休んだ次の日まで
遅刻をする訳にはいかないと
ヘジャの力を借りて
なんとか早めに準備を終え
典医寺に心持ち早めに出仕できた

昨夜 
ヨンがしたまっさーじ
途中からおかしなことになって
結局・・・チェヨンンの
思うつぼ

もうヨンには頼まない
でも やっぱり頼もうかな?

ウンスの頬が赤く染まった

チェヨンを思い出すと 
またすぐに 顔を見たくなる
さっきそこで別れたばかりなのに

ここまで来ると
会いたい病は重症かも知れないな

ウンスはひとりごちてから
すでに診療室の机で
勉強会の準備をしていた
チェ侍医に声をかけた


おはよう チェ先生


おはようございます
医仙様


勉強会の準備?


はい 昨日の朝の分は
お休みしましたので 
今朝はみなが待ちかねているかと


そう 迷惑かけて
ごめんなさいね


いえいえ 今日は心の臓について
医仙様のお話がうかがえると
皆楽しみにいたしております


ああ そうだったわ
その準備に早めに来たのよ
どんな話がいいかしらね?
心臓移植とかは無理よね
あんまり天界の専門的な話でも
ピンと来ないしな~
この時代でも起きうる病について
まとめてみようかしら


はい それはいいですね


となりの机でなにやらまとめ物を
しているチェ侍医をちらりと見て


そう言えば 菊花茶のお礼を
いったかしら?
おいしかったわ
あの日 みんなでいただいたのよ
気分がすっきりするわね


そう言いながら忙しそうに
手元で何やら準備をしている

聞いたことのない歌の調べが
ウンスの口から時々漏れる
鼻歌まじりで歌う優しい曲

昨夜も幸せな夜を
過ごされたのだな と
ウンスの態度で一目で分かる

気がついているのだろうか?
抱かれた朝は
たぶん いつも
この歌を口ずさんでいることに

チェ侍医は やや目立ち始めた
ふたりの宝物を眺めながら
そんなことを思っていた


そうですか
気に入って頂いてよかった
まだ いくらでも作れますゆえ
品切れたらいつでも
お申し付け下さい


ありがと ほんとに
気が利くわ
私が生薬嫌いなこと
よくわかるわね


まあ 好きな者のほうが
少ないかと・・・


そうよね うふふ
さて 今日も一日がんばりますか!


ウンスが自分に気合いを
入れかのるように声を張り上げた


あまり 無理なさいませんように


チェ侍医がぼそりと横で呟いた


******


昨日は回診のお休みをいただいた
坤成殿に ウンスは意気揚々と
出向いて行った

手には何時もの往診の道具ではなく
籠を持っている


王妃様 気に入るかしら?


大丈夫ですよ 医仙様
ポムはこの世のものとは
思えぬ位 感動いたしました


おおげさね ポムは


ウンスがふふっと笑って
籠を見る
中からは 甘い香りがした


でも足りなかったでしょう
典医寺でひろげたら
あっという間になくなったから
まだ屋敷に残っているはずだから
帰りに寄って食べて行ってね


まことでございますか?
なんとお優しいお言葉


ヨンファが呆れたようにポムを見る
ポムは感激で胸がいっぱいのようだ
ポムの兄 パク・インギュは
明後日 戦に出立する
ポムには少しでも元気でいて欲しい
それはウンスの心配りであった


坤成殿では 待ちかねた王妃が
ウンスを迎えてくれた
王妃にとってはウンスと会う
この回診のひとときが1日のうちで
心休まるひとときになっていた


おお 医仙
待ちかねておったぞ


王妃様 お加減かわりないですか?
昨日は 急なお休みをいただき
申し訳ありませんでした


よいよい 息災にしてるゆえ
案ずることはない


まったく 王妃様がお優しいからと
言って 夫の休みに合わせて
自分も休むとはなにごとぞ
お役目第一ではないか


横やりが叔母チェ尚宮から入る


すみません 
ウンスが小さくなりかけると


よいではないか チェ尚宮
これから戦もはじまり
大護軍は忙しゅうなる
仲良きふたりがたまの休みを
過ごすくらい 大目に見よ


はあ・・・
王妃様がそう仰せならば・・・
して そのぅ
王妃様への贈り物は出来たのか


ああ はい
これです これ


ウンスはうれしそうに
籠を掲げた


ほぉ 尚宮から話を聞き
楽しみにしておったのじゃ
それが天界式の菓子とな?


はい 王妃様
ひとつはクレープといって
小麦粉を薄く伸ばして焼いた
お菓子なんです
屋敷の庭の桜桃をたくさん
トッピングしてみました


と と と???


ああ 飾り付けたってこと
トッピングっていうんです


天の言葉は 不思議よのぅ


王妃が感心したように
頷かれた


それから ジャムを作って
みたんです
レモンがなかったから
他の柑橘で代用したんです
あまりうまく固まらなくて
でも 雰囲気はわかるかなと


れもん?


ええ 
ジャム作りには欠かせない
果物なの
高麗では手に入らないみたいで


ウンスが言った


そうであったか
手に入らぬかと 西域との
交流の折 尋ねてみようぞ


わあ うれしい
よろしくお願いします
じゃあ これを


ウンスが籠ごとチェ尚宮に
渡すと 卵と砂糖の甘い香りが
ふんわりと辺りに漂い
うっかりチェ尚宮の口元が緩む


じゃあ 先にちゃっちゃと
診察しますから
それから
召し上がってくださいね
今年の桜桃は大豊作で
大護軍とテマンが木登りして
採ったんですよ


ウンスが楽しそうに
そして少し自慢げに
昨日の話を王妃に聞かせる

大護軍への大好きの気持ちが
溢れている話し方だった

王妃は微笑まれながら
昨日の話を聞き入り 
時々ウンスに
天界の菓子について
お尋ねになりながら
診察を終えられた


診察が終わると女官が
うやうやと
青磁のお皿にのせたクレープを
王妃にひとかけら 運んで来る


おお 美しいのぅ


かわせみ色の青磁のお皿に
黄色に赤のクレープが
美しく映えて見えた


このジャムをのせると
更に甘くて美味しいんです


ウンスが白磁器の小さな壷に
入れて持ってきたジャムを
指差して言うと
木匙ですくい取りたらりと
お皿にかけた
お皿の上で桜桃のジャムが
きらきらと光っていた


ほんとは温かいうちに
食べた方が
もっと美味しいんだけど


残念そうに言うウンスに
にこりと笑いかけ
王妃は一口 そっと口に運ぶ


おお これは
なんと美味 
そして なんと甘いのであろう
チェ尚宮も食してみよ


いえ そのような
王妃様の御前で


よいから 早う
ともに味わいたいのじゃ


王妃に促されてチェ尚宮も
女官が用意したものを口に運ぶ


あ~ 何と甘い
そして こうばしい
医仙や
これはまこと美味しいぞ


チェ尚宮のしかめっ面が
ほころんだ


よかった
桜桃の実 まだ沢山あるんです
またジャムにして持ってきますね
そうだわ お饅頭の中に入れても
美味しいかも
いろいろ 試してみようかしら


よいのぅ 医仙は
明るくて妾まで心が和むぞ


王妃がそう言った



王宮の庭園の山桜の実は
鳥たちのえさに変わっていた


きっと 甘いんだわ


ウンスは山桜を見上げた


イムジャ
そんなに上ばかり見て
歩いていたら石につまずくで
あろうに


背後から声がする


くるりと振り向くと
そこにチェヨンがいた


ヨン! どうしたの?
だって 
ここにいるなんて
思わなかったわ


ああ 今から急に軍議で
宣仁殿に向かうところだ


後の方で にやにやと
様子をうかがう
テマンとトクマン 
それにウダルチの面々がいる


顔 見たいと思ってたの
思いが通じたのね


恥ずかし気もなくぽろっと
口からこぼれ出る言葉


それを聞いたチェヨンは
ウンスの耳元に顔を寄せると


俺もイムジャの顔 
見たいと思ってた
やはり 気が合うな


小声で呟く
みぃが父上の声に
反応するかのように
お腹の中をとんとんと
蹴った


あ みぃが


ウンスが言うそばから
チェヨンがそのお腹に
手を当てると
手のひらをみぃがとんと蹴る


相変わらず元気でいい子だ


チェヨンがうれしそうに言った

テマンやトクマン
ポムやヨンファも
その光景を眺めていた


初夏の清々しい風が
ふたりの間を通り抜けた
そこにいたもの達の
優しい想いも運びながら・・・


******


『今日よりも明日もっと』
桜桃の実が運ぶ甘いひとときで
心が弾む 時を過ごす


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