大きな屋敷にふたりきり

チェヨンはウンスが
もう大丈夫と言っても
そばを離れなかった

飯の支度も共にして
食事の時も
手を握ったまま離さない

夕餉が終わると
待っていたように
ウンスを膝に乗せて
そのからだを抱きしめた

いつものように
明るく喋り続けるウンスは
今宵いない
ただ   小さな女の子のように
チェヨンに身を委ねると
おとなしく黙っていた


私だっていっつもべらべら
話してる訳じゃないわ
たまには静かにしてる日も
あるのよ


ウンスは大人の女の顔をして
チェヨンに言った


そうか
なれど言いたいことや
聞きたいことが
あるのではないか
聞くぞ   言うてみ


なんでもない
大丈夫


イムジャ   まだわからぬか
俺の前では我慢するな
遠慮もいらぬ
甘えたければこうして
甘えろ
イムジャには心のままに
生きて欲しいと思うておる
何処かに行ってしまわぬように
俺がしっかり掴んで離さぬゆえ
安心しろ
心配することなど
何もない


だけど
心の狭い女だと思わない?


思わぬ


じゃあ   言うけど
もう二度と
誰かに髪の毛を触らせないで
嫌なの


合い分かった


じゃあ  聞くけど
情を交わした武閣氏がいる
って   あの
いるって   うわさ   本当?


ウンスの声が震えて聞こえた
抱きしめるチェヨンの腕に
さらに力がこもる


誰がそのようなことを


武閣氏のお姉さん達が
話してるのを
偶然聞いたのよ
でもいいの   本当でも
気にしないから   大丈夫
ヨンほどの男    
みんな放って置くわけないもの


自分に言い聞かせるように
言葉を噛み締めながら
ウンスが言った


なんのことか   さっぱり
わからぬが
ほんとに気にならぬのか?


渋い顔をして
チェヨンが言った


俺は気にして貰えた方が
うれしいが   
なれどその噂はありえぬ
第一    男所帯に女人など
一度も部屋に入れたことはない
チュンソクに確かめてみよ
それに大体   それは
イムジャのことではないのか


私?


後にも先にも
あの部屋で共に過ごした
女人はイムジャだけだ


そう言えばウダルチの
新入隊員として配属された
あの時はキ・チョルから
逃れるために
身分や素性を隠したんだった    
と思い出す
だから武閣氏と間違われたのかも?


私ったら  自分に嫉妬してたの?
呆れちゃうわ


ウンスが笑った


その顔を見て
やっとほっとしたように
チェヨンもつられて笑った


でも   でも待って
さっきの件は?
綺麗な武閣氏のお姉さんだった
どうして笑いあってたの?
髪に触れさせたの?
まさか昔付き合っていた
女とか?


ウンスが食ってかかれば
かかるほど
チェヨンは余裕を見せて
なんだか嬉しそうだった


気になるか?


いや  いい
気にしないから


イムジャには
こう言う面もあるのだな


チェヨンはくくっと笑った


呆れたでしょう


いや   まったく
笑いあった記憶はないが
先ほどの武閣氏は
叔母上が可愛がっている
武閣氏らしい


チェ尚宮様が?


叔母上だ   
イムジャの身内になるんだから


チェヨンが少し
誇らしげに言った


えっと   叔母様が?


照れたように言ったウンスに
チェヨンは満足そうに頷いた


ああ   叔母上の話だったから
気を許した
髪に何かついておると言われ
取っただけのこと
もう顔も覚えておらぬわ
イムジャ以外の女人には
興味がないゆえ
だが約束する
もう二度とイムジャ以外に
触れさせぬと


ほんとに?ほんと?
約束よ    武士の約束


ああ   ほんとにほんとだ


良かった


ウンスは嬉しそうに
ふふっと笑った


俺の方こそ   イムジャは
天界が恋しいのかと
やはり帰りたいのかと
不安に思うていた


ヨンが?どおして?


ウンスは本気で
驚いた顔をして
腕の中から
チェヨンを見上げた


イムジャ   俺だって
不安に駆られる
俺に抱かれたことを
後悔してるのではないかと
そう思っておったから


どおして?そうなるの?


このところ
気づけば
ため息ばかりゆえ


ああ   あれ?


ウンスは熱くなってきた
頬に手を当てて言った


違うの
その
そのぅ   逆なのよ!


ウンスが言っちゃったぁ  と
言う顔をした


チェヨンは訳がわからないと
言った面持ちをする


だから
だからね


決まり悪そうにウンスが言う


初めての夜から
もう7日も経つのに
次がないから


チェヨンが真っ赤な
ウンスの顔を見つめ


そうか
それでか
女心とは如何なるものか
俺もまだまだ修行が足らぬ


と   たいそう嬉しそうに
大笑いした


だ   だって
私   慣れてないから
なんかやっちゃったのかな
とか    がっかりさせたかな
とか    若くないし
ぴちぴちって訳じゃないし

それに妻としても
後ろ盾になる親とかもいないし
あなたの力になるものを
持っていないもの
あげられるのは
あなたを想うこの心だけなの


一生懸命言い訳する
ウンスが愛しくて愛しくて
チェヨンは腕の中の宝を
息が出来ないくらい
ぎゅうぎゅう抱きしめた


他には何もいらぬ
イムジャだけおればよい


くるしいわ   ヨン


ぎゅうぎゅうにされたウンスが
助けを求めるように言うと
チェヨンが呟く


そうか   では
もう    何もかも
イムジャに
遠慮しなくてよいのだな


うん    いい


決して離さぬぞ


うん   私も


俺の妻だと皆に
うんと見せびらかす


う   うん?


これから大変だ
俺はイムジャが恋しくて
恋しくて仕方ないゆえ


構わないわ
私もあなたが
恋しくて仕方ないから


そうか
では早速参るか


え?


そうと決まれば話は早い


ええ?


あまり負担をかけぬようにと
自制していたが
もうそれも吹き飛んだ


えええ?
そうだったの?


当たり前だ
よく我慢したと
褒めてほしいぞ


チェヨンはウンスを
そそくさと抱き上げ
その口元に軽く口づけると
闇夜の中に足早に消えた
その足取りはとても
弾んでいたのだった


********


『今日よりも明日もっと』
あなたのことを
もっともっと
真心こめて愛したい




☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*

恋慕三部作
ふたりの心模様を
お届けしました

お楽しみいただけたら
うれしいです

初々しいふたりだった
はずなのに    (^▽^;)
今はすっかり
人目も憚らず
ベタベタ甘々な毎日

それだけ幸せな日々を
積み重ねて来たってこと
かな?と思ってます←言い訳
ε=ε=ε= ヾ(*~▽~)ノ


明日からまた一週間
安寧にお過ごしくださいませ