晴天のまま
典医寺にも王妃様にも
別段変わったことはなく
一日が平穏に過ぎた


明日はチュンソクとポムの
婚儀がパク家で
盛大に行われる


夕餉に戻ったチェヨンは
明日は
王宮を離れなければ
ならないので

今日中にやり残した役目を
片付けると言って
またウダルチ兵舎に
戻って行ってしまった

ウンスは寂しい気持ちを
気を紛らせるために
ヘジャに付き添われ
湯浴みをし
自分の部屋で
明日の衣を試着していた


ねえ
ちょっと派手じゃない?
もういい歳なのに


ウンスが何度もヘジャに
確認する


大丈夫でございます


いやー
でも  いくらなんでも
はたちの花嫁の
ポムじゃないんだから
気がひけるわ


せっかく旦那様が
こしらえた衣に
ございます


そうなんだけどね~


ウンスは気恥ずかしそうに
頬を染めた


よくお似合いですよ


髪に飾る真珠の髪飾りが
油灯に反射して
きらきらと輝いていた



チェヨンが兵舎に戻ると
まだチュンソクがいた


お前   まだいたのか?
婚儀の準備はよいのか?
こんな時間まで
新郎が一体何のようだ?


はあ
明日の予定を確認して
おりました


なんだ   式のか?


いえ   ウダルチので
明日は大護軍も某も
おりませぬゆえ
各組の組頭に伝えることを
まとめておりました


相変わらず律儀だな
そんなの後は任せるで
よいではないか?


それが出来るのは
大護軍くらいで


そうか?
俺は部下を信頼しておる
任せるところは
任せておけば大丈夫だ
まあ
お前にはいつも
苦労かけているがな


やめてください
そのような殊勝なお言葉
雪が降ります


おい
人をなんだと思ってる
お前に戯れ言を言われるとは
だが   苦労して来た分
お前には幸せになって欲しいと
これでも思っているんだぞ


はあ


俺は 
一人で生きていた頃のことは
もう思い出せぬ
お前も家族を持てば
わかるであろうが


はっ


俺たちは武士だ
命をかけて
この国を守る


はっ


だが順番を履き違えるな


は?


家族も守れぬものが
国を守れようか?
大切な者を守るために
俺たち武士は戦うのだ


いかにも
肝に銘じて


ああ


はっ


チュンソク


は?


幸せになれ


は   はっ!


チュンソクは頭を下げた
温かい目をした
チェヨンがそこにいた


早々にチュンソクを
屋敷に帰し
チェヨンは残りの雑務を
引き受けた

仕方ない
今宵は祝儀だと思え

邸で首を長くして
待っているであろう
ウンスを思い浮かべながら
猛然と役目をこなす
チェヨンであった



邸ではウンスが
欠伸をしていた


お先におやすみになっては
いかがですか?


ヘジャがウンスに言う


大丈夫よ
もう少しだけ
待っていたいの
これも見せたいし


居間に使っている部屋の
卓の上には
ここ数日でヨンファや
ヘジャと縫い上げた
みぃの産着が並んでいる


こんなに小さいのね


ウンスが手に取り
微笑んだ


そうでございますね


親になるってなんだか
不思議
これを着たみぃに
もうすぐ会えるのね


はい    楽しみに
ございます


ウンスとヘジャは
顔を見合わせ笑った


外でガタンと音がして
居間に向かってくる
足音が聞こえた


旦那様だわ


うれしそうなウンスが
重い腰を上げるより早く
チェヨンがウンスの元へ
やって来た


まだ起きておったのか?


うん   夕餉の時に
お披露目できなかったから


チェヨンは
みぃの産着を目にすると
ふわっと微笑んだ


これはイムジャが
縫ったであろう


襟に小さく黄菊が
刺繍された産着を
手に取り言った


わかる?
やっぱり下手くそでしょう


ウンスが言うと


いや   イムジャの
優しい気持ちが
伝わる気がしたゆえ


ほんと?


ああ
みぃは幸せだな
生まれる前から
こうしてイムジャの
気持ちに包まれて


チェヨンはウンスの
指先をなでた


さて   明日は一日
大仕事だ
早う   休むとするか?


うん


チェヨンに手を引かれ
閨へと向かう後ろ姿が
ヘジャには
美しい天女に見えた


お幸せそうで何よりだ


居間の灯をふっと消し
自室に戻る途中に
見上げた夜空

月明かりはなく
代わりに
満天の星がまたたいていた


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『今日よりも明日もっと』
優しい気持ちでいると
優しい夜が更けていく