ウンス
ウンス


自分を呼ぶ
懐かしく温かい声が
聞こえる


オンニ?


目の前にずっと昔に
亡くなったはずの
ウンスの姉がいた


ウンスったら 
すっかり
綺麗な大人の女の人ね
別れたときは
確か 五歳だったかしら?


オンニ
どうしたの?


いつの間にか
甘えるような子どもの
口調に戻っていた


ウンスが幸せだといいな
って思って
訪ねて来たのよ


ほんとに?


ええ そうよ
いっつも オモニを
独り占めしてごめんね


やだ オンニ
まだ気にしていたの?
私は平気よ
それにもういい大人だわ
結婚もしたのよ
子どもも 
ほらお腹にいるわ


ウンスは大きなお腹を
幸せそうに見せた


そうよね
私は15で時が止まったまま
いつの間にか大人になって
私を越したのね


オンニ
私を恨んでる?


どうして?


私だけ  
 一人幸せになったから
ずっとオンニのこと
気になってたの


ばかね この子は
あなたの幸せ
うれしいに
決まっているでしょう


ほんとに?


ええ もちろんよ


15歳の姉は
優しい目をしていた


ウンス
ソウルから遠く離れて
心細くない?


そりゃあ
初めは寂しかったわよ
でもね
今は 高麗が私の故郷なの
チェヨンがそばにいるから
もう頼まれても
ソウルにはもどらない


そお よかった
それを聞いて安心したわ
それにウンスは
すごい人の奥さんなのね
チェヨン将軍でしょう?


うん 
でも
焼きもち妬きだし
子どもみたいな
ところもあるのよ
すごくかわいいところも
でもね 
いつも守ってくれるわ
どんな時も


そお
ウンスは 幸せなのね


うん


よかった
あのね 
ウンスに知らせたいことが
あって来たのよ
ポムちゃんのところへ


え? どういうこと?


早く行っておあげなさい
それとね
お庭の藤袴に
時々手を合わせてあげて
ウンスの優しさが
きっと通じるわ

私はウンスの幸せを
いつも見守っているからね


枕元に立った姉は
微笑むとそのまま
すうっと消えた


オンニ
オンニ
待って 行かないで
どういうこと
ポムがどうしたの?


空中に
伸ばしたウンスの手を
チェヨンが握りしめた



イムジャ
イムジャ
イムジャ
しっかりしろ
イムジャ


チェヨンの声がする
ウンスは目を開けた


白昼夢?だったの?


目の前のチェヨンの胸に
しがみつくと


オンニがポムのとこへ
行けって


そうか 
姉上が知らせに来て
くれたのだな


ポムは?
大丈夫かしら?


ああ チュンソクがおる
心配いらぬ


でも
ポムのところへ
行かなくちゃ


チェヨンはウンスの頬をなで
抱きしめ直した


イムジャに何かあったかと
生きた心地がしなかった


ふふっ
私ならどんなことがあっても
大丈夫よ
あなたがいるもの
さっきもね
オンニに言ったの
あなたは私を
必ずを守ってくれるから
心配ないって


ウンスはチェヨンの
胸に顔を擦り寄せた
大好きな人の腕の中
生きている実感がした



自分以外はいないはずの
部屋の中で
ガタリと音がして
人の気配がする

ポムは目を覚ました

部屋の片隅で
表情のない青白い女人が
ポムをじっと見ていた


*******


『今日よりも明日もっと』
藤袴
誰が遺した形見であろうか