昼過ぎに
雨が上がったのを機に
ウンスは
ポムとヨリに付き添われ
典医寺から邸に戻っていた

オリは朝からヘジャの元で
邸の掃除や片付けなど
こまごまと働き

働き者で優しいヘジャに
里の母親を重ねたのか?
すっかり
懐いたようだった

どこに行くにも
ちょこちょことついて歩く


なんだか 本当に
オリって名前の通り
アヒルさんみたいな子ね


ウンスがその様子に
くすりと微笑む


そうですね~
二人はアヒル?カモ?の
親子みたい


ポムもにこりとした


なんだかオリを見ていると
ポムが大人に見えるわ


子どもだ 子どもだと
思っていたポムは
このところ
大人の女の顔をするように
なってきた

もちろん まだまだ
あどけなく可愛らしさを
損ねてはいないが


ヘジャのいれたお茶を
飲みながら
邸の一室に落ち着いた
ウンスを
見届けたポムは 
これから兵舎に行っても
よいかと
ウンスに尋ねた


チュンソクさんのところ?


はい 昨日は王宮で
会えなかったから
ちょっと顔を見に・・・


ポムが照れ笑いをする


そっか~
考えてみたらポムも
職場結婚なのね


しょくばけっこん?


ええ 同じところで
お役目についていた者同士
結婚することよ


それなら医仙様は
究極のしょくばけっこん?
ではないですか


うふふ そうね
そして共働きだわ


ともばたらき?


ええ 結婚しても
仕事を続けているでしょう?


そうですね


ポムは納得して頷いた


あのね
ポムの婚儀は
恵まれているな~と
つくづく思うんです


そおなの?


はい だって大抵は
婚礼の場で初めて
旦那様の顔を知るのに
結婚する前から
こんなにいっぱい会えて
おまけにこんなに
きゅんとして


きゅんと?


はい
医仙様 ふふふ
内緒ですよ
この前の宴の夜にね


ポムは顔を赤らめて
声を潜め
でも誰かに言いたくて
仕方ないように
ウンスに囁いた


すんごい大人の
接吻をしたんです


す すごい?


はい!
びっくりしちゃって
足ががくがくしました
なのに
チュンソク様ったら
顔色一つ変えないの
ポムは今思い出しても
この辺りがぎゅって
締め付けられそうなのに


ポムは胸を鷲掴みにした


そ そうなのね


でもチュンソクさんも
ほんとは相当
ドキドキしたんじゃないかな?
ウンスは思ったが言わなかった


医仙様はいつもあんな
しびれるような接吻を
しているのですか?


え?し   しびれ?


だって 
医仙様と大護軍って
いっつも
してるじゃない
接吻を・・・


い いや 
そんなことないわよ


ウンスの反論など
まるで聞いていないポムは


いいな~
医仙様もするたび
身体の奥が熱くなりますか?
ポムは思い出しただけで
そうなるんです


ポムの話はウンスの頬を
熱くした
何より そばに控えていた
女官ヨリが 
口をあんぐりと開けたのを
ウンスは見逃さなかった


ぽ ポム 早く兵舎に
お行きなさい


これ以上余計なことを
しゃべらせないように
ウンスはポムを送り出した

大人だと思っていたけど
やっぱり 
考えなしなとこは
まだまだ
おこちゃまかしら?

ウンスは
おかしいような
ほっとしたような気がして
ポムを見送った



勝手知ったる兵舎に
上がり込み
ポムはチュンソクを探した


チュンソク様~~


テマンとトクマンが
未来の隊長夫人の扱いに
弱り果てていた頃

廊下で行き交ったチェヨンが
まさか ウンスに何か
あったのかと
一応 ポムに尋ねた


いいえ 医仙様なら
お邸にもうお戻りです


こんなに早くにか?


少しお疲れみたいで
侍医様が早く帰って
お休みになるようにと
そうおっしゃられて
お邸におります


ポムが言った


そうか では一度 
顔を
いや様子を見に
邸に戻らねば


チェヨンは近くにいた
テマンに邸に戻ると告げ
あっという間に消えた


は    早い!


トクマンが感心する


いいな~医仙様
これから 接吻かな?


周りにいたウダルチが
ギョッとポムを見た


何を言っておるのです


康安殿から
今しがた戻ってきた
チュンソクが
皆の顔が
赤くなっていることに
気がついて慌てて 
ポムに駆け寄る


ポム殿 こちらへ


一階の奥の狭い部屋に
ポムを連れて行く

トクマンがニヤニヤと見て
テマンに
パコンと頭を叩かれた


ここが 
チュンソク様のお部屋?


ポムが聞いた


そうですが
何か?


だって 
大護軍様のお部屋の
半分もないわ
それに薄暗いし
まさか
ここで寝泊まりしているの?


はい


この固い木の上で?


四角いだけの木の寝台を
指差して言った


なんでも構いません
それに一人の部屋があるだけ
ましな方です


そうかしら?
武閣氏の布団の方が
まだまし
これじゃあ 
疲れが取れないわ


ポムが心配そうに言う


大丈夫です
慣れているゆえ


ポムがぱっと
明るい顔をして
チュンソクに囁いた


そうだわ
結婚したら毎日
ポムが
お布団になってあげる
チュンソク様
ポムの上で眠ればいいのよ


は?
ポム 
意味がわかって
言っておるのか?


へ?


相変わらずの仰天発言に
チュンソクは身体中から
汗が噴き出して来る
気がしてきた

二人の閨の様子が
たやすく
想像出来てしまった

柔らかなこの女人を
下に・・・

いやいや いかん
すぐに
チュンソクは深呼吸をして
居住まいを正した


ポムや
そのようなことを
他の人の前で
言ってはならぬ


どうして?


ポムは不思議そうに
チュンソクを見た


ねぇや


チュンソクは
思わず声がうらがえる
咳払いをして
落ち着いてから
もう一度言った


お   俺たちの
閨の様子に
聞こえてしまう


やだ チュンソク様
そんなつもりじゃ
もう もう
やだ~
やだ~


ポムは恥ずかしさで
手で顔を覆ってしまった

こういう仕草にも
どきりとしてしまう
男所帯が長かったせいか
ポムのすべてが新鮮で
かわいらしく愛おしく
思えてしまう


ポムや


チュンソクは
少しずつポムに近づくと
びくりとした
その身体を抱きしめた


チュンソク様?


じっとして
目を閉じて


ポムが言われた通り
じっと  目を閉じると
チュンソクの唇が
ポムの唇に合わさった
甘い感触に
ポムはくらくらした

このまま
もっと大人になりたいのに

ポムは密かに思っていた




ウンスは
ヨンファを無事に送り出し
急に どっと疲れが出た
ような気がした

次はポムがいなくなるのかと
また   寂しい気持ちになる


でも   沈んでる
場合じゃないわよね


自分に言い聞かせるように
呟いた


まだポムの結婚式もあるし
それに
あのイ・ソンゲが
邸に訪ねて来るし


何をぶつぶつ言うておる?


邸にふらりと戻った風の
チェヨンが聞いた


ヨン どおして?


チュンソクの嫁御から
イムジャが
邸に戻ったと聞いたゆえ
様子をな


ふふっ ほんとは
顔を見に来たんでしょう?


椅子に座ったままのウンスが
チェヨンに向けて手を広げた


ねえ    来て


その腕をさらに抱きかかえ
ウンスを抱きしめた



よいですか


部屋の外では
ヘジャが女官二人に
ひそひそと話をしていた


おふたりが揃われたら
早々に 
お部屋からお出になるように
おふたりは
おふたりのことしか
見えておらぬのですから
何をやり出すか
わかったものではありません


やれやれと頭を振る


女官二人は
真剣な眼差しで
こくりと頷く


部屋の中では
ふたりの
抱擁が続いている


ウンスが言った


しびれるような口づけかぁ


ん?なんだ   それ?


うふふ
ポムが言ったのよ
内緒だった


ウンスが舌を出して
笑って言った


なんだ   あいつらのことか


他の人の接吻など
どうでもいいような顔の
チェヨンの耳元に
ウンスが
息を吹きかけるように言う


しびれるって言うよりは


あ?


疼くのよね    からだが


ウンスの唇の上で
チェヨンが囁く


ああ    俺もだ
そして
もっと   イムジャが
欲しくなるがな


雨上がりの空気は
澄んでいて
ひと雨ごとに
秋が
深まっていくようだった


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『今日よりも明日もっと』
うんと   愛して
もっと   ずっと   
たくさん