東からまん丸の美しい月が
登り始めた頃に
ヨンファが下男をつれて
チェヨン邸を訪れた

久しぶりに三人揃い
奥の間で
ヘジャの用意した
夕餉の膳や
ヨンファがお土産に
持ってきた油菓子が
卓に並んだ


キム様はまだ朔州から
戻らないの?


ウンスが聞いた


はい   此度   北の方に
広がった戦が
いつ朔州に飛び火するか
わかりませぬし
義州(ウィジュ)の商団と
商いの話もあるとかで


そう
それは寂しいわね


はい   それに
お屋敷の暮らしは
勝手が違い戸惑うことばかり
刺繍とか花を生けるとか
やったこともありませぬし
なんだか毎日持て余して
おります


うふ
ヨンファさん
違った
姉上様らしいわ


いいわよ
ヨンファさんで
ポムに姉上様って
呼ばれると
なんだかくすぐったいもん


そうですか?
じゃあヨンファさん
その点ポムは
幸せですよ~
毎日王宮で
医仙様のお世話が出来ます


ポムがずんと
胸を張る


本当かしら?
医仙様に
お世話されてるんじゃなくて?


ひっどーい
ヨンファさんの口ぶり
ちっとも変わらないわ
もう!
ポムだって今や
れっきとした
ウダルチテジャンの妻です


それは隊長も
お気の毒ね~


もうもう
ますますひどい!
ヨンファさんのいじわる~~


なんだか
ちょっと前までは
毎日こうだったのに
ヨンファは
郡主様の奥様だし
ポムはチュンソクさんと
幸せそうだし
私はもう産み月だし
不思議なものね~
ヨンファが下男をお供に
やってくるなんてね
本当に武閣氏じゃないのね~


ウンスの声に
うれしさと寂しさが
入り混じる
ヨンファは照れたように


私は
下男なんていなくても
大丈夫なのに
旦那様が何処に行くにも
一人で行っては
ならないって
言うものですから
私の方が下男より
よっぽど武芸を
たしなんでいるのに


笑って言った


それだけヨンファが
大事だってことよ
そう言えば
私も結婚前から
そうだったわ
私の場合何をしでかすが
わからないって
思ってるみたい
うふふ
屋敷に一緒に住み始めた頃も
一人の時は外出禁止だった
それで息が詰まって
こっそり屋敷を抜け出したら
たちの悪いのに絡まれてから
こっそりヨンがスリバンに
護衛を頼んでいたから
大丈夫だったけど
心配かけちゃったもの
だからあんまり無謀なことは
出来ないのよね   うふふ


そう言うウンスの顔は
守られている幸せに
溢れていた


それにしても
世の中の旦那様って
みんなあんなに
心配性なのかしら?


ウンスが言うと


そんなことないですよぉ
大護軍様は特別に
医仙様を気にかけて
いらっしゃる
キム様より
チュンソク様より
よっぽどずっとですよ
ポムはなんでも
好きにさせて貰ってます


ポムが笑った


それに喧嘩にもならないの
ポムが腹を立てても
そうか   そうかって
ニコニコ笑って言うのよ


あら
どんな原因で喧嘩するの?


ウンスが聞いた


うーん
覚えてないような
ささいなこと
ああ   昨夜は
帰りに綺麗な
女の人とすれ違って
チュンソク様が
見てた気がしたから
ぷいってふくれて
美人さんがいいなら
別れるって騒いだら
わかった   わかったって
笑ってるのよ!


あらあら


可愛らしいポムの
焼きもちが
きっと
うれしかったんだろうなと
目尻の下がった
チュンソクが想い浮かんだ


でもね
チュンソク様
ポムと離れるのが
寂しいみたいで
喧嘩しても
いっつもくっついてくるの


お茶を吹き出しながら
ウンスが聞いた


そうなの?


そうなんです
でね
すぐにお布団に
連れて行かれちゃうの


ウンスとヨンファと
ヘジャの動きが止まる


あ   でもぉ


声をひそめ


喧嘩してても
お布団の中では
ポムが甘えまするよ


ウンスは掴みかけの
煮物を箸から落として
赤面しながら
額の汗を拭いた


そ    そうなのね


はい!
だってチュンソク様
ポムが甘えるの
うれしいみたいだもの
医仙様もヨンファさんも
そうじゃないの?


ポムが首をかしげた


ほら   うちは
いま    旦那様がいないし
まだそんなに
一緒にいないから
どうかしら?ねぇ
医仙様はどうなんですか?


ちょ
ちょっとこっちに
話を振らないでよ
閨の話なんかしたら
ヨンに叱られちゃうわ


ウンスが手で顔を仰いだ


医仙様と大護軍様は
殊の外
仲睦まじいじゃないですか
お閨は相当
すごいんだろうなぁって
想像できちゃいます


ポムがけろっと言った
後ろで控えているヘジャが
ものすごく大きく頷く


ほら
ヘジャさんも頷いてる


ヘジャ! 
なんでそこで頷くの?


おふたりが高麗一
仲がよろしいの
周知の事実にございます


つらりとヘジャがのたまう


そんなことないわよ
普通よ
普通
だいたいなんでこんな話に
なったのかしら?
もう!  ポムが変なこと
言うからよ
もう閨の話はお仕舞い


でも
他に聞ける人が
いないんでする


ポムがぽつんと言った


え?ポム
何か   悩みでもあるの?
幸せそうに見えるけど


急に静かに言ったポムを
ヨンファが心配そうに尋ね  
ウンスがポムの顔を覗き込む


ヨンファさんも
そうなかしら?
医仙様はきっとそうよね


なあに   ポム
何か気になるの?


ウンスが優しく尋ねると


あのね
チュンソク様ったら
毎晩
朝までポムのこと
離してくれないの
子作りって大変


ふうとため息をつき
ポムが真剣に
言った悩みごとに
その場にいた全員が
思わずのけぞった


ポムったら!


─━─━─━─━─


隊長
どうしたんです?
なんどもくしゃみして
風邪ですか?


トクマンが
チュンソクに聞いた


いや   なんだか知らんが
悪寒がするぞ


ぶるるとからだを震わせる
そばにいたチェヨンが
笑って言った


きっと奥方たちの
酒の肴ならぬ
話の肴に
されているのであろう
今日は勢ぞろいすると
うちのが言っておった
お前も気の毒にな


言ったそばから
今度はチェヨンが
大きなくしゃみをした


ならば
大護軍も肴にされてますね


トクマンがくくっと
笑って言うと
チェヨンにじろりと睨まれた


す   すみません


頭を深々と下げてから
トクマンが脱兎のごとく
逃げ出す
その様子に
チェヨンとチュンソクが
顔を見合わせ笑った


俺たち二人が揃って
妻たちの話の
肴になる日が来るとは
おかしなものだな


チェヨンが目を細めて
チュンソクに言った


はい
幸せなことで


チュンソクが微笑む



まん丸お月様が
明るく高麗の都を
照らしている夜であった


*******


『今日よりも明日もっと』
月の光に照らされる
幸せそうな
あなたを想う





昨夜のスーパームーン
美しい満月でした
そして
今日は十六夜の月
変わらず美しい月夜

高麗の都もきっと
幸せな月明かりで
満ちていますね




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