晴れ渡った空のもと
兵舎の広場では
ウダルチ達のかけ声が聞こえる
構え!
突け!
トルベの合図とともに
新入隊員が槍の稽古
テジャンは?
稽古を眺めていたチュンソクが
テマンに聞いた
あれれ?
まだ来てないですか?
部屋にはいなかったけど
テマンが首をかしげた
俺がどうかしたか?
典医寺から戻り
なに食わぬ顔で
チェヨンが鍛錬に合流した
いえ
お顔が見えなかったので
俺がいなくても
稽古ぐらい出来るだろう?
イェ テジャン!
チュンソクが余計なことを
聞いてしまったという顔をした
トクマンがチュンソクの
様子に気づくはずもなく
浮かれた様子でチェヨンに聞いた
医仙様は大丈夫でしたか?
随分 酔われていたようで
チェヨンは内心どきりとしたが
悟られぬように
トクマンをじろりと睨みつけた
あっちゃ~まずいことを
聞いたかな?
一瞬たじろぐトクマンに
チェヨンが言った
減らず口が叩けるとは
お前 いい度胸だな
どれほどのものか見せてみろ
顎をくいっと前に出すと
広場の真ん中を空けさせ
トクマンと手合わせを始めた
昨夜はウンスに翻弄されて
ほとんど寝ていない
チェヨンであったが
それしきのことでトクマンに
負ける訳はなく
トクマンが切り込んでくるのを
鮮やかな返り討ちで
何度もたたき落として行く
うえ
ぐえっ
トクマンのうめき声が広場に
響いた
チェヨンは衣の裾をひらりと
なびかせると
空を舞い 自由自在に剣を操る
その姿はもはや芸術的で
見ていて惚れ惚れするものだった
トクマン まだだ
かかってこい!
チェヨンの激が飛ぶ
すでによれよれのトクマンが
くそ~~~~~
と 息巻いて挑んで行くが
やはり どさっ どさっと
たたき落とされていった
テジャンには手加減と言う
言葉がないな~
見ていた新入隊員が
震え上がった
トクマンですら擦りもしない
ましてや新入隊員の技量では
太刀打ち出来る訳もない
トクマンが足腰立たないくらい
打ちのめされると
来い!
チェヨンが
新入隊員に声をかけた
テジャンと手合わせ出来る
数少ない幸運に
皆 勇んで挑むが
雪崩れるように
ことごとく倒れていった
新入隊員のコハクも
飛び出そうとして
首根っこをトルベに掴まれた
離してくださいよ
トルベさん
俺も手合わせしたいんです
こんなことめったにないから
お前は駄目だ
あとで 俺との手合わせが
あるだろう
今 テジャンにやられたら
手合わせ出来なくなる
むぅとしたコハクを
ちらりと見下し
お前 相変わらず
線が細いな
ちゃんと食ってるのか?
自分よりずっと背の低い
コハクの頭をぺしぺしと
叩いた
大きなお世話ですよ
あ~~~~
出番がなくなった~
チェヨンが
チュソクと手合わせを
始めたのを見て
コハクが残念そうに呟いた
チェヨンは息があがるどころか
ますます調子づいて
軽快な足さばきを見せている
チュソクの剣とチェヨンの剣が
カンカンと小気味いい音を
鳴らしている
テジャンに引けを取らない
チュソクの剣を
受けて立つチェヨンも
どことなく楽しそうだった
チュソクの手が一瞬ひるんだ
隙に チェヨンが剣を
たたき落とした
よし
ここまでだ
急に腑抜けたチュソクの
視線の先に ウンスがいた
チェヨンはその視線に
気がつかない振りをして
お前もまだまだ
修行が足りんぞ
チュソクを一喝した
イェ テジャン
チュソクが頭を下げた
兵舎の門のところで
ウンスが手を振っている
チェヨンを
大きな身振り手振りで
呼んでいた
ねえ
チェヨンさん
テジャ~~~~ン!!!
皆が一斉に
ウンスの方を振り向く
相変わらず 困ったお方だ
苦い顔をするはずが
チェヨンは微笑んで
ウンスを見つめた
ウンスは典医寺の薬員の
女の子2名に
大きな鍋を持たせていた
チェヨンが呆れた顔を作り
ウンスのそばに駆け寄る
今度は何です?
もう そんな言い方
しなくったって
いいでしょう?
お世話になったお詫びに
ホッケ茶を持参したのよ
ほら 二日酔いにも効くし
ウンスがにこにこと笑った
その笑顔に引き込まれそうに
なるのをぐっとこらえて言った
ウダルチにはあれしきの酒で
二日酔いになる者など
おりませぬ
怒った顔のチェヨンのことを
気にする素振りもせぬウンスは
薬員の子に広場の端に
鍋を置いてもらうと
持参したお椀にお茶を注いで
チェヨンに渡した
チェヨンはお椀を受取ると
お茶を口に含む
香ばしい香りが鼻腔に
抜けて行った
美味しいでしょう?
上目遣いにウンスが聞いた
ええ まずくはありません
チェヨンがそう言うと
え? うそ?
その程度?
美味しく出来たと思ったのに
チェヨンの持っていたお椀を
奪い取ると ごくりと
飲み干した
なによ
美味しいじゃない
ウンスがぷうとふくれた
その様子を隊員達が
にやにやと見ていた
おい お前ら
随分と隙だらけだな
チェヨンの声が響く
素振り1000回
終わった者から茶を貰え
えええええええ~~~~
1000回????
無理っすよ~~~~
皆の悲鳴が聞こえた
随分と怖い鬼軍曹ね
ウンスはふふふっと笑った
それからチェヨンの腕を
掴むと ずずずっと
ひっぱって 門の外に出た
ねえねえ 銀杏の木が
あるでしょう?
あれ
実がたくさんなってるわよね
ええ
あそこのぎんなんって
採ってもいいのかしら?
はあ 構わぬが?
チェヨンが怪訝な顔をした
ぎんなんって
処理する時臭いけど
美味しいのよね
酒のつまみにもいいし
ほら 焼いて塩を
ちょっと振って
あ~~~焼酎が飲みたく
なって来た
ウンスが笑った
懲りないお方だ
昨日あれほど深酒して
さっきまで 二日酔いだったのに
チェヨンがため息をついた
ウンスはチェヨンの腕を引き
銀杏の木の下に連れて来た
幹の陰に立つと
上を指差した
ねえ あそこ見て
は?
チェヨンが上を見る
どこです?
あそこよ
ほら
ウンスの手がチェヨンの
肩を引いた
は?
突然
チェヨンの頬に
柔らかいものが触れた
それがウンスの唇だと
チェヨンには
にわかには信じられなかった
お礼
腕枕の
昨日は迷惑かけてごめんね
ウンスが頬を赤く染めて
チェヨンに言った
チェヨンは
わざとむっとした表情で
ウンスを銀杏の幹に
追い込むと言った
それでは足りぬ
ウンスの唇を奪った
木の幹に隠れて交わす
大人の口づけ
兵舎の広場からは
空を切る剣の音が
乱れもなく続いている
ウンスは長い口づけから
やっと解放され
その場に
しゃがみ込みそうになって
チェヨンに支えられた
だいじょうぶ?ですか?
チェヨンがウンスを覗き込む
大丈夫じゃないわよ
不意打ちだもの
ウンスがふくれた
イムジャも不意打ちだった
チェヨンが頬を抑えた
それには返答せずに
ウンスが言った
罰として銀杏拾い
つき合いなさいよね
ウンスはどぎまぎした
虚勢を張るのが
精一杯で
チェヨンが絡めた舌の
感触が口の中に
まだ残っていた
甘く広がる口づけを
もっと
欲しいと思ってしまう
自分自身にも驚いていた
チェヨンが真っ赤なウンスの
頬に手を当てて
笑って言った
銀杏拾いくらい
いくらでも よろこんで
もう一度 唇を合わせようと
顔を近づけた時に
テマンが転がり込んで来た
医仙様!
大変です
新入隊員のコハクが!
チェヨンと
ウンスは顔を見合わせた
黄金の銀杏の葉が
ひらひら舞っている
*******
『今日よりも明日もっと』
あなたに届け 私の心
大好き
もっと好き うんと好き
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*
銀杏の実を小さな頃
よく拾いました
風の強い日の翌朝が狙い目で
近所のお寺の境内にあった
銀杏の木から落ちた実を
黄色い宝石を拾うみたいに
せっせと集めて歩きました
処理に手間がかかり
ものすごく臭いけど
その匂いが子どもの頃の
秋の知らせだった気がします
乾燥させた殻を煎って
中から取り出す
緑色の銀杏の実
美味しかったな~
今でも 銀杏の実が
落ちていると
つい拾いたくなるharuでした
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