薄雲に覆われながら
三日月が空に浮かんでいる


夕餉の後に
ヘジャが用意した
ぺ(梨)を口に運びながら
ウンスが言った


なんだか   大変な
1日だったわ


疲れたであろう


ウンスが手に持っている
ぺを横からパクリと食べて
チェヨンが言った


もう!
ヨン
取らないでよ
目の前にたくさんある
んぐぐっ


チェヨンが食べかけの
代わりに新しい一切れを
ウンスの口に押し込んだ


イムジャの食べかけの方が
うまそうに見える


つらっと言って
またウンスから
横取りした


まったく
子供じゃないんだから
オンニがね
すごい人と結婚したのねって
言うから
子供みたいな人だって
ばらしちゃったんだから
うふふ


楽しそうに笑った


そうか
姉上様とは話が出来たか?


うん
私一人だけ
幸せになったこと
怒ってないって


なんだ
イムジャはそんなことを
心配しておったのか?


うん 
心の何処かに
引っかかってたわ


それで時々   
うなされるような夢を


そうかも知れない
でもなんだかすっきりよ
みぃが生まれる前に
迷いがなくなったわ


それは良かった
姉上様がイムジャの幸せを
祈らぬはずがなかろうに
母上は意外と
心配性のようだぞ


チェヨンが優しい顔をして
お腹をさすりながら言った


シャリシャリして
甘くて美味しいわね


あんまりいい顔で見つめられ
急に
気恥ずかしくなった
ウンスは  
まるで関係ない話で
ごまかそうとしたが


イムジャ
イムジャには
寂しい想いは決してさせぬ


チェヨンの
まっすぐな視線に
捉えられ


うん


ウンスが小さく呟いた
それから
チェヨンの唇が近づいて来て
ゆっくりと合わさった
いつもより   更に
甘くて瑞々しい
口づけの味がした

しばらくして
唇が離れてからウンスが
少し心配そうに言った


ポムは大丈夫かしら?


あいつらなら
すでに新房で子作りでも
しておろう


やだ
ヨンがそんなこと
言うなんて


そうか?
なんなら   うちも今宵
子作りを


もうすでに
お腹にいるわ
ヨンたら   ふふふ


チェヨンの戯れ言が
おかしくて
部屋にはウンスの明るい
笑い声がこだました


それにしても
世の中には奇妙なことが
あるものね


先ほどのことを
思い出すように
言ってから


ああ   私がこの時代にいる
ってのも
相当不思議なことだけど


と   付け加えた


*******


騒動の後
チェヨンはすぐに
呼び寄せたテマンを
チェ尚宮のもとへと走らせた


テマン
急ぎ叔母上のところへ行き
国巫(クンム)をこちらへ
連れて参れ


は?


叔母上には
それだけ言えば
わかるであろうから


はあ


言われた通りに伝えると
すぐにチェ尚宮は
クンムを呼び寄せ
チェ尚宮ともども
チェヨン邸にやって来た


ポムを見てクンムは言った


すでに邪気は祓われて
おります
きっとひっそりと
この邸に
憂や寂しい想いを
遺していたのでしょう
同じ年頃の花嫁様を見て
寂しかった想いが
溢れたのかも知れません


そうかもしれないわ


ウンスが言った


叔母様
ヨンファの披露宴の時
王妃様が
前は寂しい場所だったって
言ってたわ
何があったんですか?
ご側室の邸だったって
聞いたけど


ああ
もとの主は
今の王様のお祖父様
忠宣(チュンソン)王のご側室
だが
ご側室になられたのは
亡くなられてから

王様のご寵愛を受けたものの
ずっと
特別尚宮のまま
身分が低い女官であったうえ
お子もいなかったゆえ
致し方なかったのだ
さらに   運悪く
元から嫁いだ王妃様が
若くて美しい尚宮様を
忌み嫌って
王様から遠ざけるよう
仕向けられ
気鬱もあったのか
病に罹り  
王宮を去ったそうじゃ

亡くなられてから
祟りを恐れたのか?
やっと側室となることが
出来たそうな


なんだかかわいそう
だから王様に会いたいって
言ってたのですね


ポムがしんみり言った


そうね
きっと   同じ年頃で
きらきらしてる
ポムが羨ましかったのかも


ウンスがポムに微笑んだ
チュンソクはポムの手を
握りしめた


ポムは大丈夫にございます
尚宮様が寄って来たいくらい
幸せに見えたって
ことですから  ふふふ
それに
ほんとに
昨夜は幸せだったもの


ポムの大胆なもの言いに
チュンソクは
耳まで赤くなった
チェ尚宮の目が宙を泳ぐ


ポムの帰り際
邸の庭の片隅に
ひっそりと咲いた
藤袴の前で
ウンスはポムとともに
手を合わせた


オンニに会えたわ
ありがとう
あなたもオンニが
彼方に連れて行ったから
もう   寂しくないわよね
きっと向こうで
王様に会えますように


医仙様
藤袴って  控えめで
うっかり見落として
しまいそうだけど
清楚で
優しい花ですね


ポムが藤袴を
見つめながら言った


尚宮様もきっと
この花が好きだったんだわ
ううん
この花みたいに
可憐な方だったから
王様の
ご寵愛を受けたんですよね


そうかもしれないわね
藤袴かぁ~
このお花のお陰で
オンニとの思い出が
この高麗でも出来て
うれしいわ
オンニもこの花みたく
可憐で清楚な人だったのよ


どうせなら   姉上様にも
お会いしたかったな
医仙様の姉上様なら
絶対お綺麗だわ


ポムとウンスは
顔を見合わせて笑った

チェヨンが
愛しそうな顔で
ウンスを見つめている


子供の頃に聞いた
オンニのころころとした
優しい笑い声が
藤袴が風に揺れるたび
聞こえてくる気がした


ウンス    幸せね


*******


『今日よりも明日もっと』
優しい想いに包まれて
私は今を生きている








「十六夜」本編60話
ヨンファもポムも
無事にお嫁に行き
ほっとしています

このサブテーマのお話も
色々と盛りだくさんに
描かせて頂きました

お楽しみ頂けたかなぁ~?
次回から新しいサブテーマで
お届けする予定です

が    その前に  (^▽^;)
久しぶりに
「恋慕」のテーマを
書かせて頂こうかと
思っております
こちらも
おつきあいいただけると
うれしいですヨン


連休が始まりました
お彼岸ですね

先行きが
不透明な時代だからこそ
ご先祖様に手を合わせ
平和な今に感謝したいな
そんな気がしています


皆様   シルバーウィークも
どうぞ
安寧にお過ごしくださいませ