あら   今夜くらい
一緒に
食べたらいいじゃない


朱塗りの柱に
囲まれた部屋には
七色に輝く螺鈿細工の棚や
蓮の花の絵が飾られ

黒光りしている
重厚な卓には夕餉の膳が
色とりどり並んでいた

卓の真ん中には翡翠色の
青磁の小さな花瓶に
秋の花の
小さな黄菊が生けられている


そのようなこと
女官長様に知れたら
どんな罰を受けるか
ここは王宮
掟が何より大切な場所に
ございます


引っ越しの手伝いをしてくれた
女官二人のねぎらいも兼ねて
夕餉を共にとウンスが
誘うと  女官ヨリが
ぶるぶると頭を振って
丁寧に辞退した


そおなの?
ポムは一緒に食べるし
それに王宮って言っても
ここはチェヨン邸よ


それでもなりませぬ
我ら女官は王様に一生を
捧げた身
今は王妃様の命により
医仙様にお仕えいたして
おりますが
王様にお仕えする以上
掟は絶対にございます
それにポム様はパク家の
ご息女様
我々女官とは立場が違います


ふーん
そんなもの?


チェヨンを見ると
そのくらいにしておけと
顔が言っていた
王命は絶対
掟は絶対
宮仕えのチェヨンには
女官達の立場がよくわかる


イムジャ
ここは王宮
天界式は通用せぬ


なんだか不便ね
でも仕方ないわね
少しずつ慣れなきゃ
郷に入りては郷に従えかぁ


ウンスは頷いた


じゃあ
せめて厨房で何か食べて行って


それもなりませぬ
女官には女官の
食事が用意されておりますゆえ


頑なにヨリが辞退した
その横でポムが
物怖じせずに
パクパクと
料理を平らげている

やっぱりポムは
良家のお嬢様なんだなぁと
ウンスは改めて感心した


わかったわ
じゃあ   もう下がって
ゆっくり休んでね
ここはヘジャがいるから
大丈夫よ


ウンスの言葉に
ほっとした顔をすると
女官二人は下がって行った


大変なのね
王宮で生きるって
叔母様も色んな想いを
抱えて来たのかしら?


ウンスは同じ王宮に住まう
チェヨンの叔母
チェ尚宮を思った


チェ尚宮様は特別な方ですよ
だって名家チェ家のご息女で
ご側室にだって
もしかしたら王妃様にだって
なれたかも知れないのに
王妃様付きの武閣氏だもの


そおなの!


はい
女官長様より力があります
下手な高官よりも
よっぽど力があるわ
だって王室直属だもの
人脈にも情報にも
長けているし


へえ


ウンスは改めて思う


私って凄いとこに
お嫁入りしたのね


そうですよ!
医仙様は凄いんです!


ポムは自分のことのように
誇らしげに言った
ウンスの後ろに控える
ヘジャが頷いている


ところでポム


はい   医仙様


本当に明日
武閣氏を辞めてしまうの?


引き止めるような
声色を混ぜて
ウンスが聞いた


はい
本当はもう辞めている
はずだったんです
ヨンファさんが
急に辞めてしまって
後任が決まらないから
ずるずると~


複雑な表情を見せた


そうなんだ


ポムはヨンファの輿入れと
ウンスが警護しやすい
王宮に越して来たのを
見届けて   やっと明日
辞することになっていた


また
寂しくなるわ


ウンスがため息をついた

チェヨンがウンスの
手の上に手を重ねて
励ますように力を込めた

ウンスがチェヨンを見て
微笑む
その様子をポムが見て
にこりと笑った


大丈夫ですよ
新しい女官さんもいるし
ポムも遊びに来ますから


そお?


はい


ポムが元気よく返事をした
その時
表で聞き覚えのある
低い声がした


あ!  チュンソク様だわ


え?  そお?


はい
チュンソク様ですぅ
夜はここにいるって
言っておいたから
迎えに来たんだわ


ポムが尻尾を振る勢いで
うれしそうに言った


じゃあ   ご馳走様でした
ポムはこれにて


あら    チュンソクさんも
一緒にご飯を食べたら
いいじゃない


いやですぅ
だって早く二人きりに
なりたいんだもの
医仙様も同じでしょう?


まったくポムには
かなわないわ
せっかく
送別の宴にしようかと


医仙様
ポムにはお気遣いなく
送別は
温泉宿でして頂きました
では   これにて


はいはい
行って行って
チュンソクさんに
よろしくね


はーい


ポムは
あっさりと去って行った

見送りに出たヘジャが
部屋に戻って来て
チェヨンに言う


今日も王宮は
万事抜かりなく
だそうです


そうか


あらやだ
またチュンソクさんに
役目を頼んで来たの?


いや   報告を寄越せとな


まあ   


それにしても
賑やかな嫁御だな
口を挟む暇もないぞ


そこがかわいいのよ
チュンソクさんだって
きっとそうよ


ウンスが言った


そうであろうか?


チェヨンは半信半疑で
呟いた


まあよい
やっと   邪魔がいなくなり
ふたりきりになれる


ふふっ


ウンスはチェヨンの
膝の上


重い?


いや   ちっとも


チェヨンがウンスを
みぃごと抱き寄せた


ちょっと疲れた


チェヨンに
もたれかかるように
腕の中で目を閉じる

ヘジャはふたりのことなど
まるで見えない素振りで
片付けをして
厨房へと早々に
引き上げた


少し眠れ


チェヨンがそう言って
ウンスの頬をなでる
穏やかな鼓動が
子守唄のように聞こえた


ヨン   


まどろみながら
自分を呼ぶウンスが
愛しくて
チェヨンはその頬に
口づけた


もっと


目を閉じたまま
ウンスが言った

チェヨンは
こらえきれずに
口づけを繰り返しながら
静かに尋ねた


閨へ行くか?


*******


『今日よりも明日もっと』
寂しいときも
心細いときも
あなたが隣にいると
穏やかになれる



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