どことなくぴりりとした
空気を漂わせながら
典医寺の1日が過ぎて行く

チェ侍医はその聡い勘で
何かあったと思ったが
ウンスが何も言わない以上
聞いてはいけない気がしていた

ポムとヨンファは
相変わらず戸口で
楽しそうに話をしていたが
気のせいか
ヨンファは時々思案顔に見えた

慌ただしい診療時間が過ぎ去り
陽が西に傾く

トギとサラは薬草園にこもり
新薬の開発に余念がない

ポムが婚儀の打ち合わせで
チュンソクと
夕方より
自分の屋敷に戻ることとなり
ウンスの警護に
ヨンファとテマンがついた

そしてそれから暫くして
皆が帰り支度を始める頃


今夜はね
王宮のお邸に泊まるのよ
初めて泊まるんだけど
出産前後はそこに
住むことになるから
慣らしみたいなものね
お客様をお招きしているし


ウンスが微笑んで言った


そうなのですか
りっぱなお住まいだとか
よかったですね
出産前後は
典医寺の近くに
いらっしゃると何かと安心
さすが大護軍
医仙様のことに
心を砕かれている


そう笑った


ほんとにね
うちのひとには
頭が下がるの
細かいこと気がついて


そうでしょうね


首筋についた
昨夜の跡を隠すことなく
さらすウンスを
わずかばかりの
切ない気持ちと
安堵の思いで見つめる
チェ侍医であった


大護軍がお待ちでしょう
早く行きなさい


チェ侍医がウンスを
送り出し
テマンに警護されて
ウンスは
兵舎近くの 邸に向かった

がらんとした診療室に
残ったのは
なんとなく
チェ侍医とヨンファだけに
なった


トギさんやサラさんは
まだ 薬草園ですか?


そのようだな
そのまま薬剤室で
生薬談義であろう
ほんとに熱心なことだ
医仙様もお帰りになったし
そなたも部屋に引き上げでは
どうだ?


はい そうさせて頂きます
なれど・・・


口ごもるヨンファに
チェ侍医が尋ねた


何かあったのか?
朝からどうも
医仙様のご様子が
おかしい気がした
まさか 
そなたと大護軍のことが
耳に入ったのか?


は?私と大護軍様?


以前 大護軍のことを
陥れるためいろいろと
調べていた時に
情を交わした
武閣氏がおると噂をな
大護軍が随分と
心を閉ざしていた頃のこと
それがそなたではないかと
思ってたのだ


ヨンファは驚いたようだった


それで
それで
私が大護軍様を慕って
いるのではないかと
気にかけていたのですか?


ああ 
もし情を交わしたのが
本当であれば
たとえ向こうに
気がなくても
厄介なことになったと
そう思うてな
そなたの思いもわかるが
医仙様は身重ゆえ
心に重くのしかかることは
なるべく避けた方がよい


ヨンファはふうと
一つ息を吐いて言った


そのことでしたら
事実をありのままに
医仙様に
温泉宿でお話し致しました
断じてそのようなことは
ないと


そうであったか


はい・・・
侍医様
私は
私は・・・


ヨンファはチェ侍医を
見つめた
チェ侍医はヨンファの
言葉を待った


その頃 務めを抜けて
兵舎近くの邸に
戻ったチェヨンは
ウンスに出迎えられていた


おかえり
なんだか 変な感じ
だって 直ぐそこは
兵舎でしょう?
典医寺にも近いし
王宮の中で暮らすなんて
王族でもないのに・・・


そうだな
なんだか 落ち着かぬ


邸の中を見回した
調度品も高級できらびやか
朱塗りの柱や窓枠
豪華な螺鈿細工の棚
どれもこれも
我が家の物とは
大違いだ


以前は 王様のご側室が
使われていた邸と聞いた
拝領に際して
王妃様がいろいろと調度品を
揃えてくださったようだ


そうなのね
なんだか 趣味が良いもの
キラキラしているのに
嫌味じゃない


邸の中をふたりで歩いた


この部屋が閨?


ウンスがチェヨンに聞いた


そのようだな


なんだかすごい
天蓋付きのベッドなんて
お姫様みたいだわ


寝てみるか?


いいの?


ああ


横になるだけよ
もうすぐ
お客様もいらっしゃるし


なにもせぬ


ほんと?


なんだかがっかりして
聞こえるが


そんなことないもん


俺はがっかりだな
目の前に
こんなに色香漂う
妻がいるのに
何も出来ぬとは


もう チェヨンたら


手をつないで
横になった


ふかふかね
お布団も


そうだな


お香の香りかしら
いい匂いがする


ああ
イムジャやっぱり


チェヨンがウンスの
唇に唇を重ね
熱い吐息を
ウンスの耳にかけた


もう
駄目だって


閨の外から聞き覚えのある
声がする


お取り込み中
申し訳ありませぬが
お客様がお着きです


はあ ヘジャだ


ウンスは首をすくめた


まったくところ構わず
なのだから
やれやれ・・・
なれど喧嘩するより
よっぽどいいか


ヘジャが呟いた



*******


『今日よりも明日もっと』
交差する思い
それぞれの願い


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