今日は蒸し暑くて
疲れたわ
先に帰って湯浴みして
待ってる


典医寺の別れ際
ウンスがチェヨンの腕に
何か言いたげな様子で
ぶら下がりながら
そう言った


ああ そうしろ
なるべく早く戻るから


チェヨンが笑って言った


夕立がざーっと
地面を濡らして
幾分涼しくなった
高麗の市井を
ウンスを乗せた輿が通る

帰り道はいつもの
道順で
ポムとヨンファが護衛につく


戦がはじまり双城では
激しい合戦が
繰り広げられているというのに
ここでは民が穏やかな
暮らしをしていた
夕餉の準備に追われる人々の
楽し気な様子が耳に入った

今日の夕餉はなんだろう
お魚がいいな
ヨンが帰ってくるまで
待っていようかな

一人で過ごす輿の中
なんだか暇を持て余して
しまうなあ

ウンスはそんなことを
考えながら
チェヨンを思い浮かべていた


輿は道なりを進み
にぎやかな通りから
人影がまばらな通りに出た


と その時

急に輿が止まる
ざざっと身構えるような
衣擦れの音がした


何奴!
そこをどけ!
どきなさいって
いってるでしょう!


いつになく
険しいヨンファの声が
響いて聞こえた


*******


チェヨンは兵舎に戻り
私室で双城の
戦の成り行きを考えていた

アンジェが出立する前に
共に立てた策が
上手くいって
いないのであろうか
アンジェはなぜ動かぬのか
じりじりとした
思いが心を支配する

ことを収めに双城に
行かねばならぬか?

ウンスを想いため息が出た


そんな折
テマンが転がるように
チェヨンの元に
走り込んで来た


て て テホグン


その慌てように
何があったと
チェヨンが聞く


スリバンの
スリバンの・・・


テマン落ち着け
スリバンから使いか?


はい あの
ジホが・・・


通せ


その声とほぼ同時に
ジホが勢いよく扉を開けた


いかがした?


師叔が


マンボが?


ああ 元の刺客が
市井に紛れ込んでいると


なんだと!
それで 狙いは?


言ってから青ざめた
市井に潜むとは
まさか屋敷に戻る
天界の医仙を
狙ってのことか?


今 シウルや他の奴も
跡を追っている
チェヨンの旦那も
急がなきゃ


テマン チュンソクは?


見回りに出ています


では 
急ぎ何人か引きつれ
市へ参れ
狙うとしたら
市のはずれだ
あそこは民の死角になる


大護軍 すぐに


俺は先に行く
トクマン 
トクマンはいるか


緊迫したチェヨンの声に
トクマンが駆けつける


王宮の守を固めろ
元の刺客が紛れ込んだ
王様の元へ往け
それからチェ尚宮に
伝えよ


はっ


トクマンが駆け出した
王宮はなんとか
持ちこたえるであろうが

気持ちはウンスに向かい
心がざわめいた

なぜ ともに帰らなかったのか
戦の非常時であることくらい
わかりすぎるくらい
分かっていたではないか

拳で胸を何度も叩いた


もしも もしも
イムジャに何かあったら
俺は 生きて行けぬ


テマンの用意した愛馬チュホン


頼むぞ チュホン
間に合ってくれ


チェヨンはチュホンに
ひらりと跨がる
疾風で衣のたもとが
はたはたとなびいていた


*******


そなたら 何奴!


ヨンファが輿の中を
気にしながら短剣を構えた

ポムもヨンファと
反対側に立ちはだかる


相手は十人ほど
分が悪い
あっという間に
輿が取り囲まれた


ウンスはお腹をなんども
さすりながら

大丈夫
大丈夫

そう繰り返していた


大丈夫よ みぃ
必ずあの人が来てくれる
今まで 一度だって
来なかったことはないわ


剣の交わる音がした


カキーン カキーン と
相対する音がする


お願い チェヨン
早く来て


手練れた刺客がヨンファと
ポムに襲いかかる


医仙様を
決してお渡ししないわ


ポムが声を張る


その時
ポムの右肩を刀がかすめた


衣が斬られ 肩に
ずきりと痛みを感じた
右腕が使えない


逃げ出す訳にはいかない
大切な医仙様
命を懸けてお守りせねば


ポムが動かぬ右手から
左手に短剣を持ち代える

ヨンファはポムが傷ついた
ことに気がついたが
輿の反対側

自分も攻防に必死で
ポムのところに
回り込めなかった

その時ポムの左側から
ビューンと
刺客の刀が振り下ろされた


医仙様 ごめんなさい
・・・・
もう駄目


ポムが覚悟を決めて
ウンスを身を呈して
護ろうとした刹那


どん!


鈍い音がして刺客が倒れた
ポムは刀の先を見る


大丈夫か?
武閣氏が震えてどうする


ポムの肩を庇って
引き寄せた


何も言えないポムに


肩の他に 怪我はないか


武骨だが優しい声がした


こくこくこく
ポムが頷く


輿の外では
ヨンファとともに
ウダルチが刺客を
蹴散らしていた


やっと    チェヨンが
愛馬チュホンとともに
現場に着いた時には

すでに 
ことが収束しつつあった
愛馬チュホンから飛び降り
急ぎ 輿の中を確かめる


おそい!
死ぬかと思った


目に涙をためていた


すまぬ イムジャ
よかった 無事で
チュンソク 礼を言う


輿の扉の外でチェヨンが
チュンソクに言った


はっ 市井の見回りに
出ておりましたので


まこと 助かった


それからチュンソクの
となりで小刻みに震えている
ポムを見た
ポムはチュンソクの袖を
ぎゅっと掴んでいた


ふたたび 輿の中の
ウンスの元へと
チェヨンが向かう
ウンスは手を伸ばして
チェヨンを求めた
輿の中でぎゅっと
抱きしめた
ウンスもかすかに震えていた


怖い想いをさせて
すまなかった
みぃは大丈夫か


うん ふたりで父上を
待っていたから


そうか・・・


だれか 怪我をしたの?


ああ ポムが・・・


え? 
ウンスが
慌てて降りようとするのを 
チェヨンが止めた


どおして?


首を傾げたウンスに
扉の先を指で示した

ポムの斬られた肩を
チュンソクが
自分の衣の切れ端で
止血して
震えるそのポムの肩を
抱いていた・・・


*******


『今日よりも明日もっと』
恋は突然に・・・


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