雨がしとしと降り出し
高麗の都を濡らしていく

チェヨンは先ほどの
ウンスの涙が気になり
兵舎の窓から邸の方角を眺めた

ウンスはうれし涙だと
言っていたが
子をはらんでから
そして
お産が近づくにつれ
気持ちの浮き沈みが
大きいような気がしていた

高麗に親はなし
いくら俺がついていても
肉親の情には敵わぬものか?

チェヨンは軽くため息をつく


夕餉にはまだ早い
だが やはり
チェヨンは
邸に戻ることにした
どうにもウンスが気になって
仕方なかったのだ

チュンソクを呼ぶ


お前 今日は急ぎの用が
何か残っておるか?


いえ これといって


そうか では
俺も邸に戻るゆえ
お前も嫁を連れて帰れ


は?まだ幾分早いような


せっかくの新婚
ゆるりと新房で
夜を過ごすなら
一時も早く
帰りたいであろう?
なあ


はあ


半ば強引に押し切られ


はあ では
そうさせていただきます


チェヨンとともに
邸に向かった

後を引き受けた
まだ頼りないトクマンが
二人を見送る


いいな~
これから 隊長は
あの若い奥様と 
楽しい夜なんだろうな
だって 新婚
まだ二日目だぜ


羨ましそうに
そして少しいやらしそうに
チュンソクの背中を見つる


一生言ってろ


隣で見送るテマンが
トクマンの脛に蹴りを入れた


いって~なにすんだよ!


プジャン(副隊長)がこれじゃ
し 下に示しがつかない


テマンがドギマギ顔で
だがはっきり言った



邸の前まで来た
チェヨンは
ぞくっとするような
なんだか嫌な感じがした

前庭が霧に包まれている

もともと内攻の使い手
人よりも感性が鋭い

チュンソクを見た
チュンソクも何かを
感じたようで
互いに顔を見合わせた

早い時間の大護軍の
急な帰宅に厨房で
くつろいでいた
女官二人が
あわてふためく


お おかえり 
なさいませ


よい それより
その方 
急ぎ兵舎に向かい
テマンを呼んで来てくれ


オリに向け言った
チェヨンの声が
どことなく緊迫していた


はい


オリが走り出す


ウンスは?


閨でお休みに
ヘジャさんがそばに
ついております


そうか
して 
チュンソクの嫁御は?


はい 眠たいと申されたので
お部屋をご用意いたしました


すみませぬ
お役目中に


チュンソクが頭を下げる


いや よいのだ
昨日は婚礼であったのだし
なれば
俺はウンスの元へ参る
お前は嫁御の元へ
ヨリ チュンソクを
案内いたせ


はい 大護軍様


胸騒ぎがする
何事もなければ良いが


チェヨンは邸の中を
閨まで走った

閨の前にはヘジャが
船をこぐように
眠っていた

チェヨンの足音に
飛び起きる


ウンスは
ウンスは いかがした?


はあ?
奥様ならば
お閨の
寝台で寝ておりますが


ヘジャ 見たのか?


え? いえ
寝ておりました


ヘジャが青くなる
つーっと
冷たい汗が背中に流れる


庭先に秋の花
藤袴が咲いている


*******


『今日よりも明日もっと』
誰よりもあなたを想う
片時も忘れずに






56話のコメ返し
ネタバレを書いてしまいそうで
まだどなたにも
お返ししておりませぬ
ごめんなさい
後ほどコメ返しいたしますね

3話連投します
よろしければおつきあいください