愛馬チュホンに跨がり
チェヨンに
すっぽりくるまりながら
王宮までの 道のりを行く

ウンスの胸には
ファンが抱えられている

気持ち良さそうに
眠るファンを見て
チェヨンは

そこは俺の特等席なのに

心の中で むぅと呟く


兵舎でも大人しくしているのよ
会いにいくからね
待っててね


ウンスがファンの頭に
顔をすり寄せて言う姿は
見ていて可愛らしいが
なんだか 面白くない


俺には そんなこと
言ったためしがない


はあ?
ヨンに?会いにいくから
大人しく待っててって
言うの? 


うぷぷっと笑った


もう 子どもみたいね
チェヨンの方に顔を向けると
憮然とした表情で前を見てる


ヨン
会いにいくから待っててね


取ってつけたみたいだ


だって 取ってつけたもの
これでも 精一杯よ
あ~恥ずかしい


胸に抱かれたファンが
く~んと鳴いた


あらら 起こしたかしら?
あのね ファン
ヨンて 
あなたにまで悋気みたいよ
困った人でしょう?


く~んとファンが
ウンスの手を舐めた


うふふ ファンにもわかるのね
でもね ナイショよ
そう言う
子どもみたいなヨンのこと
大好きなの 私


チェヨンに聞こえるように
ウンスが言った


すき?か?


あら 聞こえた?
内緒話だったのに
うふふ


ウンスが 笑って言った
顔をくっと右斜め上に
向けると
チェヨンの頬に口づけた


焼きもち妬きさん
今はこれで我慢してね


耳元でチェヨンが囁く


夜が待ち切れぬ


もう 馬鹿


ファンが呆れたように
ふたりを見上げた


兵舎に連れて行かれるファンに
ずっと手を振り
見えなくなると
ウンスは典医寺の診療室へと
入っていった
これから 診察の準備がある


チェヨンはウンスになだめられ
嬉しい気持ち半分と
待ち遠しい気持ち半分で
兵舎へと向かった
懐には ウンスから預かった
ファンがいる


兵舎では珍しい来訪者に
群がり 皆で可愛がった
兵士たちを怖がるどころか
むしろ うれしそうに
走り回り 懐いている

チュンソクが不思議そうに
チェヨンに尋ねた


この子犬どうされたのです


医仙が拾ったのだ


医仙様が?


ああ
だが 屋敷には 昼間 
人が居らぬゆえ
飼うのは無理だと言って
やっと此処へ
連れて来たのだ


少しだけ機嫌が悪そうに
チェヨンが言った


昨夜も こいつが騒いで
大変であったぞ


はぁと ため息をついた
チェヨンに
なるほど そう言うことか
昨夜はこいつに邪魔されたのか
チュンソクはくっと笑った

お前犬でよかったな
俺達兵士がそのようなことを
したら 鬼の鍛錬だぞ

チュンソクがファンに
こそっと呟いた


なんか 言ったか?


いえ 何も


そうか?
それとな こいつの名前
ファンというらしい


え? ファン


ああ 奇妙な巡り合わせで
あろう?


はあ いかにも


でだ 慶昌君様のファンは
今 どうしているのであろう?


あ~っと あれは・・・
捨てたはずでは?
処分されるよりはと
王宮から逃がした気が


やはりそうか


チェヨンが頷くと
そばで 
控えていたテマンが


あのぅ 俺 
ファンが どこにいるか
知ってます


チェヨンに小声で言った


大護軍に迷惑がかかったら
申し訳ないから
言うなって口止めされたけど
もう言ってのいいかなって


テマンはぼそぼそと
話し始めた


実はトルベ兄さんが


トルベ?


はい
自分の屋敷にこっそり
連れ帰ったんです
廃位された王様の犬だから
バレたら 隊長に迷惑が
かかるって心配してたけど
やっぱり野良犬にするのは
可哀想だって言って
慶昌君様のお犬だって
ご家族には言わずに
屋敷で匿ったんです
知ってるのはたぶん
一緒にファンを盗みに入った
俺くらいで・・・


慶昌君様のお犬を
ご実家から拝借して来たのは
お前たちであったか


チェヨンは少し驚いたように
尋ねた


実は盗みに入ったことは
某も存じておりました
トルベは 隊長いえ大護軍を
崇拝しておりましたから
大護軍のお役に立つには
この策が一番だと


トルベ兄さん言ってました
ファンを
兵舎に連れて来たのは
自分だから
ファンのことは最期まで
自分が責任を持つって
迷惑がかからないように
大護軍には 黙っとけって
なのに 自分が先に
逝っちまった


テマンの目にうっすらと
涙が浮かんだ

じっと 耳を傾けて
事情を聞いていた
チェヨンは ぽつりと


いかにも あいつらしいな


と 呟いて 
チュンソクと顔を見合わせ
互いに 無言で頷きあった


テマン すまぬが
トルベの屋敷で ファンが
どうしておるか
調べて来てはくれぬか?


はい 大護軍


テマンはしっかりと頷くと
疾風の如く
兵舎を走り去った


慶昌君様のファンも
元気でいるといいですね


チュンソクが
遠くを見るような目をして
チェヨンに言った


ああ そうだな


チェヨンがゆっくり頷いた


兵舎の片隅にも
風に揺られて
黄菊が咲き誇っている

何も知らないファンが
相変わらず
黄菊と楽しそうに
じゃれあっていた


*******


『今日よりも明日もっと』
切ないくらいの 想いに
心が揺れる秋




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