どうしても 気になって
藤袴の部屋までの廊下
チェヨンは早足になった

わかっている
ただの診療だ
あやつがウンスのからだに
触れたところで
ウンスがそれで何かを
感じる訳はない

それも十分承知している
だが どうしても
心にさざ波が立った

出産をふたりに任せてくれた
懐の深い男だ
手に出来ないものを
ずっと見守ることが出来る
そういう男だ

だからこそ
ウンスには触れて欲しくない


藤袴の部屋の前に立つ
中からは笑い声が聞こえて来る


やだ チェ先生ったら


ですが 本当のことなのです


そお
うふふ


どこか
感じる場所はありませんか?


う~ん
どうかな?


いらっとした
男と二人で 部屋の中
ウンスの笑い声が聞こえた


ばたん! と勢いよく
扉を開けると
寝台の上に寝転がる
ウンスがいた

チェ侍医の手がウンスの腹の
上にある


あら?
どおしたの?
ヨン
昼餉?


こんにちは


さらりとチェ侍医が言った


二人きりでいったい何を
だいたい 
その手を早くよけろ!


そう言おうとした時
「こんにちは」
女人の声がした





声の方を見ると
医女サラが 死角にいた


ぐっと言葉に詰まる
二人きりではなかったのか
ウネの奴
担いだな
だが 腹に触れているのは
本当だった


侍医 
うちのが世話になったな
からだに問題はないか?


平静を装いそう聞いた
チェ侍医は腹に乗せた手を
素早くひっこめると


はい
3日目にしては
順調過ぎるくらいのご回復


そうか   良かった
では失礼する
兵舎に戻らねば


自分の悋気に嫌気がさして
ウンスの顔をまともに見れず
チェヨンはその場を
立ち去ろうと扉に手をかけた


チェ先生   もういい?


ウンスが尋ねると
チェ侍医はゆっくりと
頷く
ウンスは起き上がると
慌ててチェヨンを追いかけた


すでに扉の外にいた
チェヨンを呼び止める
チェヨンは
表に向かって急足だった

心の中のどろどろとした
思いにやり切れず
父親になってもまだ
ウンスのことを独り占めしたいと
欲深さが心を支配する


待って
待って   ヨン


ウンスの優しい声に振り返る


まだ体力がないから
そんな大股で歩かれたら
追いつかないわ


廊下の隅で
少し息を乱して
ウンスが言った
ウンスはすっと
チェヨンの
肘の辺りを掴むと


タンに会った?


と  尋ねた


ああ
ウネに頼んできた
もう兵舎に戻らねば


ご飯は?


いや   いらぬ
では


チェヨンが短く言った


そんなに
私から逃げないでよ
どうしたの?
チェ先生の診察を悋気?
あれはね
お腹の様子をね
診てもらってたの
触診よ
回復が早いって
驚かれちゃった
あなたのおかげかしら?


ウンスは笑って言った


俺は
俺は


何かいいたげなチェヨンの
首に腕を回して
ウンスは口を塞いだ

唇を開いてチェヨンを待つと
チェヨンの舌が絡んできた
激しく食むような口づけに
からだが痺れて
足から
崩れ落ちそうになるのを
ウンスは必死に耐える
吐息が深く漏れた


あいしてる


ウンスの口元から
言葉がこぼれた


俺は
親になっても
ちっとも進歩がない
それどころか
もっと
イムジャが欲しいのだ
心の中は  
悋気にまみれて
嫌になる


チェヨンのため息に
ウンスが微笑んだ


タンの父上になって
まだ3日目よ
私たち  これから親に
なっていくのよ

それにね
あなたが
悋気してくれるってことは
私のことがそれだけ
好きってことでしょう?


チェヨンの首に
ぶら下がったまま
ウンスが尋ねた


ああ   そうだ
どうしようもなく
愛しいのだ


ふふっ


だからこんな
餓鬼みたいな
感情を持て余している


あら
いいじゃない
餓鬼でいいわよ
それだけまっすぐ
私に向かって来てくれる
妻として
こんなに幸せなことはない


ウンスはチェヨンの
胸に顔をうずめる

チェヨンはウンスを
折れるくらいに抱きしめた


痛いわ   ヨン


腹にもうタンはおらぬ
遠慮なく抱きしめられる


チェヨンがウンスの耳に
囁いた


うん


ウンスや
俺がいない間
おとなしゅう待っておれ


うん


ウンスや


なあに?


腕の中でウンスが聞いた


俺も愛してる


チェヨンは腕を緩めると
ウンスの顔を両手で挟んで
再び口づけた


ユ・ウンス
初めて出会った日から
気がつけばずっと
恋い慕っていた

そしてその想いは
子に恵まれた今も
ますます深くなる

チェヨンは目の前の天女に
もう一度呟いた


ユ・ウンス
俺の女


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『今日よりも明日もっと』
この先もずっと
変わらぬ想い
一人の女として君を愛する