秋晴れの中 ゆっくりと
坤成殿まで 歩き
ウンスは王妃様の回診に
あたる
典医寺でウンスが診察に
つくことは
ウンスの体調を考慮した
チェ侍医と叔母チェ尚宮により
少し前から
取りやめになっていた
お役目らしいお役目は
今は この回診だけだ
いよいよ大きくなり
下にさがったお腹を
抱えるように歩くウンスを
王妃様は微笑ましく
見つめている
いよいよじゃな
楽しみよのぅ
ウンスは
その言葉に胸が痛む
食を変え苦い生薬も
文句一つ言わずに
お飲みになり
冷えの体質も改善し
鍼灸治療もしているが
王様がお忙しいのか
お子が出来易い日取りに
お二人は
なかなかお会い出来ず
いまだに ご懐妊の
兆候は見られない
今月もまた月の印が
来てしまうだろうか?
こればかりは
授かり物
ふ~ぅと
長いため息をついていると
医仙
姉様
王妃様に声をかけられた
いかがしたのじゃ?
いえ 少し胸が苦しくて
それは 大変
大事はないか?
チェ尚宮
早う 医仙を座らせよ
いえ 大事には
いたりません
大丈夫です
そうか?
はい
ウンスの返事を受けて
王妃様が微笑まれた
優しく気高い微笑みだ
時に 医仙
その後
邸に変わりはないか?
すまなかったのぅ
怖い想いをさせて
王妃様は先だっての
もののけ騒動をいまだに
気にしているようで
時々 変わりはないかと
確認するように
ウンスに尋ねる
大丈夫ですよ
全然 平気
それにそのおかげで
亡くなった姉にも
会えたから
そのように
言うてもらえると
気も落ち着くが
あの邸がわけありなのは
存じていたゆえ
邪気も払い
邸の調度類も
すべて代えたのじゃ
なのに・・・
あのようなことに・・・
天の姉様にも
お腹の子にも何事もなくて
本当によかった
うふふ ほんとにもう
お気になさらずに
ウンスは笑って言った
それからサラに指示をして
脈を取らせる
出産の後しばらくは
サラが王妃様を診察する
ことになっていた
して 姉様は
まだ決心がつかぬのか?
このようなことに
口を挟むつもりは
ないが なにぶん
チェ尚宮が
気をもんでおるのでな
はあ
ウンスは曖昧に会釈した
妊娠してからずっと
叔母 チェ尚宮には
乳母を勧められている
叔母のいい分もわかる
確かに この時代
チェ家程の名家
乳母が育てるのは当たり前
ましてや ウンスは
医仙として 出産後も
王宮のお役目がある
頭が痛い
すこうし 気楽に思うては
如何じゃ
一人で何でも抱え込むことは
あるまい
天界には乳母はおらぬのか?
はあ 乳母と言うか
保育所とか幼稚園とか
集団で子どもの世話をするような
そんな施設ならあります
ああ 乳母じゃないけど
ベビーシッターもいるわ
子どものお世話を家で
してくれるんです
働く女性は
そう言う人の力を借りて
仕事を続けているわ
ほら 天界でも
乳母はおるではないか
チェ尚宮が横から口を挟む
そうなんだけど・・・
乳母とは少し違うもの
私は
自分のお乳で育てたいんです
乳母じゃなくて
手元において育てたい
悪いことは言わぬ
奥女中とて
初めは拒んでおったが
どうじゃ
今は ヘジャがいなくては
困るであろう?
それと同じこと
ウンスの顔色が
いっそう曇ったのを
見て取り 王妃様が
おっしゃられた
まあよい
今日はここまでじゃ
あまり医仙を困らせるでない
チェ尚宮
なれど
今日はこれにて終いじゃ
医仙 大儀であった
はい 王妃様
王妃様の助け舟で
なんとか
その場を切り抜けた
ウンスが廊下に出ると
チェヨンがいた
ヨン
叔母様に呼ばれたの?
ああ
きっと乳母のことね
かも知れん
私も今
言われてたとこなの
そうか
あとで 邸で話しを
よいな
あまり考え過ぎるなよ
そう言うとウンスの
頭をなでた
うん
今日はこのまま邸か?
そう
典医寺には行かないわ
昨日 診察を受けてるし
典医寺の様子は
サラに聞いたから
そうか では
なるべく早く邸にもどる
うん
なんだか 心細いの
早く帰って来てね
ああ
チェヨンはウンスの手を
握りしめると
力強く頷いた
ウンスが
ポムやサラや女官ヨリと
ともに帰る後ろ姿を
見守りながら
それにしても乳母を
なぜ あそこまで
かたくなに
嫌がるのだろうと
チェヨンは
不思議に思っていた
まあよい
今宵 ウンスの話を
よく話を聞くとするか
王宮の木々がざわざわと
風に吹かれて
音を立てていた
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『今日よりも明日もっと』
大切に思うから
小言もいい 心配もする
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