チェヨンが昼休憩に
邸に戻ると
ウンスが奥の間で一人静かに
書を読んでいた

肩に手を置いて
ウンスに尋ねる


書物を読んでおったのか?


ええ ほら
イ・ソンゲさんがくれた
医学書よ
チェ先生に渡そうと
思ったのに
時間が空いているなら
読んでみたらいいって
勧められたの
でもいくらあなたに漢字を
習っても 分からない字が
まだまだあるわ


そうか
では次の休みに
またつき合うぞ


うん
なんだか真剣ににらめっこ
してたら 肩が凝った


ウンスがそう言うと
チェヨンの大きな手が
ウンスの肩を
もみほぐした


ここか?
確かに凝っておる


ああ いい気持ち
そう そこそこ
そこが凝るのよ
は~ぁ


幾分艶の混じった
声でウンスが
まったりと答えた


隣の部屋では
目を覚ましたポムが
出て行くに行けず
布団の中で
どきどきしながら
ふたりの会話を盗み聞いていた

チェヨンが思い出したように
ウンスに尋ねる


あの騒がしいチュンソクの
嫁御はどうした?


ああ ポム?
もういい加減名前で呼んで
あげなさいよ


なれど
名前で呼ぶと
チュンソクに睨まれそう
ではないか?
顔に自分のものだと
あやつ書いておる


うふふ 
上官に似たのね


ウンスは笑って言った


ポムなら隣の部屋で
寝ているわ
毎晩 寝不足みたいよ
うふふ


意味ありげに
ウンスが言う


新婚さんだもの
仕方ないわよ
チュンソクさんも
男所帯で 一人が
長かったでしょう
急にあんなかわいい子が
お嫁さんになったら
やっぱり手放せないわよね


俺は今でも手放せぬが


チェヨンが言ってから
ちゅっと
唇を吸いあう音が聞こえた

ポムは声をあげそうに
なりながらじっと耐え
布団の中に潜った


うふふ
そうね


ウンスの幸せそうな声が
聞こえて来る


みぃに変わりはないか


うん
父上を待っていたみたい


そうか・・・


衣擦れの音がする
チェヨンがウンスの
お腹に触れている音

そしてまた何度も
唇を吸いあう音と
ウンスの
吐息が聞こえた


チュンソク様
どうしよう
ポムまで
変な気持ちになってきた


ポムは心の中で
チュンソクに助けを求めた


そこへ ヘジャが昼餉を
運んで来て
ふたりの口づけは
ようやく 中断となった


ポムを起こさなきゃ
きっと
お腹が空いてるわ



そうだな
だが もう少し寝かせて
おいてやれ


そんなこと言って
ほんとは二人きりで
いたいだけでしょう?


悪いか?


チェヨンが少し照れたような
顔をした
ウンスは
うれしそうに笑って


じゃあ もう少しだけ
二人でいましょうか?


ウンスはヘジャに目配せして


ヘジャ ポムの分を
残しておいてね


と言うと


はい ヘジャにお任せを


ヘジャが厨房へ
ぱたぱたと戻っていった


チェヨンはまた二人きりに
なれたことをいいことに
ウンスに口づけを繰り返す


昼餉の時間なのか?
口づけの時間なのか?
布団の中で悶絶している
ポムのことなど
気づかぬようで
ふたりの感情は高ぶりを
見せていた


もうだめよ
ポムが起きちゃう


チュンソクたちも
どうせ
似たようなことを
しておる


ポムは布団の中で
首をぶんぶん振った


ポムはこんなにあまあまな
時間を昼間っから過ごした
ことなどありませぬぅ
お二人が仲睦まじ過ぎ
なのでするっっっっぅ


大声で弁明したかったが
それも叶わず
ただただ 息を潜め
耳を塞いで
ふたりの邪魔をしないように
それだけに気を集中した


長い長い口づけが
ようやく終わったようで
二人は静かになり
昼餉を食しているよう
だった

それから暫くすると
何事もなかったように
ウンスの話し声が
聞こえた


選抜試験はどお?


さてな?
チュンソクに任せておる


また 頼りにしちゃって


あいつの人を見る目は
間違いないだろう?


まあ そうね
今年もこの季節が来たのかと
ちょっと感慨深いわ


そうか?


うん あの時はまだ
トルベさんもチュソクさんも
生きていたもの


そうだな


チェヨンは遠くを見つめる
目をした


いい仲間だった


そうね いい仲間
いい家族だったわ


家族か・・・


ふたりは互いの気持ちに
寄り添うように 
また口づけた

ポムにはその音が
今までの口づけの音とは違い
慈しみに満ちた音に聞こえた


さて そろそろポムを
起こさなきゃ
それにあなたも兵舎に
戻るでしょう?


ああ そうだな


ポムは慌てて寝た振りを
決め込み
チェヨンはそれから
間もなく
後ろ髪引かれるように
邸を後にした


━─━─━─━─━─


夕暮れ時 兵舎の二階の
自分の部屋の窓から
チェヨンは門のことろで
繰り広げられている
悲喜こもごもな様子を
眺めていた


合格者の弾けた笑顔
不合格者の嗚咽


この先
どちらが幸せなのだろう?
と ふと思った

なにも好きこのんで
武士と言う
いばらの道を進まなくても
他に生きる道が
あるやも知れぬ

そう考えてから
頭を振った

自分には 
やはりこの道しか
なかったのだと思った

決して 後悔はない
武士なればこそ
ウンスと出会い
今の幸せがあるのだから


窓の外には
多くの若者の人生があった


そして その中に
チェヨンは
西日に照らされて
見つめあったままの
仔細ありげな
チュンソクと
四十路くらいの
線の細い女人の姿を見た

その二人の後方には
新妻ポムの姿があった


俺は知らんぞ


チェヨンがぽつりと呟いた


*******


『今日よりも明日もっと』
生きることは戦うこと
けれども
時には寄りかかり
休む場所も必要だ




にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村