がたりと言う音がして
閨の扉が開いた

夜更けになってやっと
チェヨンが屋敷に
戻ってきたようだった

ウンスは起きて待っているはずが
いつの間にか眠ったみたいで
閨の寝台の端に
うずくまるような姿でいた

物音に気がついて
薄眼を開けてチェヨンを探す

がちゃがちゃと甲冑を外す
音が聞こえた
なんだかいつもより
乱暴な音だ
がたん   ばさり   どすん
どことなくいらついている
そんな音の気がした

チェヨンは楽な衣に
着替えるとウンスのそばに来て


このような姿で寝ていて
疲れやしないか?


そう独り言のように呟いた


ウンスがやっと目を開けて


おかえり
遅かったのね
ヘジャは?


チェヨンに尋ねた


ああ   もう部屋に下がらせた
イムジャ   からだが痛くは
ないのか?
これではみぃにもよくないで
あろうに


珍しく少し
剣のある言い方だった

それから
軽々とウンスを抱き上げ
寝台の上に大切に下ろすと
ウンスの髪に触れた


どうかしたの?


ウンスが尋ねても


別になにも


ウンスはチェヨンの口の
両の端をつまむと
スマイル  と笑った


すまいる?


笑ってみて
怖い顔だわ
なんだかテジャンの頃を
思い出すくらい


チェヨンは
横になっているウンスの
上に倒れこみ
豊かな胸の上に
頬を乗せると
その心音を確かめるように
しばらく聞いていた
とくん  とくんと優しい音がする

ウンスはじっとそのまま
チェヨンを受け止め
頭をゆっくりなでている
やがてやっとチェヨンが
口を開いた


すまぬ
なんだか   気が立っておる
イムジャのせいではない


わかってるわ
もしかして戦のこと?


ああ


軍議が長引いたのね


ああ


明後日出立なんでしょう?


ああ


何かあったの?


何かも何も
まだ準備不足の禁軍まで
急に召し抱えて行くと
言い出すゆえ


え?アンジェ将軍のところ?


ウンスは驚きを隠せなかった 


無駄な血を流さぬよう
味方の犠牲を最小限に考えねば
ならぬのに
策もなにも弄せず
兵を盾くらいにしか
思っておらぬゆえ


そう


アンジェを遣わすのは
まだ早い
あちらの手の内もわからぬのに
数で勝負せよと言われるのが
がまんならぬ


ひとしきり吐き出すように
言ってからチェヨンは
はたと気づき


イムジャに聞かせる話では
なかった


と   ぼそりと告げた


話てくれてうれしいわ
だって夫婦ですもの
テジャンの頃とは違うのよ
なんでも
ひとりで抱えることないわ
あなたは昔から
そういう人だから
黙っていられるほうが
心配なのよ


そうか


チェヨンの話し方から
棘が抜けた気がした


ヨン   
大変だったね
これからきっとまだまだ
大変よね
でも私は必ずヨンの味方よ
そばにいるわ
だから大丈夫
ヨンは思ったとおりにね


イムジャ  
こう言う時に言うのか?


チェヨンがウンスに
おずおずと聞いた


何を?


愛している
イムジャが愛しくて
仕方ない  と


チェヨンの唇が
ウンスを探して頬を彷徨う
頬を横滑りしながら
唇にたどり着くと
ふるふると柔らかな
紅い唇に食らいつく


愛している


私もよ


愛している


うん   だから大丈夫


ずっとそばに


いるわ   大丈夫


安心した幼子のように
チェヨンがウンスを
抱きしめた


やっと穏やかな表情を
取り戻したチェヨンに
ほっとしながら
ウンスは戦に夫を送り出す
ウネを思った


ウネさんは大丈夫かしら?
今度一度訪ねてみようかしら?


チェヨンがウンスの様子に
気がつき


ウネを案じておるのか?


と尋ねた


うん   
少し前に診察に来て以来
様子を見てないし
お腹の子も気になるから
一度お屋敷に
様子を見にいきたいわ
残される妻も
戦っているんだから


そうだな
俺も行こう
アンジェが行く前に


チェヨンがウンスに
優しく言った


闇夜に煌々と月が浮かび
閨の中をあかあかと
照らしている
抱き合うふたりの影は
ひとつのまま
なかなか離れることはなかった


*******


『今日よりも明日もっと』
そばにいたい
抱きしめていたい
あなたの気持ちが軽くなるように



にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村