マンボ兄妹の店に
着いたのは陽が落ちて
空にぼんやり月が
浮かんで見えた頃だった

ひと足先に
ヘジャが来ていた
急にマンボの店に行くことに
決めたので  屋敷に
スヨンから届いた小箱を
置いたままだった

典医寺から使いを出して
ヘジャに持ってくるように
頼んだ

ヘジャはマンボ妹と
楽し気に話していた

鶏肉料理について
蒸し鶏が美味しいと
奥様が言っていたと
自慢そうに
話して聞かせていた


ヘジャ   
わざわざありがとう
持って来てくれた?


ヘジャが頷く


マンボ姐さん  
こんばんは
お元気でしたか?


おや   これは
医仙じゃないか
倭寇討伐以来だね
腹もすっかり膨らんで
幸せそうじゃないか


ウンスは  うふふと
笑って答えた


そして隣にいるのは
高麗一恐ろしいと
言われた大護軍様
今は女房に骨抜きの男か?
ヨンもすっかりご無沙汰さね
女房にねだられたんだろ
うちのクッバを食べたいって


ああ   とか
うむ   とか
相槌が聞こえた


頼み事のあるときだけ
調子がいい男だよ
まったく   昔っからさ


マンボ妹は笑った


あら
それだけ頼りに
してるってことよ


ウンスがころころと
笑って言った


まあ   そう言うことに
しておくさ
医仙   クッバ食うか?


ええ  食べるわ
それが楽しみで
来たんだから
ヘジャも一緒に
食べるでしょう?
今夜の夕餉はここで
済ませちゃいましょうよ


はい   奥様
ヘジャも久しぶりです
マンボの店のクッバは


ウンスがよいしょと
椅子に座る
チェヨンがウンスの腰に
手を回した


背もたれがないゆえ
疲れぬか?
後ろに落ちるなよ


大丈夫よ
ありがとう


ほんとに医仙の面倒を
よく見る男さね

ほら   いつだったか
徳興君に盛られた
毒に苦しむ医仙に
煎じてやった
薬の絞り方が悪いって
文句言われたことがあったさ

あの時も薬を飲ませたり
もたれさせたり
随分と世話を焼いていたさ


マンボ妹は思い出して
含んだ笑いをした


へえ   そんなことが


ヘジャがなるほどと
頷く


旦那様は奥様のこと
本当に大切になさって
ますからね


そうね
ウンスが熱い視線で
チェヨンを見つめた


運ばれて来たクッバは
鶏肉とネギが
たっぷり入っていて
松の実が散らされていた


松の実を1日一粒食べると
頭のいい子が生まれるって
聞いてね
たっぷりいれたから
とっても頭のいい子が
生まれてくるさ


うふふ
そうかしら?


旦那様と奥様のお子ですから
賢いお子に決まってます


ヘジャが最もだと
言わんばかりに言った


熱々のクッバを
匙ですくい
ふうふう冷ましてから
ウンスの口に運ぶ


大丈夫よ
自分で食べられるわ
みんなが見てるのに
恥ずかしいじゃない


ウンスが照れて
チェヨンから匙を
取り上げ
一口   口に運ぶ


あちっ


ほら   だから
任せておけぬのだ
口を火傷してないか?


ウンスの口元についた
米粒を指でつまんで
自分の口に放り込んだ
チェヨンは
再び匙を取り返すと
またウンスの世話を
焼き始めた

マンボ妹とヘジャが
にやにやしながら
ふたりを見守っている

クッバを食べ終わり
すっかり満足したウンスは
そのままチェヨンに
もたれかかり
うとうとと眠くなった


イムジャ
マンボに尋ねることが
あったのではないか?


ああ   そうだった


今にも閉じそうな目を
ぱちぱちと開けて


ヘジャ   箱を


ヘジャから小箱を受け取り
聞いた


これを加工出来る
金細工の職人さんを
教えて欲しいの


ありゃ
これはまた上等な真珠だ
簪にするのかい?


ええ
花嫁さんの髪に
つけられるように
してあげたいの


ああ  なるほど
テジャンのとこの嫁かい?


ええ   妹みたいな子だから
何かしてあげたくて
腕のいい職人さんを知ってる?


それなら   
この先を少し行ったとこに
住んでる職人の評判がいいさ
ジホに案内させるよ
今から行ってみるかい?


ええ   早い方がいいから


チェヨンは
相変わらずせわしい
困ったイムジャだと
頭を振ったが

ウンスの楽しそうな顔を見て
余計なことは飲み込んだ


またいつでもおいで
医仙は大歓迎さ


あら  屋敷にも遊びに来てね
上等なお酒を用意して
待ってるから


そうこなくちゃ


マンボ妹が膝をパンと
叩いてにかっと笑った



真珠細工を頼み
屋敷に戻る頃には
すっかり夜も更けていた


疲れたであろう


閨で一息ついていたら
チェヨンが聞いた


大丈夫よ


ここ数日眠れて
ないのではないか?
うなされておるし


そんなことないわ
ただなんだか急に不安に
なったり
訳もなく悲しくなる
秋は苦手なの
きっと気が乱れるのね


この時分   妊婦には
よくあることと
侍医も言っていた
そう気に病むことでもない


寝台に腰掛けたウンスの
肩を抱きながら
チェヨンが笑った


抱きしめて
ヨンの腕の中は
安心だから


ああ


口づけて
優しい気持ちになるから


ああ


チェヨンがウンスに
食むような口づけをした


離さないで


無論


よかった


寝台にゆっくり横たわる


明日も明後日も
ずっと一緒よ


当たり前だ
もうイムジャのおらぬ
暮らしは考えられぬ
案ずるな
俺がそばにいるから


うん


チェヨンの衣の合わせに
手を入れて
その肌に触れた
胸に耳を当てて鼓動を感じた

安心したのか
ウンスは


寝るわ


短く告げると瞳を閉じた


ああ   おやすみ


ウンスの髪をなで
その額に口づけた

月夜に照らされた閨の壁が
青白く輝いて見えた


*******


『今日よりも明日もっと』
離さないで
離れないわ






皆様
台風は大丈夫でしたか?
どうか
安寧にお過ごしくださいね


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