あなたが触れた場所から
熱い想いが広がっていく


ねえ
毎晩のように
肌を寄せて
私のこといつか飽きない?


イムジャはいつも
そう聞くな


初めて夜を過ごす
王宮の邸の閨で
抑え切れない想いを
ウンス刻みながら
チェヨンが言った


だって
飽きられるくらいなら
出し惜しみしようかなって


出し惜しみされては
かなわぬな


チェヨンは笑った


イムジャ
イムジャはどうなのだ
毎夜俺だと飽きるのか?


そんなこと   そんなこと
全然ない
あなた以外は嫌だもの
私に触れていいのは
あなただけ
私が触れていいのも
あなただけよ


ウンスの上気した肌が
しっとりと
チェヨンの肌に
まとわりついた

チェヨンはふっと
口元を緩めてウンスを見た
愛しくてたまらない
恋しくて仕方ない

チェヨンの暖かで優しく
大きな手がウンスを
慈しむように包み込む

ヨンファにも
こんな女の幸せを
知って欲しい
ウンスはチェヨンの
腕の中でちらっと
ヨンファのことを考えた

だがすぐに
そんな想いを
忘れてしまうくらいの幸せで
ウンスはいっぱいに
満たされていった



チェ侍医に案内され
屋敷の奥の部屋に入る

殺風景な部屋の中には
布団が一組置かれていた


衣を脱いで横になりなさい


まるで患者を診察台に
乗せるような口ぶりで
チェ侍医がヨンファに言った


え?


優しく抱きしめて貰えると
思ったのか?
可哀想な子だ
一時だけでも俺の腕の中で
幸せになれとでも
言ってもらえると思ったか?
心が自分にない男に
抱かれる惨めさを
考えなかったのか?


厳しい口調に
ヨンファはその場に
立ち尽くした


ヨンファ
そなたはどうしていつも
そうなのだ
そなたを想い慈しむ人が
いると言うのが何故わからぬ
幸せになることを
何故諦めるのだ


私は
私はただ
侍医様に自分を捧げたくて


捧げられて
俺が
尻尾を振って
喜ぶとでも思うたか?
心がないのに
情を交わすなど
苦痛以外の
何物でもなかろうに
俺は自分と似た境遇の
そなたを妹のように
思うて気にかけて来た
だから
そなたがそれでよいなら
望み通りに致そう
それで後悔はないのだな


チェ侍医は
今にも泣き出しそうな
ヨンファを見据えて
もう一度言った


そこに横に


ヨンファは崩れるように
その場に座り込んだ


侍医様
私は


何か言い出しそうな
ヨンファを止めて
チェ侍医が優しく言った


ヨンファや
あの男
そなたをずっと
見ておったぞ
部屋の窓から見える
木の下で

そなたの凛とした顔を
見ていると
気弱になりかける心が
奮い立つと
言っておった
そんなに
悪い男にも思えぬが


ずるい
侍医様
今   そんな話


ヨンファや
俺はそなたに
諦めずに生きて欲しいのだ
定めの中でしか
生きられぬのは
誰しも同じ
だが決まったその道で
美しく咲くか
しおれてしまうかは
己の心の持ちよう一つだ
ヨンファには
美しく咲いて欲しいと
願っている
投げやりに俺に差し出す
のではなく
そなたを慈しむ殿方と
結ばれよ


チェ侍医の言葉は
深くヨンファの心に沁みる


侍医様    でも
私は本当に侍医様のことが


ありがとうヨンファ
慕ってくれて
だが俺がそなたを
慕うことはないのだ


チェ侍医の心は
あの遥か向こうにある
山のように遠く
ヨンファの心を締めつける


涙で濡れたヨンファの
頬をチェ侍医の指が
優しく拭う

チェ侍医が震えるヨンファの
肩を抱きしめた


ヨンファ
俺の可愛い妹
幸せになれ


*******


『今日よりも明日もっと』
あなたの想いを抱きしめて
私は幸せになりたい







自分で創作している
お話なのに
どうにも心を
持っていかれました
なので   少し休憩


今日この後は
天門で離れ離れになる
前夜の宿の話

「恋慕   宿屋にて」を
お届けします