新しく越して来た王宮の邸
チェヨンと並んで座る
朝餉の膳

卓の上の青磁の花瓶に
生けた小さな黄菊に
ウンスは目を留めた
思い出の花


うふふ 確か・・・
江華島の郡主のお屋敷の庭?
だったかしら?
この花を
あなたの髪に挿したのは


懐かしむように言った


そうだったな


チェヨンもじっと見つめた
この花が
ずっと心の支えだった日々を
思い出すような顔をして

そう言えば
あの小瓶は
どこに仕舞ったのだろう
ずっと懐に入れて肌身離さず
持っていた
ウンスからの贈り物
再びウンスに出会ってからは
すっかり忘れていたと
苦笑する


そう言えば あの瓶
どうしたであろう?


あるわよ
ちゃんと仕舞ってあるわ
ずっとあなたが持っていて
くれたんでしょう?
アスピリンの瓶に黄色い菊が
ドライフラワーになって
入ってた
大切にしてくれてたのね
私が大切にされてたみたいで
うれしかったもの


そうか
もっと大切な物が増えて
すっかり忘れていた


チェヨンはウンスの頬に口づけて
それからみぃのいるお腹をなでた
ウンスはふふっと笑って言う


また 黄菊の咲く頃が
巡って来たのね
月日の経つのは何て早いのかしら?
再会してからも あっという間ね
子どもが出来て喜んでいたら
そのみぃも もうすぐ生まれるわ
それから 毎年時を重ねて
いつか私もハルモニになるのよね
隣には白髪になった
ハルボジのヨンがいて
きっとこうして一緒にご飯を
食べているわよね
孫が走り回ったりして


チェヨンは上品な老婆になった
ウンスを思い浮かべてみた
ハルモニになっても
変わらず可愛いウンスを・・・


ねえ ハルモニになっても
私のこと好きでいてくれる?


ウンスが急に聞く
間を置かずに


当たり前だ


チェヨンはウンスの鼻の頭を
指できゅっとつまんで揺らし
優しい笑顔でそう言った
ウンスはうれしそうに
その手を取って


いつか 
あの再会した木の下にも
言ってみたいわ


ああ 行こう


ほんと?
絶対よ


ああ みぃが無事生まれ
落ち着いた頃に
必ず行こう


あ~~
また 楽しみが増えたわ
早く生まれないかしら?


おいおい イムジャ


うふふ 冗談よ


*******


夏が終わり
もう 秋だというのに
少し汗ばむくらいの
晴れた日であった

キ・チョルの罠に嵌り
江華島の郡主の屋敷に
やむを得ず 匿われた 
チェヨン ウンス
そして先代の王
慶昌君(キョンチャングン)

重病の慶昌君の鎮痛剤を
屋敷の庭で探していると
言ってせわしなく手を動かす
ウンスを見かけた

花に顔を近づけるウンスが
ひときわ 美しく見えた

慶昌君と三人で
何処か山奥でひっそりと
暮らせるものなら
どんなにか心が満たされるに
違いない

思ってはいけない夢を見た
考えてはいけないことだ
チェヨンはぐっと拳を握る


ハーブが
無造作に生い茂る庭に
美しく咲く黄菊の群生

ウンスはその甘く清々しい
香りを嗅いだ

キ・チョル邸で言った彼の
言葉が頭に浮かぶ
嘘も方便とわかっているのに
なぜか 心が弾んだ


「某 一人の男として
恋慕うこの方を助けに参りました」


一人の男として
恋慕う


ふふっとうれしさがこみ上げる
でも
好きになってはいけない人
だって 私は
この時代の人間じゃないもの
でもどうにも心があの人を
捉えて 離さない
早くソウルに戻らなきゃ
これ以上好きにならないうちに


回廊からチェヨンが
こちらを見ている
心臓がとくとくと
波打った

減らず口を叩きながら
それでも自然と
足がチェヨンのもとへ向かう

想いを見抜かれないように
黄色い小菊を差し出した


あげるわ


そう言ったウンスを
呆れたように眺めた
チェヨン


受取らない黄菊を
だまし討ちの様に
チェヨンの髪に挿した

きょとんとしている顔を見て
少しだけ心が落ち着いた
かわいい顔


花のいい香りが
血の匂いを和らげてくれるわ


ウンスの言葉に
少し悲しそうな顔を
したように見えた

思うと思わざると
たくさんの人の血で染まる
チェヨンの手

平和な時代に生きられたら
どんなにいいだろうと
ウンスは思った

この人が心穏やかに
暮らせますように
そんなことを
ひっそりと願った


ウンスが先に廊下を
歩き出す

チェヨンの足元には
黄色の小菊が一輪

ウンスの分身のような
そんな気がして
そこに捨ててはいけなかった

拾い上げると
花の優しい香りがした
ウンスのような優しい香り

チェヨンはウンスに貰った
薬の小瓶の中に
その花を入れると
大切に懐にしまった

胸の当たりが
なんだかぽかぽかと
温かい
ウンスの温かさが伝わって
来る気がした


*******


『今日よりも明日もっと』
出会ったばかりの頃も
幸せな今も
年を重ねても
ずっと あなたが好き




☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


シルバーウィーク企画?

恋慕の次なるお題は

「黄菊」です

現在のふたりの回想から始まり
ドラマのふたりをharuなりに
描いてみました

そして この先は
以前に書いた「恋慕」と
リンクさせながら
構成したいと思います

上手く描けるかな?
おつき合いいただけると
うれしいです




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