王宮に続く沿道には
青い紫陽花の花が咲いていた

花びらや葉に雨の雫を乗せ
お日様の光できらきらと
紫陽花が輝いて見える

輿の中では
喉元を気にするように
手鏡で確かめながら
ウンスが言った


目立たないかな?


白粉で印をきれいに隠した
ウンスが尋ねる
少し不満そうにチェヨンが
ああ と答えた


誰にも見せたくない
はーとの形
サランヘヨ と

そうウンスは言ったが
やはり人に見られるのが
恥ずかしいだけ
なのではないかと
ウンスの様子を見て
疑念に思う


ねえ


そんなことを考えていたら
ウンスが呼びかけていることに
気づくのが遅れた


ねえ ヨンってば


あ? いかがした?


出立の儀はいつ頃なの?
それって私も出ていいの?


ああ それは構わぬが


と言いかけて


いや やはりならぬ


と言った


なんで?


人混みゆえ なにかあったら
いかがするのだ


でも アンジェ将軍や
ポムのお兄様を見送りたいわ


俺がそばにいられれば良いが
そうもいかん
王宮の中も人で
ごった返すであろうし
市井の民も
道を埋め尽くすであろう 
やはり危ない やめておけ
よいか 無茶はするなよ


うん・・・


よいな


はい・・・旦那様


釘を刺された
ウンスは渋々頷いた


それからはチェヨンの
膝の上で
しばらく黙って考え事を
していたウンスが
大きなあくびを
ふわわぁとして


ねむい


くたっと チェヨンの胸に
もたれかかると
頬を寄せ
その衣をきゅっと握りしめて
目を閉じた

腕の中にすっぽりと収まった
ウンスを見て
母親に甘える赤子のようだと
チェヨンはくっと笑う

確かに このところ
いささか無体を働いていると
目を閉じたウンスの顔を見やり
肩をそっとさすった
額に口づけ 頭をなでる


あっ


ウンスがつややかな声をあげ
どきりとした


みぃが動いた
ぐるんって


目を開けて チェヨンに
微笑むと
また甘えるように目を閉じた


みぃは変わらず元気だな


うん 
あなたに鍛えられてるから


俺に?


何のことか首をひねる
チェヨンに


うん
だって 毎晩のように
みぃの眠りの邪魔ばかり
そりゃ みぃも強くなるわよ


目を閉じたままウンスが
言った


それは すまなかったな


チェヨンが笑った


うん だから私も眠い


そうか では着くまで
寝ていろ
着いたら起こすゆえ


うん おやすみ・・・


安心する腕の中で
チェヨンの香りに包まれて
ほっとしたら
本気で睡魔が襲ってきて
ウンスは寝息をたてて 
眠ってしまった

チェヨンはしっかりと
ウンスを抱き直すと
膝の重みに幸せを感じながら
自分も目を閉じた


*******


典医寺の診療室で
チェ侍医は 昨日の夕刻を
思い出していた

中庭の大木の下で
小さくため息をついてる
ヨンファを見たとき
疑惑は確信へと変わった

気の勉強会で
チェヨンを煽った時に
「試さずともわかることを
わざわざせずとも・・・
自分が傷つくだけでは
ありませぬか」と
言ったヨンファ

いつも何処か冷めていて
一歩引いてみんなを見ている
だが それはうちに秘めた
熱い想いを 誰にも
悟られぬためかも知れないと
自分に重ねて そう思った

心情は察するにあまりある
なれど 看過できない

チェ侍医はウンスが
傷つかぬ道だけを考えていた



王宮の入り口に輿が到着し
御者に 着きましたと
声をかけられたウンスは
慌てて目を覚ました


ほんとに寝ちゃった


ウンスがすっきりした表情で
チェヨンを見上げると
自分を慈しむような顔で
見ている チェヨンの
視線と合わさった


着いたみたいよ


なんだか どきどきと
気恥ずかしくて
それだけ言うと


ああ そうみたいだな


チェヨンは
名残を惜しむように
もう一度ウンスを抱きしめ
唇を重ねてから


では 参るとするか


戦に部下を送り出す
大護軍の顔になった



輿の前にはいつものように
ポムとヨンファがお出迎え


おはようございます 医仙様


ポムがいつもより
元気のない声で
ウンスに言った
弾けるような笑顔ではなかった


おはよう ポム ヨンファ
ポム 昨日はよく眠れたの?
今朝 王宮に戻ったんでしょう?


はい それが
お母様が泣いてばかりいるもので
気が滅入りました


そう お兄様が出立なさるから
お心が揺れているのね


はい・・・私に屋敷に
戻るようにとそればかり


お寂しいのよ


なれど 私にもお役目が


いいのよ 他の人に
代わってもらっても・・・


そんなぁ~ 医仙様
嫌でございます


ポムが泣きそうになったので
ウンスは慌てて


戯れ言よ 冗談
うふふ 真に受けちゃって
かわいいんだから


ウンスに可愛いと言われた
ポムがやっとにっこりと
笑顔になる


そのやり取りを
愛しそうな眼差しで 
見つめていたチェヨンが 


医仙を頼む


ぽつり ふたりに言う


はっ お任せを
ヨンファが答えた



楽し気に笑いながら
典医寺の診療室に向かって来る
美しいウンスを
窓から眺めていたチェ侍医は 
その横に控えるヨンファの
表情を盗み見る

昨日はあまりに突然
その想いに触れたので
驚きの方が大きくて 中庭で
声をかけられなかったが


やはり 一度 話をするか


と 心に決める


チェ侍医のそんな様子を
サラが心配そうに
見守っていた


*******


『今日よりも明日もっと』
ゆるぎない想い
揺れる想い
いろんな想いが交差する



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