月光が
中庭の黄菊の花を
照らし 
昼とは違った
趣を見せていた

夕餉を終えたふたりが
湯殿に向かい
暫くして 今度は
湯殿から手をつないで
閨に戻る途中

ファンはこれでもかと
云わんばかりに
テマンが見繕って
首に括りつけた綱を
引きちぎりそうな勢いで 
猛烈に尻尾を振って
自分の存在を
アピールし続けた

ウンスの気を引こうと
立ち上がったりてみたり
キャンキャンと鳴いてみたり

ウンスはファンの前を通る度
チェヨンに視線を送るが
チェヨンは首を横に振るだけで
部屋の中には
入れてもらえなかった
しょんぼりがおのファンが
ウンスはいとしく思えた


寝るとするか


うん


チェヨンは
ウンスの手をとり
床に入る
繋いだチェヨンの手が
すでに熱い

一緒に暮らし始め
もう何度も結ばれているのに
いまだに 緊張してしまう

ウンスはどきどきする
心臓を落ち着かせるように
一息 吐いて
そろりと床に潜り込んだ

チェヨンが当たり前の様に
ウンスの上に 
覆いかぶさり 口づけた


くい~ん くい~ん


閨のふたりに向けて
ファンが鳴いている

扉の方を見るウンスの顔を
ぐいっと自分に向けて


俺を見ろ


チェヨンが言った


うん


ウンスはチェヨンを見つめる
チェヨンの唇が
また ウンスに重なり
その手が寝衣の紐にかかる

ウンスは目を閉じた
ウンスの吐息が
閨に響き始めると


くい~~~~ん
くい~~~~~~~ん


ファンの鳴き声が
呼応するように
屋敷の廊下になり響き
その声は鳴きやまなかった

と 今度は
ガリガリガリ

閨の扉を引っ掻く音

ガリガリガリガリ

くい~~~ん

綱が外れたのだろうか?
ファンが必死に扉を
引っ掻いている


ちょっ
ちょっと待って


待てぬ


首筋を食む
チェヨンが言った


だって 
ファンが気になるから
集中出来ない


俺のことだけ
見てれば良いではないか


じっとウンスの目を見て
チェヨンが言った


そ そうだけど
でも気になるもの
あんなに 引っ掻いたら
爪だって傷める
駄目よ
やっぱり 気になる


ウンスは脱ぎ捨てた寝衣を
肩から羽織ると
扉に向かい 扉を開けた


ファン


やっと入れてもらえた
ファンは 
うれしくて
ウンスに飛びかかろうと
したところを
チェヨンにつまみ上げられた


イムジャに飛びかかっては
ならぬ
そなたの爪でイムジャが
怪我でもしたらどうするのだ


ファンはチェヨンの言葉など
気にせぬように
今度は
チェヨンの顔を舐め始めた


おい こら! ファン


そう言ってから
懐かしさがこみ上げた


同じことを


え?


同じことを慶昌君様の
ファンにも言っていた
すぐに飛びつく癖が
あったゆえ
慶昌君様が怪我せぬようにと


ファンは兵舎で飼ってたの?


ああ
ファンに会いたいのを
必死で
我慢している慶昌君様が
おいたわしくて
ご実家からこそっと
拝借して来たのだ


盗んで来たってこと?


まあ そうなるか?
だが あの時
慶昌君様は小さな子ども
その小さな子どもが
王として生きねばならないと
毅然と 覚悟を決めていた
拠り所の一つくらいあっても
罰は当らぬ


そうね
ヨンがウダルチでよかったわ
慶昌君様のそばにいて
見守ってあげられて


だが 最期はあんなことに


毒に苦しむ 慶昌君を
苦しまないよう逝かせる為
自分の手で一思いに刺した
その感触が一気に蘇った

あの時の背負った苦しみは
きっと忘れることは
ないであろう と
チェヨンは思う


ヨン
慶昌君様はね
ヨンに感謝してるわ


歪んだヨンの顔を
両手で優しく包んで
ウンスが言った


感謝?


ええ 
ヨンがいなければ
慶昌君様 
きっと毎日 
拠り所もなくて
お辛かったはずよ
ヨンがそばにいて
守ってくれて
心強かったはずよ 


そうであろうか?


ええ
それにね
あの時は事情もわからず
あなたを責めたけど
慶昌君様の最期は
穏やかだったと思うの
大好きなあなたに
いだかれるように
安心して旅立たれたわ


ウンスがチェヨンに
口づけしようとすると
ふたりの間にいたファンが
ウンスの口の周りを
ぺろぺろと舐めた


こら! ファン!
俺のイムジャに何をする


本気で怒ったように見えた
チェヨンが
ウンスはたまらなく
恋しかった


ヨン きっと慶昌君様
「もうよい 気にするな」って
そう思っているわよ
そういう お方だったもの


王座を追われ
粗末な暮らしを強いられても
誰を怨むでもなく
優しく穏やかで凛々しかった
慶昌君を
ウンスは思い浮かべた


そう・・・かも知れんな


チェヨンがウンスに微笑んで
静かに 言った



結局 何度降ろしても
寝台の上に飛び乗るファンに
チェヨンが根負けして
ファンはその日
ふたりの足元で丸まって寝た


残念ね
今宵は なしよ


ウンスの宣告に
大きなため息をついて

絶対に 
早く飼い主を見つけてやると
意気込むチェヨンであった


*******


『今日よりも明日もっと』
ふと蘇る あの日の出来事
懐かしく思える日が
いつかはくるのかもしれない



にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村