王宮まであとわずか

繋いだ手を離したくなくて
つい歩みが遅くなる

ウンスの歩幅にゆっくり
付き添うチェヨン


もう着くわね


はい


手   暖まったわよね


はい


それでも
なんとなく離しそびれて
ウンスは自分の左手に
チェヨンの手を乗せた

ウンスの白く細長い指先が
チェヨンの手の甲をなぞる
指先しか触れてないのに
ざわざわと
チェヨンの心が乱れた


感じる?


ウンスが小さな声で
尋ねる


え?  


感覚が戻ってきたかどうか
確認したかっただけよ


ああ
はい


慌てて
チェヨンが答えた


良かった
大事には
至らなかったみたい


ウンスはふっと
ため息をついた
息が手の甲にかかる


朝ね


ウンスは
独り言のように呟いた


はい


朝陽が昇り
辺りは
金色に色づく
ウンスの赤い髪の毛も
陽の光を浴び
きらきらと輝いている


もう   無茶しないでね
勝手に死んだら
許さないんだから


ウンスが念を押すように
言った


はい


典医寺に後で来てね
薬草のことは
よくわからないけど
凍傷に効く薬草を
チャン先生に聞いておくわ


この程度の傷
なめておけば
大丈夫です


私が大丈夫じゃないの
私のせいで
あなたがこれ以上
傷つくのは嫌


両手でチェヨンの
手を挟みウンスが言った


もう泣かさぬ
イムジャの涙はこりごりです


うん


ウンスが微笑むと
チェヨンは安心したように
かすかに微笑み返して
それから   静かに尋ねた


イムジャは勝手に
王宮を抜け出した
のであろう?


そう言われたら
そうね


ウンスが答えた


皆が心配しておる


でもあなたの叔母様は
私の行方を知ってるわ
叔母様が知らせて
くれたんだもの
あなたが命を賭けて
キ・チョルと闘うこと


そうであったか


チェヨンが少し
笑った気がした
それだけで心が弾む


王宮の入場門が見えた
日の出とともに
人の往来が賑やかになる


ウンスが意を決したように
チェヨンに言った


これからもよろしくね


チェヨンが力強く
首を縦に振り
優しい瞳でウンスを見つめた
その瞳に射抜かれたみたいに
ウンスは立ち尽くした


チェヨンは
立ち止まったウンスの
手を引き歩きだし
前を向いたまま
言った


お守りします
イムジャのことを
必ず   何があろうと


王宮の
入場門のところに
武閣氏が二人
ウンスの帰りを待っていた


繋がれたままの
ふたりの手に
一瞬   顔色を変えた
武閣氏達だったが
何事もない素振りで言った


おかえりなさいませ
医仙様


ええ


チェ尚宮様の命を受け
お迎えにあがりました


そお


チェヨンは手を離して
ウンスを慈しむような
顔をしてから
武閣氏に言った


医仙を頼む


はい
テジャン(隊長)


二十歳そこそこの
武閣氏達は声を揃えて
チェヨンに答えた


そして
チェヨンは左に
ウンスは右に


二人はそれぞれの居場所に
戻って行った


繋いだ手の感触が
いつまでも心に残り
チェヨンは
先ほどウンスの唇が
触れた手の甲に
そっと唇を当てた

かすかに残る
ウンスの甘い香り

心を乱し
平静でいられない香りだった


*******


『今日よりも明日もっと』
触れた指先が
あなたを好きだと言っている




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