邸の奥の間の前にある
縁側に座って
足をぶらぶらさせたがら
ウンスは名月を眺めていた

奥の間には青磁の花瓶に
秋の花の
尾花   藤袴   黄菊が生けられ
美しく飾られていた

今日は秋夕(チュソク)

夕暮れ時の月が
ひときわ美しい
秋のこの時期に
豊かな実りに感謝し
先祖を思い祭祀する秋夕

天界では故郷に帰省する
国民大移動の日だ

ウンスは
仕事を言い訳に
秋夕にさえ
帰らない娘を嘆いて   
オンマから
電話があった日を
思い出していた

最後は
わずらわしそうに
電話を切った
もう二度と会えないなら
あの時帰っておけば
良かったな
きりっと胸が痛む


オンマ   アッパ
元気でいる?
私   もうすぐ子供が
生まれるのよ


綺麗な月を眺めながら
遠いソウルを思う
黄色味がかって見える
仲秋の名月が
ぼんやりにじんで見えた

そんな時   ふっと
右側にぬくもりを感じた
チェヨンが
ウンスの隣に腰掛けたのだ

何も言わずに自分の左肩を
とんとんと叩く
ウンスはことんと頭を預けた

悲しい時も
寂しい時も
疲れた時も
愛を語る時も
なんどもチェヨンの
肩に自分を預けた
一人じゃない安心感
隣には必ずチェヨンが
いるんだと
幸せな気持ちになる

チェヨンは空いた方の手で
ウンスの髪をなでる
虫の音だけが響いていた


秋夕は天界では
最も大きな
行事の一つだが
高麗時代にも似たような
習わしがあった

臨月のウンスを気遣い
叔母であるチェ尚宮は
無理をせずともよいと
言ったが

妻として初めての秋夕
亡くなられた
お父様   お母様   オンニ
ご先祖様   そして
トルベやチュソクや
戦で命を落とした
ウダルチの仲間
それからこの邸に
思いを残して逝った尚宮

皆の御霊を祀りたいと
そう願い出た


朝から張り切り
疲れたであろう
無理しおって
腹は大丈夫か?


チェヨンが心配した口調で
ウンスに尋ねた


大丈夫よ
それにちゃんとお祀り
出来たでしょう?


ああ    ご先祖様も
他の皆も
イムジャのおかげで
安らかにしておろう


チェヨンが微笑む


うん
そうだとうれしい
松餅(ソンピョン)も
上手に作ったわよ


ウンスは笑って言った


兵舎にまで
あんなにどっさりと
届けるとは
皆も喜んだぞ


チェヨンが目を細める


この時代にはまだなかった
天界の秋夕には欠かせない
半月の形の餅
松餅(ソンピョン)の風習

豆や胡麻や栗の餡を
米粉を捏ねた餅で
上手に包めたら
妊婦は
良い子が生まれ
女人は良縁に恵まれる
と言う言い伝えがある

ウンスは
ソンピョンのない
秋夕なんて秋夕じゃない
とまで  言い切って
ヘジャや女官を巻き混んで
たくさんこしらえ
あちらこちらに届けたのだ


秋夕に
ソンピョンを食べてたら
天界を思い出したわ
でね
いま   月を見ながら
オンマやアッパと
話をしていたの
もうすぐ母になりますよって


ウンスは大きなお腹を
さすりながら言った


そうか


この空も天界に
繋がってるかしら?


そうだといいな


チェヨンは
ウンスの肩を抱いた


寒くはないか?
日が沈むとめっきり
冷え込んでくるであろう


うん


ウンスはチェヨンのうでに
くるまれるように
暖かな胸にからだを寄せた


ヨン


なんだ


呼んでみただけ
うふふ


ウンスや


なあに?


呼んでみただけだ


顔を見合わせて
笑いあった
それからチェヨンは
まじめな顔つきで
ウンスに言った


たとえご両親と会えずとも
イムジャの想いは
ちゃんと伝わっているはずだ
きっと今宵は
同じ月を見ているだろう


きっとそうね


ウンスは頷いた   


ヨン?


なんだ   
また  呼んでみただけか?


抱きしめて


ウンスの
甘く切ない声が聞こえた
チェヨンは
すぐにみぃのお腹ごと
長い腕でウンスを
優しく抱きしめ
その額に口づけて言った


ウンスや
そばにいろ
俺は此処にいる


秋夕の夜が
ゆっくりと更けていく


*******


『今日よりも明日もっと』
愛しい人の腕の中
高麗に輝く名月を眺める


月々に月見る月は多けれど
月見る月はこの月の月(詠み人知らず)

{08591835-FCBD-41F2-B600-3A5EBFBEACC2:01}
  by  haru

今日はずっと雨だったのに
偶然綺麗に写せました  ☆-( ^-゚)v



さて    昨日より
韓国では秋夕(チュソク)です
そして
今日は十五夜   仲秋の名月
明日はスーパームーン
明後日は十六夜の月

月の美しい秋ですね


十六夜の番外編として
秋夕の月に絡めたお話を
書いてみました
秋の夜長のひと時に
お楽しみいただけたら
うれしいです


安寧に
お過ごしくださいませ