なんだかいつもより
お腹が張る気がするなあ


王妃様の回診を終えて
典医寺に向かう道のり

庭園を歩いていた時に
ウンスが確かめるように
お腹をさすりながら
ぼつりと言った


医仙様
大丈夫でございますか?
まさか   ここで生まれるとか⁈
どうしましょう!
チェ侍医を呼ばなくちゃ
あ    違う違う
サラさん?お産婆さん?
あーどうしよう!


つやつやした肌が
幸せな
新婚生活を物語るポムが
ウンスよりも動転して
頭を抱えた

後ろに控える女官ヨリも
ウンスを心配そうに見つめた


ウンスは笑いながら


大丈夫よ   ポム
そんなに慌てなくても
張りの間隔が
そんなに頻繁じゃないから
問題はないと思うし
まだ生まれやしないわ


ほんとに?じゃあ
東屋で休みますか?


ウンスの手を握りしめ
見つめて言った

そんな折
いつものように庭園を抜けて
兵舎に向かう途中の
チェヨンとテマンが
ウンスとポムを見つけた


ウンスは何をしているのだ?


手を握り見つめ合う二人が
チェヨンには
なんだか異様に見えて
ボソッと呟いた


さあ?
ポム様は
今や隊長の奥様
まさか  未だに
医仙様に懸想とか?


今までの医仙崇拝を思い出し
うっかりしゃべったテマンに
チェヨンの怒鳴り声が響く


あほう!
あ   当たり前だ


す   すみません


テマンが平謝りで
頭を下げ
チェヨンは大股で
ウンスの元に向かった


いかがしたのだ


ポムの手を跳ね除けて
チェヨンが
ウンスの手を握りしめ
尋ねた


ああ   なんでもないの
ちょっと
お腹が張るなぁって
思って   そう言ったら
ポムが心配しただけ


まことか?


チェヨンにすっかり
除け者にされたポムは
ぷうと膨れながら言った


そうでございますよぉ


分かった
これから典医寺に行くのか?


うん


ウンスが答えると
チェヨンはテマンに


兵舎へ戻りが遅くなるゆえ
鍛錬を先に始めよと
トクマンに伝えよ


そう言ってウンスの肩を
抱き寄せ   ゆっくり
歩き出した

抱き上げて連れていきたいが
以前そのようにしたら
ひどく
恥ずかしがられたことを
思い出して
慎重に歩いて連れて行く


おおげさよ
大丈夫なのに


だが   産み月であろう
まさかとは思うが
もう   生まれるのか?


もう   ヨンまで
ポムみたいなこと言って


ウンスが呆れて笑った


あなたが
無理させない限り
まだ生まれやしないわ
予定日はまだ二十日先よ


まだそんなにか?


気が抜けたように
チェヨンがつぶやく


あら  でもわからないわよ
もういつ生まれても
みぃは大丈夫だもの
明日かもしれないわ


軽口を叩くみたいに
ウンスが笑った
それから  ポムやヨリに
聞こえないように


でも   
もう少しふたりきりで
いたい気もするかも


チェヨンの耳元で囁く


あ!  いたっ!
久しぶりに
みぃが強く蹴ったわ
みぃは早く父上に
会いたいのね


そうか  


チェヨンが嬉しそうに
みぃをさする

いつもの気難しい
大護軍の顔ではない
優しい父親の顔の
チェヨンがとても幸せそうに
ポムには見えた


典医寺では
チェ侍医が脈診
腹の触診をした

下着一枚のウンスの腹を
丁寧に診る侍医を
チェヨンは
きりきりしながら
見守っている


侍医
触診が長くはないか?
もうよいであろう


はあ
今のところ
生まれる気配は
ございませぬ
今宵は満月
月の満ち欠けに
女人のからだは反応すると
申しますゆえ
そのせいで張りが多いかと
出産も朔の日や
満月の夜は多いと言いますし


それ   聞いたことがあるわ


チェヨンに手を引かれ
診察台の上に起き上がり
乱れた衣をチェヨンに
直してもらいながら
ウンスが言った


では
今日は安静にした方が
よいのではないか?


あら   大丈夫よ
せっかくヨンファも
来るのに
おしゃべりくらい大丈夫よね
チェ先生


はい   何時間もでなければ


ほら~~
確かに初産だけど
私も医者よ
産婦人科の研修だって
やったこと
あるんだから!


ウンスが言う


ああ
わかった  わかった


言い出したら聞かない
ウンスの性格を
見越してこれ以上
ウンスがムキにならぬよう
チェヨンは話を畳んだ


でも
心配だったら
早く帰って来てね
待ってるから


ウンスの甘える声が
チェヨンに届く


ああ


ぶっきらぼうなふりして
にやりとうれしそうな
チェヨンの表情を
チェ侍医は面白そうに
眺めていた


いやはや
わかりやすいお方だ


それからチェ侍医は
ウンスに


しかしながら
いくら医仙様とは言え
この時代のお産は
天界と違うのも然り
過信は禁物ですよ


と優しく言った


はい   と殊勝に
返事をするウンスの手を
チェヨンが
そっと握りしめた


夜になれば
満月が
輝いて見えるであろう
澄み渡った秋の空であった


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『今日よりも明日もっと』
一歩  一歩   進んでいく
新しい生命を迎えるために






ヨンファとポムとウンスの
ガールズトークは次回また
お楽しみいただけたら
うれしいです