これを
奥女中がチュンソクに
袋を差し出した
お嬢様からです
あの時のムファグァを
干した物です
今まで お気遣いいただいて
うれしかったと
そのように伝えてくれと
申しつかりました
はあ
少年のチュンソクには
返す言葉が見つからなかった
やっとのことで
絞り出した言葉
お元気なのですか?
はい
以前に比べると
随分とお元気になられました
嫁ぎ先も 空気の良い地方に
ございます
それ以上は奥女中も
何も言わなかった
都を離れるのか
もう二度と会えないのか
チュンソクはうなだれるしか
なかった
それから暫くして
桜の花が咲く頃
ムンジュの屋敷で
盛大な
婚礼の宴が行われた
門が開け放たれ
近所のもの達にも
馳走や酒が振る舞われた
チュンソクも書堂の仲間と
通りかかり
中の様子を覗いた
ムンジュは
初めてあった日と
変わらぬ美しさで
婚礼衣装を身にまとい
佇んでいた
綺麗な花嫁さんだな
年頃の少年達が
口々に言った
そうだな
それに引き換え
旦那になる奴は
随分と年がいってるな
誰かが言った
ああ そうさ
身売りみたいなもんだって
噂されてるしな
身売り?
チュンソクの頬がぴくりと
あがった
そうさ お家の為に
大金持ちの郡主様に嫁ぐって
噂だぜ
噂好きの少年が言った
望みもしない結婚をして
それで幸せになれるのか?
まっすぐな気性の
チュンソクには
何ともやり切れない話しだった
なんとかムンジュを連れ出して
逃げることは出来ないだろうか?
どうしたら彼女を守れるだろう?
浅はかなことを考えた
だが
何の力も財も後ろ盾もない
婚礼の宴が行われた
門が開け放たれ
近所のもの達にも
馳走や酒が振る舞われた
チュンソクも書堂の仲間と
通りかかり
中の様子を覗いた
ムンジュは
初めてあった日と
変わらぬ美しさで
婚礼衣装を身にまとい
佇んでいた
綺麗な花嫁さんだな
年頃の少年達が
口々に言った
そうだな
それに引き換え
旦那になる奴は
随分と年がいってるな
誰かが言った
ああ そうさ
身売りみたいなもんだって
噂されてるしな
身売り?
チュンソクの頬がぴくりと
あがった
そうさ お家の為に
大金持ちの郡主様に嫁ぐって
噂だぜ
噂好きの少年が言った
望みもしない結婚をして
それで幸せになれるのか?
まっすぐな気性の
チュンソクには
何ともやり切れない話しだった
なんとかムンジュを連れ出して
逃げることは出来ないだろうか?
どうしたら彼女を守れるだろう?
浅はかなことを考えた
だが
何の力も財も後ろ盾もない
少年のチュンソクに
出来ることは何もない
ただ 黙って
見送ることだけだった
力が欲しい
富とか 権力とか
そんなものに左右されない力が
そう思った時
ムンジュがチュンソクに
気がついて ちょこんと
頭を下げ微笑んだ
チュンソクは苦しくなって
気がついたらその場から
逃げ出していた
屋敷に戻って文机の上に
置いてあった袋から
干したムファグァを取り出し
口に放り込んだ
飴色に輝くムファグァは
甘さを深め
切なさを募らせた
ムンジュ様
いつかふたたび
あなた様にお会いする時は
もっと強くなっています
あなた様を守り抜くことが
出来るくらいに
チュンソクは誓った
━─━─━─━─━─
あれから二十年か
チュンソクは感慨にふける
ムンジュが嫁に行った
数年後に
高麗軍の中でも王の側近となる
ウダルチの試験を受け
磨いた武術で合格を手にした
だがその頃の
王宮や王は腐りきり
ウダルチはお飾りへと
成り下がっていた
チュンソクが思い描いていた
武士の理念が崩れていく
日々をなんとかやり過ごす
悶々とした中で
奇跡のように
出会えたのがチェヨンだった
彼に叩き込まれた武術で
自分もウダルチも覚醒した
そして今では
新入隊員を選抜する側だ
チェヨンに出会わなければ
どんな自分になっていたろうか
そんなことを思った
昔は別世界と思った立派な
ムンジュの屋敷
今はあの屋敷以上に
立派な屋敷に
ムンジュより
ずっと高貴な身分の娘を
妻として暮らしている
人生とは不思議なものだと
しみじみ
チュンソクは思った
夕陽に照らされたムンジュは
変わらず儚げで美しかった
最後に口頭試問を受けた少年が
隣で肩を震わせ泣いていた
チュンソクはムンジュ親子に
ゆっくり近づくと声をかけた
お久しぶりです
ムンジュ様
お元気でしたか?
ウダルチ隊長に声をかけられ
すっかり緊張した少年は
かちんこちんに固まったまま
チュンソクを見つめた
残念だったな
ウダルチは甘い所ではないが
その気があるなら
鍛錬を重ねてまた挑むとよい
不合格の少年への
せめてもの慰めだった
あ ありがとう
ございます
た たい 隊長様
また頑張ります
ムンジュは目を細めて
チュンソクを見つめて
言った
ご立派になられて
いやいや
まだまだです
目標にしているお方には
なかなか追いつけません
チュンソクは本心から
そう答えを返した
そうですか?
ムンジュが静かに答える
はい
ムンジュ様はお変わりなく?
はい つつがなく
暮らしております
微笑んだ顔が
幸せそうだった
良かった
お幸せそうで
チュンソクは呟いた
ムンジュを守りたいと
あの時 思ったから
今の自分がいるのだと
チュンソクは思った
そして
今の自分には何者にも
変えられない大切な人が
そばにいる
チュンソクは
ポムの顔が
無性に見たくなった
良かった
あなた様もお幸せそうで
そう言ったムンジュ越しに
西陽を浴びたポムの姿が
チュンソクには見えた
ポムは少し困ったような
泣きそうな顔をしていた
目の前の二人の雰囲気に
自分は入ってはいけないと
そんな顔をしていた
チュンソクが笑って
ポムを手招きすると
ポムの顔がぱっと
明るくなり
チュンソクのもとへ
跳ねるようにやって来た
チュンソク様?
ポムはお邪魔かと思って
拗ねたような
可愛いポムの声が聞こえた
チュンソクは首を振って
ポムの腕を取ると
ムンジュに言った
俺の自慢の妻です
*******
『今日よりも明日もっと』
あなたと重ねる
身近な幸せを大切に想う