閨の寝台の中で
ウンスがチェヨンに行った


お昼寝から目覚めたら
あなたの代わりに
ヨンファがいたわ


ウンスを腕に抱きしめて
チェヨンが聞いた


どうかしたのか?


うん?うふふ
あなたのこといつから
慕っているのか?
ですって
それから天界から
高麗に来たこと
後悔してないかとも
聞いてたわ
キムさんのこと迷って
いるのね   きっと


そうだな
悪い話には思えぬがな


女には色々あるのよ
それにヨンファは
武閣氏としても才覚があるもの


まあ   そうか


私もソウルでずっと
暮らしていたら
どんなだったかしら?
開業して病院を切り盛りして
恋なんかしたかしら?
結婚はきっとしてないわね
毎日忙しくてバリバリと
働いていたかな?


天界の暮らしが
懐かしいか?


たまには夢にも見るわ
夏の暑い日には
クーラーが欲しいし
冷えたマッコリが
恋しくなるし
うふふ
でもね   何度考えても
やっぱり私はここを
選ぶわ
あなたの隣にいる人生を


チェヨンは
ウンスを抱きしめた


俺にはイムジャのいない
日々など考えられぬ
前はどのように暮らしていたか
とうに忘れてしまった


うふふ
私もあなたのいない
人生なんて考えられない


そうか?
して   ヨンファには
どう答えたのだ?
その質問に


気になる?


少しばかりな


出会う前から好きだった
ずっとずっと好きだった
気がするって
それに
自分の意志で選んだのよ
って言ったの
だって100年前から確かに
一度ソウルに繋がったの
でも迷わなかった
あなたが待ってるの
わかってたから
あなたにただ  会いたくて
時の門をくぐったの
そしたら
高麗に繋がって
あなたがいたわ
あの木の下に

ヨンファもつかめるかしら?
自分で自分の未来を


ウンスはお腹を触りながら
そう言った
チェヨンはうれしそうに
その手に自分の手を重ねた


ねえ   ヨン
湯殿であたたまったし
気分もいいわ
短い時間なら
大丈夫みたい
今朝の続き


ウンスが少し
恥ずかしそうに誘った

チェヨンは
待ってましたとばかりに
ウンスの衣の紐に
手をかけ
そのやわ肌を確かめた



雲がかかった薄月が
夜空に浮かんでいる


ヨンファはキム・ドクチェの
屋敷の門の前にいた
昼間聞いたウンスの話

互いに恋い焦がれて
夫婦になったふたりが
幸せそうに見えた

ポムと隊長も
運命的な出会いをして
恋に落ちた

どちらもヨンファには
眩しく見えた

それに
侍医様が振り向いて
くれないからと言って
他の男の人に逃げるみたい
なのも   
キム様が優しい人なだけに
余計に気が引ける
武閣氏の役目も捨てきれない
何より結婚するなら
やはりポムや医仙様のように
熱い恋をして結ばれたい

やっぱりこの話は断ろう
断るなら早いほうがいい
気を持たせるだけ
失礼だもの


ヨンファは意を決して
キム・ドクチェの屋敷を
今宵も訪ねた

門の中
屋敷の石段に
キム・ドクチェが
腰かけて空を見上げていた

どことなく寂しそうに見えた

ヨンファに気づくと
驚いた顔をして

ため息交じりで言った


ヨンファ殿
いかがされた?
こう早い
お越しと言うことは
あまりうれしくない
お話か?


キム・ドクチェが言った


はい
早いほうがいいと思って


まあ   焦らずとも
こちらで月でも愛でぬか?
幻想的な月であろう


キム・ドクチェは
自分の上着を一枚脱いで
石段の自分の隣に敷くと
ヨンファを手招きした

戸惑いながら
ヨンファが隣に腰かけた

並んでぼんやり月を見た

キム・ドクチェが言う


今宵の月は立待月(たちまち月)
なかなか現れぬ人を
いまかいまかと
待っている月
自分のことのようだ


キム・ドクチェは
やや自嘲気味に
笑った


待っていたのですか?


ええ
この人だという人を
ずっと待っていました


それが私?


はい
あなたです


どうして私なのか
わからないわ


懸想に理由などありませぬ
だが   ヨンファ殿は
違ったようだ
誰か他に好いた殿方が
いるのですか?


はい
すみません


ヨンファは力なく
答えた


よいのです
その方はヨンファ殿を
幸せにしてくれますか?


いえ
私の想いを受け入れて
くださる方ではありませぬ


辛い恋をしているのですね


ドクチェ様
ごめんなさい
こんな私を好きになって
くださったのに


謝らずともよいのです
あなたを幸せにしたかった
ただそれだけです


私はあなた様を
お慕いしてはおりませぬ
ゆえに
やはりこの話はお受け
しないほうが良いと


キム・ドクチェは
すっと息を吸い込んで
言った


あなたが俺を
慕ってなくても
よいのです


は?


俺があなたに
恋い焦がれますから
それで十分です
それではいけませんか?


ヨンファの手に
手を重ねた
その手が震えていた


よろしくお願いします


言ってしまってから
自分にびっくりした
断りに来たはずなのに?
なぜ?


キム・ドクチェは
さらに驚いた顔で
ヨンファの手を
握りしめた


よいのですか?


よくわかりませぬ
ただこの手が温かいから


ヨンファは重ねた手を
じっと見つめた


これからも
ドクチェ様とともに
先の人生を
歩める気がしました


ドクチェはヨンファの
手をぐいと引くと
がばっとヨンファを
抱きしめて


ありがとう


と   言った


立待月は幽玄の月


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『今日よりも明日もっと』
月が二人を導いていく
新しい道も悪くない