チェヨンが止めた


奥向きには奥向きの
やり方もあろう
イムジャが口を挟めば
余計に
ややこしくなるだけだ


そおかしら?


ああ
まあ   放っておけ
ちゃんと片がつくゆえ


ウンスは聞き耳を立てた
そこへ
ぱたぱたとヘジャの
足音が聞こえる


あらあら
またですか?
この器は奥様が
お気に入りだったのに


ヘジャが残念そうに
こぼした


まことに
申し訳ありませぬ
女官見習いともあろうものが
こうも度々不手際で


ヨリが頭を下げる
オリは涙目になっていた


まあ   壊れてしまったものは
致し方ありません
オリさん   次は気をつけて
くださいね


はい


女官見習いオリが
しょんぼりと答えた


片付けはやりますから
新しい御膳を厨房から
運んで来てくださいな
旦那様はお時間がそんなに
ないはずですから


ああ   はい!


オリは
力一杯駆け出した


後ろから女官ヨリの
声がかかる


オリ!
そのように走るなど
女官見習いに
あってはならぬのに


はーい


オリは聞こえなかった
かのように
全力疾走で
厨房へと消えた


まったくオリは
いつになったら
一人前の働きが出来るのか
それに医仙様の大切な器を
粉々にして


ヨリが言うと
ヘジャは平然と答えた


形あるものは必ず
壊れますゆえ
お気になさらぬように
それにうちの奥様なら
壊れた器よりも
オリさんが
怪我をしなかったか
そちらを気にされるはず


はあ


まだほんの子供ですが
何事にも全力で取り組む子
全力すぎてよくぶつかり
転んでいますがねぇ
本人はそれだけ懸命に
忠義を尽くして
いるつもりなのでしょう


ヘジャは笑った
おとなしく見えたオリは
日が経つにつれ
本来の明るく元気な姿を
ヘジャやウンスにも
見せるようになった

仕事を覚えようと
一生懸命だが失敗も多い
だが
なんとなく憎めない子で
いつもにこやかに頑張る
オリをヘジャは
気に入っていた


そうですか?
そう言っていただけて
助かります


しっかり者のヨリが
言った


ほんとだ
いつのにか
話がついたみたい
ヘジャもやるわね


うちの奥女中は女官以上の
働きをするゆえな


うふふ
頼もしいわ


ふたりは楽しそうに
笑いあって
奥の間の卓についた
いつもどこか触れていないと
落ちつかないのか
どちらからともなく
卓の下でそっと手を繋いだ
ぬくもりが互いに伝わり
暖かい

少しして
オリがしずしずと膳を
運んで来て
申し訳なさそうに
ウンスに言った


あのう
医仙様   実は器を
割ってしまいまして


あら   怪我はなかった?
次   気をつければ
それでいいわ
しっかり励んで
ヘジャにもたくさん
仕込まれて
いい女官さんになってね


ウンスが微笑むと
オリは顔を輝かせて
何度も頷いた
その様子を後ろに控えた
ヘジャが満足気に
見守っている


ヘジャにお任せを!


━─━─━─━─━─


昼過ぎに王宮を出た
チェヨン達ウダルチ数名は
都外れの山林で
密かに客人を待っていた


ところでどなた様
なんですか?
客人って?


元からの客人の警護に
つくように
急に隊長命令が下りた
トクマンは
訳がわからず
元の人間と関わるなど
どうせろくな任務ではない
と思ってチェヨンに
ついて来ていた


余計なことは
聞かんでもよい
急な知らせが届いたのだ
任務の遂行だけを
肝に銘じよ
とにかく客人を無事に
王宮にお連れする
そして無事にお帰しする
それだけだ


はあ
大護軍自らお迎えなんて
よっぽど高貴な方
なんだろうな


トクマンは呟く
やがて
黒塗りの立派は輿が
二頭立の馬に引かれ
こちらへやって来るのが
見えた
供の者数人が黒装束で
辺りを警戒している
なんだか物々しい

輿はゆっくり
チェヨンの前に
止まり
窓がほんのすこしだけ開いた


輿の中から
可愛らしい女人の声


久しいのぅ
チェヨン


はっ
お久しぶりにございます
姫様


*******


『今日よりも明日もっと』
時にしくじり
時に傷ついても
何もやらないよりは
ずっといい



☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*

御礼リクエストにリクを
頂きました

★オリーブむすめさん
女官見習いオリのドタバタのリク
ありがとうございました
これからもヘジャにしごかれて
オリは
素敵な女官になりますヨン


☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


さて姫様登場!
誰?




日本列島冷え込みが
厳しいみたいです
皆様
安寧にお過ごしくださいませ