月夜の中
ふたりを乗せた輿が遠ざかる
門のところで
見送っていたウネが
へへっと笑ってアンジェに言った


あのふたり
相変わらず仲がいいんだから
チェヨンったら
首のところに大きな斑点つけられて
それがうれしいんだから
昔のあいつはどこに行ったって
感じよね


そうだなぁ
まあ そうは言っても
まだ新婚だしな
俺達も昔はあんなもんじゃ
なかったか?


ば ばかなこと言わないでよ
あんな風に
おおっぴろげに 互いを
慕っているなんて気持ち
出す訳ないでしょう


そうであったか?


そうよ
あたしが
義母様に叱られてる時も 
赤ん坊を抱えて
目を回しているときも
しんどいときも
あんたは知らんぷり
だったじゃない


そうか
それは すまなかったな


アンジェがめずらしく
しんみりと言った


この際 言いたいことは
みんな言え
出陣の前に聞いておくから
ウネの不満は戦場に
全部置いてきてやるから


どうしたのよ 気味悪い
雪でも降るんじゃないの?
いまさら 遅いわよ
それになんだかんだと
ほんとは
陰から気遣ってくれてたこと
あたし 知ってたもの
だから我慢できたのよ
義母様の意地悪にも


おいおい 母上はそんなに
意地悪だったか?


そうよ
出かけること一つとったって
気兼ねしてさ 
実家にも帰れやしない
だって
帰ってきたら嫌味ばっかし
なんだもん


そんなもんか?
では 戦で俺がいなくて
お前 大丈夫か?


いまさら なにさ
あたしは
大丈夫に決まってるよ
それより
手柄のひとつでもあげて
義母様を喜ばせなさいよ
最近は牙が抜かれたみたいに
おとなしくなっちゃってさ
喧嘩する張り合いが
ないったらありゃしない

 
ウネがふんと鼻息荒く
捲し立てた


お前は昔から変わらんな
その口の悪いところも
強がりなところも


わるうございました


ウネが笑ってみせた
アンジェがウネに言う 


長年連れ添ってくれて
ありがとな
俺に何かあっても
腹の子はしっかり育てろよ


あんた 馬鹿じゃない?
勝って帰ってくるのに
そんな遺言みたいなこと
言わないでよ
なんかあったら
絶対 許さないんだから
冥土に乗り込んででも
あんたを取り戻すわ


そう言って怒り出した
ウネの肩にアンジェは
そっと手を置いて


腹の子 
お前に似た元気な
女の子だったらいいな
お前が寂しくないように


ウネは何も言わなかった
ただ 戦に出る夫の胸中を
おもんばかり
どうか無事でと 
夫の横顔を見つめていた


*******


輿の中でウンスにしなだれて
酒臭い息を吐きながら
寝ていたチェヨンが
突然 ウンスに向かって
呼びかけた


いむりゃ
いむりゃ
おれはここにいる
おれはここにいるじょ
いむりゃはどこじゃ
どこにおる


今日は浴びるように
酒を呑んでいたな
と ウンスは
目を閉じたまま
管を巻くチェヨンの前髪を
優しくかき分けるように
なでつけた


戦に行くのも 行かぬのも
武士の妻はつらいと
言ったウネ

残される身重の妻を
陰で心配するアンジェ

そして友人や仲間を
戦場に送り出すことが
やりきれない大護軍の夫

誰も幸せにならないのに
どうして人は争いを
やめないのだろう

ウンスは酔っぱらった
夫チェヨンの頭を
胸に抱えた


私はここよ
ここにいるわ
だから心配しないで
寝ていていいわ


ウンスがチェヨンの
頭をいとおしそうに
抱きしめると
チェヨンは鼻先を
ぐりぐりとウンスの胸に
うずめた


いむりゃ いいかおりりゃ
いむりやをすいておるじょ


知ってるわ
私もヨンが大好きよ


ほんとけ?


胸の上で
チェヨンの声がする


うん ほんとよ
どこにもいかない
ずっと 一緒


そおかぁ
いむりゃ 
あいしておるぞぉ


チェヨンが頭を上げて
ウンスの唇をさがす

酒臭い口元がウンスの唇に
吸い付き その柔らかな
感触をもてあそぶように
なんども なんども
吸い付いては離し
吸い付いては離した

それだけでは
足りなくなって
息継ぎをするウンスの
すこし開いた唇の間に
舌を割り込ませると
その甘い舌をからめとる


んんっ 
ちょ ちょっと
だめよ 輿の中で
これ以上はだめ


ならば どこならよいか
いうてみ
いむりゃはどこなら
よいのであるうううか


チェヨンはそのまま
ウンスのお腹の上に
口を当てると


みぃ 
ははうえはいじわるじょ
みぃ
そなたはちちのみかたじょ


と 言って頬刷りをした


もう ヨンたら
お腹の中の子に
何言ってるのよ
みぃは毎晩寝床を荒らされて
迷惑してるんだから
ねえ みぃ
迷惑よね


その時みぃがチェヨンの頬を
ぽんと蹴った


おお ほら いむりゃ
みぃはめいわくしとらぬと
いいよる


違うわよ みぃは
困ってますって
言ってるのよ


みぃ 
こまってらぬなあ


ぽんぽん


ほらぁ~ 
いむりゃのまけじゃ


あきれた
都合のいい解釈なんだから


ウンスが笑った


いむりゃ
いむりゃのわらったかお
ずっと みていたい


うん


わろうてくれるか


うん


愛しさでいっぱいになって
ウンスがチェヨンを呼んだ


おいで チェヨン


ウンスが手を広げて
チェヨンを待つ

チェヨンは素直に
ウンスの胸に頭を預けた


大丈夫よ 心配ない
きっとうまくいくわ
戦も勝つし
アンジェ将軍も無事戻る


ああ わかっておるぞぉ


だから
思いっきりやりたいように
やったらいいわ


ねやで
よいのか おもいっきり


もう ばか


わからぬ
いむりゃ
わからぬぞ


はいはい
閨でね 閨でどうぞ


ウンスが根負けしたように
そういうと
にやりと
笑ったような顔をして
そのままウンスの腕の中で
眠りについた


高麗のこと 戦のこと
私のこと みぃのこと
たくさん背負って
それを人には見せられなくて
苦しい気持ちを
こうして甘えて教えてくれる
チェヨン あなたのこと
あいしているわ


チェヨンのさらさらとした
髪の毛を指で梳きながら
幼子をあやすように
ウンスは呟いた

聞いてか聞かずか
チェヨンの口元が時々上がり
うれしそうに見えた


夢の中で何してるのかしら?
まさか 悪ふざけ?


今宵も暑い夜になる気がする
でもそれは 一緒にいられる
喜びということだ

ウンスは思う


芸術作品に上書きしようかな
幸せの印だもの


輿はふたりを乗せてゆっくりと
屋敷に向かっている

ぎぃ がたんごとん
ぎぃ がたんごとん

車輪がまわる音がする


もうすぐ我が家だ


*******


『今日よりも明日もっと』
強いあなたも 弱いあなたも
優しいあなたも
甘えるあなたも
みんな 丸ごと大好きなの



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