兵舎の門を出たところに
背の高い
銀杏の木があった
秋も深まり緑色の葉が
鮮やかな黄色に染められて
枝には黄色い実が鈴なりに
実っていた

その木の陰に
隠れるようにして
トルベは人を待っていた
兵舎からは
この木が目隠しになっていて
トルベの姿は見えない


遅いじゃないか
隊長に見つかるかと
冷や冷やしただろう


武閣氏のかっこをした
二十歳半ばの娘が
トルベに謝った


ごめんごめん
だけど いっつもあんたは
無茶ばかり言うじゃない
しかも急に
集めるのだって一苦労よ
これが最後だからね
もう 来月には
あたしはここを去るんだから


わかってるよ エミ
恩に着るからさ
で 首尾は?


あんたこそどうなのよ
今更 テジャンが来ないとか
なしだからね


それは大丈夫だ
秘策があるから


ほんとよね
テジャンと飲めるってのを
えさに集めたんだから


えさって お前な
相変わらず 口が悪いな
そんなんで 
あんな大きな商団の女主人が
つとまるのかよ


大丈夫よ
あんたと違って
旦那様になる人は
しっかり者で優しいからね


エミは笑って言った


トルベとエミは幼馴染みで
エミの方が少しばかり年上だ
ちゃらんとしたトルベを
姉御肌のエミが
子どもの頃から
何かしら面倒を見てきた

お互いに
王宮につとめるように
なってからは
武閣氏の噂話しや情報は
大抵 エミから聞いた
それから 
武閣氏にかわいい子がいると
いつも間に入ってもらっていた

今回も 結婚を控え
武閣氏を退任するエミに
無理矢理頼み込み
武閣氏たちとの宴の
根回しを依頼していた


だってさ
あの子 話しかけても
知らん振りでさ
だから 一度酒の席で
一緒に飲めば
親しくなるんじゃないかと
そう思ってさ


あんた これで何人目よ
いい加減 目を覚ましたら
誠実な男が結局一番なのよ


エミは諭すように
トルベに言った


姐さん 
そんなこと言わずにさ


にっこり微笑まれると
昔からのよしみで
どうしても甘くなる
エミはやれやれと首を振って


とにかく
ヨンファには出るように
お願いしたから
あたしの送別会だと思ってって
無理矢理頼み込んだのよ


よかった
なんだか トクマンも
ヨンファさんを気に入った
みたいでさ
先に手を付けておかなきゃ


どうかしらね?
あの子は一筋縄ではいかないわ
それに好きな人がいるみたいよ


そんなことは
かまわないさ
俺のこと好きになってもらえば
いいんだから


はあ つくづくあんたって男は


エミはため息をついた
弟みたいにずっと可愛がって来たが
いつの頃からか
弟以上の感情が芽生えていた

だがトルベにまったくその気が
ないことくらい
長い付き合いのエミが一番
よくわかっていた

エミが 高麗で一 二を争う
大きな商団の大房(テバン)に
見初められたのは
つい二ヶ月ほど前のこと
悩んだ末に
家族も大乗り気だし
望まれて嫁ぐのも
悪くないと
武閣氏を辞めて
嫁入りすることを決意した

その判断に迷いはない

だが トルベに
こうもあけすけに
ヨンファとの仲を
取り持って欲しいと懇願されると
本当はまだ 心の奥がきりりと
痛んだ

その想いを振り切るように
エミは言った


じゃあ 明日の晩ね
場所はいつものところでいい?


そのつもりで
もう店の主人に頼んであるよ


手回しのいいことで


エミは笑った


都の酒場の一角を借り切り
ウダルチと武閣氏の宴
トルベは
気になっている武閣氏の
ヨンファのことで
頭がいっぱいのようで
エミの少し寂しそうな様子には
気がつくはずもなかった


じゃあ 俺
みんなに 声かけなきゃ
6,7人だよな


そうよ それくらい


じゃあ よろしく頼むな


トルベはにこやかに言うと
兵舎の中へ 消えて行った


はあ まったく
いつまでも
世話を焼かせるなって


エミはトルベの背中を
見送りながら
苦笑いをした


━─━─━─━─━─


兵舎の広場にテマンがいた


おい テマン
医仙様のところへ行って
明日の宴に一緒に行きませんか
って 言ってこい


はあああ?
な なんで? オレが?
嫌ですよ~
だいたい オレ
その宴のこと知りませんよ


さっき決まったんだ
武閣氏達と酒を飲むこと
お前も来いよ


えええええ
オレも?
それに武閣氏なら
医仙様は
関係ないじゃないですか


いいんだよ
医仙様はいわば
テジャンを呼び出す為の
秘策なんだから


はあ?
オレ テジャンに
怒られるのは嫌ですよ


大丈夫だって
俺が誘うと 本気みたいで
テジャンに絞め殺される
お前なら その点
医仙様とどうこうはないから
テジャンも叱らないさ


そんな~
オレの身にもなって
くださいよ~~~~~


そこに先日入隊したばかりの
ウダルチにしては 小柄な
新入隊員が通りかかった


おい お前
明日の晩 暇か?


は はい
トルベさん


困ったように隊員は答えた


じゃあ お前も宴に来い
まだ人数が集まらないんだ
トクマンはなるたけ
外したいしな
ヨンファさん目当ては
俺一人で十分だから


後からトクマンの声がした


トルベ ずるいじゃないか
俺も絶対行く!
チュソク お前も行くよな


いや 俺は別に
武閣氏に興味ないし


トクマンと並んで歩いていた
チュソクが首を振る


武閣氏だけじゃないですよ
医仙様にも声かけるんです


テマンが言った
チュソクの顔色が一瞬
変わったことに
誰も気がつかなかった


そうか まあ
たまの息抜きもいいかもな


チュソクが言う


なあ いいだろ
トルベ
チュソクもこういってるし
俺もチュソクも入れてくれよ


ああ~
せっかく 
お前を出し抜こうと
思って計画したのに


トルベは
心底がっかりしたように
言った


まあ 仕方ない
正々堂々勝負するか
ヨンファさんに
抜け駆けはなしだぞ


トルベはトクマンに
そう言った


他には誰が来るんだ?


その後も 
やいのやいのと
宴の話しで
ウダルチの男達は
盛り上がった


兵舎の広場に枯れ葉が舞う
穏やかな秋の午後だった


*******


『今日よりも明日もっと』
いつの世も
男女の恋に変わりなし




☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


文化の日
お休みの皆様
お仕事の皆様
いかがお過ごしでしょうか?


さて 
チュンソクの初恋話の次は 
御礼リクエストに頂いた
ウダルチのお話を
トルベを軸にして
いろいろアレンジして
お届けいたします

どんな話が展開するか
お楽しみいただけると
うれしいです




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