夜が更けて
チェヨンは急ぎ屋敷に
戻った

きっと気にしておるだろう
庭園で会った時
そっけない態度をしてしまった
がっかりしたあの顔
駆け寄って抱きしめたかった
そのうえ
昼間も典医寺に行けなかった
戦が明けて また新しい戦
チェヨンは小さくため息をつく


宣仁殿で行われた朝議

パク・インギュが双城から戻り
双城の北方で始まった新たな戦
国境付近の軍備増強
また
元や西の国にも通じる
義州や朔州の交易について
喧々諤々 議論がされていた

朔州郡主のキム・ウォンと
その息子 キム・ドクチェも
その場にいて議論に加わって
いた

そんな折 王様がチェヨンに
向かって言った


そなたに預けたい者がおる
ウダルチで面倒を見てくれぬか
本人のたっての希望なのだ


はあ


これ こちらへ


連れられてきた若者は
インギュと変わらぬ
22歳 
きりっと引き締まった顔
賢そうな目つき
それでいてチェヨンに向ける
親愛の情
あの時の少年がすっかり
立派な武将に成長していた


再会がうれしい反面
ウンスの心に
波風を立てるのではと
心配になった
今日の昼前のことである


月明かりの中
屋敷の門をくぐると
ウンスがで迎えに出ていた


起きていたのか?


ウンスは
チェヨンの腕を掴んだ


今日はなかなか
会えなかったから・・・
昨日 そんなに暇なのって
言ったから?
だから会いに来なかったの?


そんな訳あるか
イムジャの顔を見たかった
だが今日はほんとに
時間がなかったのだ


うん
わかってる
昼間 
典医寺に会いに来るのも
ほんとは 大変なことも


イムジャ 中に入ろう
夜風はからだによくないゆえ


うん
何かあったの?
昼間の男の人 誰?


ウンスの問は止まらない


ウンスや
心配いらぬ


うん ごめんなさい


チェヨンはウンスの腰に
手を回して
夜道でふらつかないように
気をつけながら
屋敷の奥へと入って行った

月の光を浴びて輝くふたりを
ヘジャが後から見守っていた


簡単に水浴びを済ませた
チェヨンが閨に戻ると
ウンスはすでに
背を向けて床の中にいた


いじけているのか?


そんなことないわよ
ちょっと会えないくらいで
いじける訳ないでしょう


そうか?
俺はいじけるぞ


ウンスがくるりと向き直り
チェヨンを見た
チェヨンはウンスの隣に
横になると
そのからだを抱きしめて
呟いた


今日は何とも間が悪くて
すまなかった


ううん


イムジャは庭園であった
あの若者に 見覚えはないか?


え?


イムジャが命を救ったのだ
あのキム殿とたしか同じ病で


え? もしかして?
まさか李成桂?(イ・ソンゲ)


ああ そうだ
この度の戦で
大手柄を挙げたであろう
今 親子で都に来ておるのだ
王様が褒美をというと
あやつ
ウダルチで鍛錬したいと
そう申したそうだ


ええ?
じゃあウダルチに入ったの


ああ 臨時ではあるがな


そんな~


イムジャが気に病むと
思うてな
将来 
俺を殺す相手なのであろう?


うん 私の知ってる歴史では
そうなの
大丈夫かしら?


心配はいらぬ
たとえイムジャの知っている
先の世がそうであったとしても
今は今
俺は 先の世よりも
俺を心配してくれる
イムジャのことのほうが
大切だ


でも・・・


まだ何か言いかける
ウンスの唇を
チェヨンは塞いだ


大丈夫だ
俺を信じろ


うん


だからイムジャは心穏やかに
過ごしてくれ
妊婦が不安を抱えてはならぬ


うん


どれ 今日はみぃにも
会えなかったな


チェヨンはウンスの
ふくらんだお腹を触る


良い子でおったか?


みぃがチェヨンの手のひらを
ぐいと蹴る


このごろ力強くないか?


そうなの
もうね 大きくなって
お腹の中でぐるんって
まわることはないみたい
そのかわり 蹴る力が
強いのよ
時々 びっくりしちゃうわ


そうか 母上をあまり
困らせるでないぞ


チェヨンがウンスのお腹に
向かって声をかけた
ウンスがチェヨンに言った


今日ね チェ先生がね


あ?奴の話か?


ちがうわよ
みぃの話


なんだ?


お腹の状態も
悪くないし
脈も安定してるって


そうか
ん?
脈診したのか?あいつ


ええ すごくよく
診てくれたわ


イムジャの手に
触れたかっただけでは
ないのか?


もう 医者はそんなこと
考えないわよ
それでね 脈診でも
赤ちゃんが
男か女かわかるんですって
知りたいですか?
って聞かれたから
生まれるまでの
お楽しみにするわって言ったの
ヨンは聞きたかった?


では あいつは
もう知っておるのか


うふふ 私が断ったから
ちゃんと診断してないと思う


そうか ならばよい


相変わらず チェ先生は
目の敵なのね
そのくせ 
信頼もしてるでしょう?


男心は複雑なのだ


うふふ 
そういうことにしておく


で どちらの手首だ?
奴が診たのは


は?左だけど


チェヨンは左の手首に
口づけた


よし これでよい
お清めはすんだ


もう チェヨンたら


チェヨンが掴んだ手首が
どくんどくんと
波打っている
   

ヨン
だいすきよ


ああ


チェヨンはウンスの首筋に
顔を埋めながら


イムジャの香り
やっと吸えた


大きく息を吸った


くすぐったいわ


その気になったか?


ならないわよ
ほら もう寝よう


なんだ ならぬのか


ふふっと笑ってウンスは
チェヨンの寝衣の襟の間に
手を入れた

たくましく温かな胸 
規則正しい心音

その喉元に口づけると
チェヨンののど仏が
ごくりと動いた


ならぬわよ
ほんとに・・・


ウンスは甘えるように
チェヨンに身を預けた


*******


『今日よりも明日もっと』
先のことより
今のあなたが愛おしい



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